後宮の死体は語りかける

炭田おと

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21_施政者の素質

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「てめえら! 余拓よたくさんに何してくれてんだ!」

 人々を押しのけて、ガラの悪い男達が現れた。

余拓よたくの仲間達が現れたようですね」

 俊煕しゅんき殿下は、また剣を鞘ごと外して、構える。

「俺達とやろうってか!」

 当然、相手も剣を抜いた。剣を抜いた男の数で、敵が六人であることが分かった。

「殿下、下がってください。私が――――」

「女子の影に隠れているわけにはいきません。今度は俺が取り押さえるので、嶺依りょうい殿は見ていてください」

 俊煕しゅんき殿下は、薄く笑った。

 浩成こうせい様がごく自然に、俊煕しゅんき殿下の隣に並ぶ。


 真っ先に斬りかかってきた男が、殿下の剣の餌食になった。


 彼らの攻撃をあっさりかわし、殿下は男達の間を擦り抜けながら、彼らの脇腹や背中、足を次々と殴打していった。


「うっ!」

「ぐっ!」


 大男達がばたばたと、倒れていく様子を目の当たりにして、人々は驚き、中には大口を開けたまま、固まっている人もいた。


 砂埃が立ち上り、視界がわずかに白くなる。


 ――――勝負は、あっさりとついた。


 数分もせずに、男達は全員、地面に伏せていた。


「連行しますか?」

「いや、必要ない」

 俊煕しゅんき殿下は、鞘に剣帯を結び直す。


 ――――そして何を思ったのか、鞘から剣を抜いた。


「・・・・殿下?」

 決着はもう、ついたはずだ。なぜ今、剣を抜く必要があったのか。

「殿下、何を――――」

 浩成こうせい様が止める間もなかった。


 ――――俊煕しゅんき殿下は剣を逆手に持つと、それを勢いよく振り下ろす。


「ぎゃあああああ!」

 腕を剣で貫かれ、余拓よたくさんの口から、絶叫が吐き出された。血が飛び散って、石畳を汚す。


 あまりのことに、誰もが呆然と立ち尽くしている。


 殿下は余拓よたくさんの腕から剣を引き抜くと、血を拭き取り、鞘に納めた。それから、群衆のほうを振り返る。


「言いがかりをつけ、店主を脅した者達は罰した」

 群衆に向かって、俊煕しゅんき殿下はそう言い放った。冷酷なことをしたのに、俊煕しゅんき殿下の横顔は涼しいままだ。


 すっと、背筋が凍えるのを感じる。


「今後、このような悪行を行う者は、同じ目に遭うことになるだろう。そのことを、肝に銘じるように」


 群衆は静まり返り、一人、また一人と、俊煕しゅんき殿下の前にひざまずく。


「・・・・殿下は、陛下に似ているな」

 仲弓ちゅうきゅうさんが私の隣に立ち、そう呟いた。

「・・・・ええ、そうですね」

 悪行を重ねてきた者を、群衆の前でひどく痛め付けることで、人々に恐怖を与えようとしたのだろう。余拓よたくさんのように横暴にふるまい、罪のない人を痛め付けるなら、厳しく罰するということを示して見せたのだ。

 そのやり方には、ある程度の効果があったようだ。人々は息をこらし、殿下の顔色を窺っている。


 礼儀正しく、真面目で、優しい方だと思っていた。


 でも今、私は俊煕しゅんき殿下の別の一面を見たようだ。秩序を乱す者を、容赦なく処断する、冷酷な一面を。


「・・・・穏やかで優しいだけでは、狐狸妖怪こりようかいだらけの政の世界で、施政者しせいしゃとして生き抜くのに不向きだと言えます。師匠から、古今を通じて、清廉潔白な君主などいなかったと聞きました。・・・・いいえ、違いますね。清廉潔白な方は、君主として存在できなかったのでしょう。その点では、俊煕しゅんき殿下は陛下から正しく、上に立つ者の資質を受け継いでいると言えます」

「・・・・ああ、まったくその通りだ」


 背筋を伸ばして立つ俊煕しゅんき殿下の姿には、どこか威厳が感じられて、殿下が本来なら私達では目通りもできないような、雲の上の存在なのだということを、あらためて思い知った。


 余拓よたくさんは仲間達に抱えられ、去っていった。彼は体面を失ったので、今後は悪さはできないだろう。


 それを見届けて、殿下が私達のところに戻ってくる。


「・・・・お見苦しいところをお見せしました」

「いいえ。殿下、お怪我はありませんか?」

「大丈夫です。それでは、雲来旅館うんらいりょかんに――――」


「殿下」

 浩成こうせい様が近づいてきた。


「どうした?」

「帰りが遅れて、和紫皇宮わしこうぐうの門が閉じてしまいました」

 どうやらこの騒ぎに巻き込まれている間に、皇宮の門が閉じてしまったようだ。俊煕しゅんき殿下と浩成こうせい様は、皇宮に帰り損ねてしまった。

「・・・・俺達のためだけに、門を開けてもらうのは申し訳ない。今日は雲来旅館うんらいりょかんに泊まることにしよう」

「・・・・申し訳ありません、殿下」

嶺依りょうい殿が謝ることではありません。悪いのは、あの男達でしょう。それよりも、今日は疲れましたね。早く休みましょう」

 そう言って、殿下は柔らかく笑ってくれた。


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