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25_子供はどこへ?
しおりを挟む「翠蘭のことが、ある程度わかってきました」
翌朝、独秀殿下の屋敷に向かう道すがら、私達は翠蘭さんについて話しあっていた。
この日のために、俊煕殿下は馬車を用意してくれていた。だけど馬車は二人乗り、殿下は私と仲弓さんに乗るようにと言ってくれたけれど、仲弓さんが馬に乗ると言って固辞したので、私と殿下が乗ることになった。
仲弓さんと浩成様は馬に乗り、馬車の隣をゆっくり進んでいる。さらにそのまわりを、数名の侍衛が守ってくれていた。
独秀殿下の屋敷を目指してから、すでに数刻、薄暗かった空はすっかり明るくなっていた。
「大官の情報によると、翠蘭はある高官の庶子だったようです」
浩成様が、新たにわかった情報を教えてくれた。
「庶子なので令嬢としては扱われず、貴人に見染められたとしても、正室にはなれません。翠蘭の父親は、見目がいい娘が商人の側室になるよりは、宮女として内廷に送り出して、陛下に見染められる可能性にかけたほうがいいと考えたようです」
「翠蘭さんのお父上は、娘が行方不明になっているのに、どうして騒がなかったんでしょう?」
「父親は、翠蘭を内廷に送り込んだ後、賄賂を受け取っていた罪を暴かれ、一族全員が流罪になったんです。翠蘭だけは、曹貴妃様が庇ったこともあり、流刑を免れたようです。流刑地にいる父親とは連絡が取れなかったでしょうから、翠蘭は孤独な身の上だったでしょう。性格は、生真面目だったようです」
「・・・・真面目な宮女が、陛下以外の男と密通するでしょうか?」
仲弓さんが、そう言った。
「真面目だからこそ余計に、独秀殿下のような軽薄な男性に騙されてしまったのかもしれません」
「ええ、叔父上は、口から先に生まれたようなところがありますから」
「・・・・・・・・」
浩成様と俊煕殿下の台詞が、失礼すぎる。
「宮女に限らず、身分の低い者達は、宮廷貴族を雲の上の存在だと思っています。だから尊い生まれの方ならば、内面も美しく、誠実であると思い込んでいたのかもしれません。・・・・俊煕殿下のように、実際に馬鹿がつくほど真面目な方もいらっしゃるから、余計に思い込みも強くなるのでしょう」
「・・・・・・・・」
浩成様の失礼な物言いに、俊煕殿下は渋面になってしまう。笑ってはいけないと思いつつ、笑いをこらえることができなかった。
「翠蘭は十二の時に内廷入りし、それ以後、内廷から離れたのは一度だけです。五年前、体調を崩し、曹貴妃様からご温情を賜り、遠方の地にある曹貴妃様のご実家の御用邸で、養生したそうです。そして半年ほどのち、再び内廷入りしています」
「腹が目立ちはじめる時期に、御用邸に向かったのでしょうか。もし嶺依の推測通り、出産していたのだとしたら、その時しかありえないでしょう」
妊娠初期はまわりの目を誤魔化せても、後期となるとお腹も目立つようになっているだろうから、隠すことは無理だろう。
「・・・・ということは、曹貴妃様は、翠蘭の懐妊を知っていたということになるのでしょうか?」
頭に浮かんだ疑問を、口にする。その疑問に、浩成様が答えてくれた。
「知っていなければ、御用邸で休ませたりしないだろう。どういった意図で出産に協力したのかはわからぬが、単純に醜聞を恐れただけ、とも考えられる。・・・・だが、問題はその後だ。曹貴妃様は、翠蘭を内廷に戻している」
「十二の時に内廷に入ったのだとしたら、他の仕事をするのは難しいでしょう。皇宮を追い出されたら、親子ともども、路頭に迷ってしまいます」
「その通りだ。曹貴妃様は、それを哀れんだのかもしれぬ。そのことを考えると、曹貴妃様はまわりが思っているほど冷淡ではなく、実は情が厚い方なのかもしれないな」
醜聞を恐れて内廷から追いだしたのだとしても、その後呼び戻して、復職させている。翠蘭さんと子供の将来を考えて、そうしたのだとしたら、曹貴妃様は噂とは違い、慈悲深い方なのかもしれない。
「しかし、本当に翠蘭が子を授かっていたとなると――――その子は、どこに行ったんだ?」
浩成様が難しい顔で、そう呟く。
翠蘭さんが子供を産んでいたとすると、その子供はどこに行ったのだろうか。そこが最大の疑問だ。
「醜聞を隠すために、親族が引き取ったと考えるのが妥当だが・・・・」
俊煕殿下がそう言った。
「ですが殿下、翠蘭は天涯孤独の身です。子供を引き取る人間がいませんよ」
「子供が一人で生きていけるはずもないし・・・・」
翠蘭さんが半年しか静養していないこと、その後すぐに内廷に戻ってきていることを考えると、子供とは生後間もなく、引き離されているはず。
「出産は、曹貴妃様の手を借りなければ、無理だったはずだ。であれば、子供も貴妃の関係者に預けられたと考えるのが妥当ではないでしょうか」
浩成様の推測が、もっとも理にかなっているように思える。
――――だけど、どうしても違和感がぬぐえない。
大官達は、曹貴妃様のことを、二つの顔を使いわける女性と評価していた。陛下や客人として扱われている私達よりも、普段から顔を合わせている大官や宮女のほうが、曹貴妃様のことをよく知っているはずだ。
実際に、罰として一生消えない傷を負わせるなど、曹貴妃様には冷酷な一面も垣間見えている。
その冷たい人物像と、翠蘭さんの扱いから感じられる温かい人物像が、交わらない。
水と油のように、曹貴妃様の印象が定まらなくなるのだ。
「・・・・今の段階で、結論を出すのは早いだろう。まずは、叔父上に会って話を聞かねば」
殿下にそう言われ、浩成様は頷いた。
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