後宮の死体は語りかける

炭田おと

文字の大きさ
29 / 56

28_皇太弟の行方_後編

しおりを挟む
「・・・・叔父上を助けなければ」

「さりとて、殿下を危険な場所へ向かわせることはできません」

 浩成こうせい様は強く食い下がった。

「・・・・殿下、こんな時こそ、冷静になるべきです。やはり西京せいきょうに引き返し、兵を連れてきましょう。森の捜索には、時間がかかります。人手が必要です」

 浩成こうせい様は空を見上げた。

「・・・・それに、今から捜索するとなると、日暮れまでに街に戻れません。日暮れ後の捜索は、危険すぎます。それに、昨日戻らなかったということは、独秀どくしゅう殿下は、もう――――」


 浩成こうせい様は、途中で口ごもる。俊煕しゅんき殿下に睨まれたからだ。


「・・・・まだ何もわからぬうちに、めったなことは言ってはならない」

「・・・・申し訳ありません」


 生死がわからないうちに、もう死んでいると決めつけるのは不吉なことだ。浩成こうせい様もよくないことだと気づいたのか、俯いて、黙ってしまった。

 私は仲弓ちゅうきゅうさんと顔を見合わせた。仲弓ちゅうきゅうさんも同じ考えだったのか、頷いてくれる。


 獣が相手ならば、私達が培ってきた知識が役に立つかもしれない。


俊煕しゅんき殿下、私達が代わりに、捜索に向かいます」


 私達の前に出て、膝をついた。


「私達は学はありませんが、狩猟を生業とする身ゆえ、獣に対応する知識は持っています。だから、ここは私達にお任せください。殿下は西京せいきょうに戻り、人集めをお願いします」

 殿下はすぐに、首を横に振った。

「あなた達だけを、危険な場所に向かわせるわけにはいきません」

「殿下」

 浩成こうせい様が、殿下の腕を引く。

「・・・・彼らは、厳しい土地で暮らしている者達です。今は彼らの気持ちに甘えましょう。我々は、西京せいきょうで人を集め――――」


「駄目だ」


 殿下の声が、より厳しくなる。


 西京せいきょうの通りで、ごろつきに囲まれた時ですら、俊煕しゅんき殿下の声は静かだった。殿下の大きな声を聞いたのは、この時がはじめてかもしれない。


「二人だけを行かせるわけにはいかない。俺も行く。皇宮への報告は、他の者に任せよう」

「殿下――――」

「もう決めたことだ。これ以上は、何も言うな、浩成こうせい

 浩成こうせい様が食い下がろうとしたけれど、有無を言わせぬ口調で言いきられて、口をつぐむしかなかったようだ。


 俊煕しゅんき殿下がそう決めたのなら、私達にはもう何も言えない。侍衛じえいの方々も戸惑っている様子だったけれど、彼らも殿下の決定には逆らえないだろう。


湛左たんさ、そなたが俺の代わりに皇宮に戻り、父上にこのことを報告してから、兵を貸してくれるよう、頼んでくれ」

「承りました」

 湛左と呼ばれた侍衛じえいは、一秒でも時間が惜しいとばかりに、素早く拱手をすると、馬に飛び乗った。

「では、参りましょう」

「・・・・はい」


 森に向かっていく俊煕しゅんき殿下の後ろ姿を見て、不安を覚えたものの、私達には止められなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

幼馴染に10年片想いしてたら、冷酷御曹司にプロポーズされました

ほーみ
恋愛
 春の匂いが、駅前の並木道をくすぐる。満開の桜の下、私はひとり歩いていた。駅までの道は、高校時代、彼とよく歩いた道だ。  制服姿の学生が笑いながらすれ違っていくのを横目に、私はスマホを見下ろした。  「今日、伝えるって決めたんじゃなかったの?」  送信したきり返信のないメッセージ。画面には「既読」の文字があるだけだった。  ――渡瀬 湊。私が10年間片想いをしている、幼馴染。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

君に恋していいですか?

櫻井音衣
恋愛
卯月 薫、30歳。 仕事の出来すぎる女。 大食いで大酒飲みでヘビースモーカー。 女としての自信、全くなし。 過去の社内恋愛の苦い経験から、 もう二度と恋愛はしないと決めている。 そんな薫に近付く、同期の笠松 志信。 志信に惹かれて行く気持ちを否定して 『同期以上の事は期待しないで』と 志信を突き放す薫の前に、 かつての恋人・浩樹が現れて……。 こんな社内恋愛は、アリですか?

モテ男とデキ女の奥手な恋

松丹子
恋愛
 来るもの拒まず去るもの追わずなモテ男、神崎政人。  学歴、仕事共に、エリート過ぎることに悩む同期、橘彩乃。  ただの同期として接していた二人は、ある日を境に接近していくが、互いに近づく勇気がないまま、関係をこじらせていく。  そんなじれじれな話です。 *学歴についての偏った見解が出てきますので、ご了承の上ご覧ください。(1/23追記) *エセ関西弁とエセ博多弁が出てきます。 *拙著『神崎くんは残念なイケメン』の登場人物が出てきますが、単体で読めます。  ただし、こちらの方が後の話になるため、前著のネタバレを含みます。 *作品に出てくる団体は実在の団体と関係ありません。 関連作品(どれも政人が出ます。時系列順。カッコ内主役) 『期待外れな吉田さん、自由人な前田くん』(隼人友人、サリー) 『初恋旅行に出かけます』(山口ヒカル) 『物狂ほしや色と情』(名取葉子) 『さくやこの』(江原あきら) 『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!』(阿久津)

処理中です...