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34_狩場にいる女_後編
しおりを挟む「・・・・っ!」
殿下と敵の動きに気を取られて、背後が疎かになってしまっていたようだ。後ろから体当たりされ、私は俯せに倒れる。
幸い、柔らかい土が、痛みを軽くしてくれた。
「この女は、俺がもらうぞ!」
男は、私の身体を軽々と持ち上げる。抵抗する間もなく、私は米俵のように、肩に担ぎ上げられてしまった。
「その方に触るな!」
殿下が剣を振るうも、他の男達が妨害する。
「こんな場所に、女を連れてくるからだ!」
私を担いだ男は、身を翻そうとした。
――――その前に、私は靴の中に隠し持っていた短剣を抜き、男の背中側の肩に、刃を突きたてた。
「うぎゃあああ!」
男は絶叫する。
さらに短剣の柄をひねって、刃を肉の中にねじ込んだ。男は再び絶叫し、私を放り投げる。
私は身体を回転させ、なんとか足から着地する。
「このくそ女!」
様子を見ていた仲間達が、私に飛びかかってこようとした。
けれど立ち上がりながら、私が血が付いた短剣を向けると、彼らは怯み、金縛りに遭ったように動かなくなる。
「・・・・なぜ真面目な殿下が、狩場に女を連れてきたのか、その理由をもっと深く考えておくべきでしたね」
笑いかけたけれど、賊は誰一人、笑顔を返してはくれなかった。
彼らははじめから、私を見くびっていた。
だとすれば、その油断を利用しない手はない。
「・・・・お前、女のくせに戦うつもりなのか」
「この地域の常識は知りませんが、私の故郷では女も戦いますよ。斬りかかられたことも、誰かを斬ったことも、すでに経験済みです」
短剣では戦いにくい。私は短剣を捨て、あらためて、剣を抜き放った。
「・・・・だから、殿下もご心配なく」
「頼もしいかぎりです」
殿下は、笑顔を返してくれた。
残りは四人――――いや、三人だ。
「うう・・・・」
私を連れ去ろうとした男は痛みにのたうちまわり、立ち上がれそうにないし、最初に殿下の攻撃を受けた目元に傷がある男も、致命傷ではなかったものの、腹部から出血していて、戦えないだろう。
「残りは三人のようだな。・・・・これならば、逆転も容易かろう」
俊煕殿下がじわりと間合いを縮めると、男達は怯えた様子を見せた。
「・・・・!」
風を切る音が聞こえ、私達の間に矢が突き立つ。
「ぐあ!」
さらにもう一本の矢が、まだ立っていた男の腕に突き刺さる。
「ご無事ですか、殿下!」
浩成様の声が飛んできた。
暗くて姿は確かめられないけれど、草藪を掻き分けながら近づいてくる物音は聞こえてくる。
「くそ、ここまでだ! 撤退するぞ!」
いち早く逃げ出したのは、目元に傷がある男だった。
彼の指示を聞いて、他の男達も身を翻す。
「逃がすと思っているのか!?」
今度は、仲弓さんの声が聞こえてきた。
仲弓さんの姿も見えなかったものの、彼らと刺客は、暗闇の中で何度か切結んだようだ。闇の中に白刃の光が閃き、刃音が聞こえてきた。
加勢することもできたけれど、伏兵がいる可能性も残っている。独秀殿下と振玉様を背中で守っている状況では、うかつに動けなかった。
殿下も同じ考えのようで、その場から動こうとしなかった。
仲弓さんと浩成様が、敵を捕らえてくれることを願う。
――――だけど、願いは届かなかったようだ。
しばらくすると、斬り合う音が聞こえなくなり、足音が近づいてきた。
「お怪我はありませんか、殿下!」
「ああ、怪我はない」
現れたのが浩成様と仲弓さんであることを確かめて、殿下は剣を鞘に収めた。
「独秀殿下もご無事で、何よりです。・・・・しかしながら」
「・・・・敵は逃がしたか」
「・・・・申し訳ありません」
浩成様は跪き、深く項垂れた。
「気にするな。彼らは、なかなか強かった。それよりも今は、叔父上達の無事を祝おう」
お互いの無事を確認し合ったあと、私達の視線は、背後で一本の木のように立ち尽くしている独秀殿下に向かっていた。
「・・・・・・・・」
もう敵は消えたのに、独秀殿下はいまだに、ぶるぶると震えている。
「もう大丈夫ですよ、独秀殿下」
「は、はいぃっ!」
私が軽く肩を叩くと、彼は兎のように跳ね上がった。
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