後宮の死体は語りかける

炭田おと

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51_壁の中の死体の真相_五

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 長い話を聞き終えた陛下は、身体中の空気が抜けてしまうような、長い長い溜息を吐き出した。


「・・・・沙汰さたに困る話だ」

 そして、陛下は呟く。


「そなたの話には、筋が通っている。だが、しょせんすべて、推測でしかない。裏付けるもっと確かな証拠が出てこぬかぎり、沙汰さたを下せぬ」

「もちろんです、陛下。今の私の話はすべて、推測に過ぎません。ですから、静養地の御用邸ごようていを、調べてもらいたいのです」

「・・・・御用邸ごようていか」

「入れ代わりが起こったのだとしたら、それは正廷せいてい殿下が静養されていた御用邸ごようていで行われたはずです。隠蔽に、多くの人が関わったはず。・・・・ご遺体を埋めるのも、数人ではできません」

「関わった者を捜せ、ということか」

 陛下は顎を撫で、しばらく考え込んでいた。

「陛下、あの――――」

曹貴妃そうきひ、今は黙っておれ」

「・・・・・・・・」

 曹貴妃そうきひ様は、申し開きをしようとしたのだろうか。陛下に言葉を奪われてしまったから、曹貴妃そうきひ様が何を言おうとしたのか、知ることはできなかった。


「・・・・わかった。正廷せいていが一年を過ごした土地に人をやり、調査させよう」


「感謝します。陛下」

 私はひざまずき、額づく。


俊煕しゅんき、調査はそなたに任せる」

「はっ! 拝命いたします」

 俊煕しゅんき殿下もひざまずき、拝礼した。


「・・・・最後に、何か言うことはあるか? 嶺依りょうい


 私が退室する前に、陛下が最期に、声をかけてくれた。


 私は少し、考える。


「恐れながら、皇帝陛下。褒美について、申し上げたいことが――――」

「まだ何も明らかになっておらぬのに、褒美の話をするか!」

 やはり不謹慎だったのか、さっそく一人の武官に噛み付かれてしまった。

「よい。・・・・嶺依りょうい、望みがあるのなら、申せ」

 陛下が武官をとりなして、あらためて聞いてくれた。


「私達の望みはジェマ族の安全であり、それ以上に望むことはありません。ですから、もし私の推測が正しかったのなら――――私への褒美として、どうか正廷せいてい殿下は免責をお願い申し上げます」


 ざわめきがまた、広がっていった。


「殿下は、大人達の思惑に利用されただけ――――ですがそんな殿下も、皇太子を名乗った罪で、ともに裁かれることになるでしょう」


 幼い正廷せいてい殿下に、罪はない。それは、誰もがわかっていることだ。


 けれど沙汰さたを論じるさいは、はなはだ理不尽なことに、正廷せいてい殿下にも罪はあるという流れで進むことだろう。


 正廷せいてい殿下をそのままにすれば、後継者問題が絡んでくるからだ。


 陛下が自分のお子ではないと認定しても、次の時代に、誰かが正廷せいてい殿下を担ぎ上げるため、この問題を持ち出すかもしれないのだ。


 そうなると、後継者問題は複雑になる。


 ――――皇子と言えども火種となるならば、他の者と一緒に処刑し、後継者問題が芽吹く前に摘んでしまう、というのが今の皇宮のやり方だった。


「しかしそれは、あまりにも酷です。だからどうか、一蓮托生で裁かれることがないよう、お願い申し上げます」

 床に手を突き、叩頭こうとうする。私の全身に注がれる視線は、戸惑いを含んだものになっていた。


「陛下、私からもお願い申し上げます」

 俊煕しゅんき殿下が隣に並び、そう言った。


「兄上・・・・ではなく、陛下! 私からも、なにとぞご慈悲を!」


 独秀どくしゅう殿下までもが飛び出してきて、床に頭を打ち付ける勢いで、叩頭こうとうした。


 ふむ、と陛下は唸る。


「・・・・わかった。だが、そなたたちに言われずとも、私とてはじめから、幼い子を手にかけるつもりはない。そこまで冷血漢ではないぞ」


 陛下は笑った。


 そうして、長い話は終わったのだった。


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