公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり

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公爵家・茶会編

30.謝る天使と怒りの令嬢

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「私の不注意です。本当にごめんなさい……」

 深く頭を下げるアンジェラ。

 先程の陽気な声音とは違い、深く沈んだ口調からは彼女なりの謝罪の気持ちが込められているのが分かる。

「アンジェラお嬢様、なりません。貴女様は……」

 心配そうに小声で告げる侍女マイリーの言葉を「マイリー良いの。それ以上は言わないでね」と遮るアンジェラ。

 貴族としての生活様式に慣れ始めたばかりのアンジェラだが、まだ本格的な教えを受けているわけではない。それは貴族社会へと仲間入り出来るレベルでは無いということ。しかも、運の悪いことに侍女姿に身を窶しているアンジェラ。

 お気付きだろうか?

 相手が貴族の令嬢である以上、今のアンジェラは対等ではないのだ。気安い態度は反感を招く。

 思った通り、相手の令嬢の癪に触ったようだ。

「はっ、ごめんなさい? それが赦しを乞う態度なの? 私はヘイスティング侯爵家の令嬢なのよ。私とあなたとでは格が違うのよ。格がっ! 侍女の分際で生意気なのよ。ごめんなさいではないでしょう! と言いなさい」

 居丈高に告げるヘイスティング侯爵家の令嬢。名はバーバラ。閉じた扇子をアンジェラの顎へと突き出しては「さぁ、早く謝罪なさい!」と催促。

 (なんて高慢ちきな、ご令嬢! 当家のアンジェラお嬢様に無礼だわ!)

 侍女マイリーが密かに憤慨する。

 方や、争いごとを好まないアンジェラは居住まいを正し、改めて深く頭を下げては謝罪の言葉を口にしようとした途端。侍女マイリーが割って入る。

「それ以上は成りません、アンジェラお嬢様。それとヘイスティング家のお嬢様……扇子は人に向けるものではありません」

 差し向けられた扇子をやんわりと押し返す侍女マイリー。アンジェラの前へと出れば、怒りが冷めやらないヘイスティング侯爵令嬢バーバラへと平伏してみせる。

「ヘイスティング家のお嬢様……貴女様にご迷惑をお掛けしたことは不慣れな此のお方に代わり、私から改めて謝罪を致します。どうかお赦し下さいませ」

「あなたなどに用はないわ。私はその侍女に言っているのよ。はっ? 何が名門公爵家よ! 侍女の一人も躾られないようでは、グラント公爵家も大したことはないわね!」

 グラント公爵家を批判するような言葉を吐くヘイスティング侯爵令嬢バーバラ。その辛辣な言葉には、集まりだした貴婦人方が恐れ慄く。

「何と云う無礼なことを……!」

 戦々恐々。

 貴婦人方中にはヘイスティング侯爵夫人の姿も見える。彼女の顔が青褪めているのは気のせいではない。

 陽気なお茶会から一変して騒つく庭内へと激変。


 ◇


 遂には、静観していた先代グラント公爵夫人ハリエッタが、漸く事態の収集を図る為にアンジェラの元へと歩み出す。

 実は、知っていたのだ。

 孫娘アンジェラが侍女姿に身を窶し、茶会へと紛れ込んでいたことを知った上で、敢えて黙認していた先代グラント公爵夫人ハリエッタ。孫娘アンジェラを愛するがゆえに、自由にさせていた節もある。

 だが、それだけではない。

 貴婦人方が集う社会界の重鎮である彼女は、1人1人の人となりや行動にも常に注意を払っている。

 悪く言えば、一挙一動を監視している。


 認められた者だけが招かれるグラント公爵家の茶会。今回、ヘイスティング侯爵家からは、招かれざる客人が参加している。

 主催者の許しなく連れてきたことには譲歩した先代グラント公爵夫人ハリエッタは、ヘイスティング侯爵夫人の行為も「今回だけは……」と大目に赦す。

 一方で、高慢ちきな娘バーバラの不遜な態度と孫娘アンジェラへの仕打ちには、もはや我慢の限界。

 先代グラント公爵夫人ハリエッタのこめかみには青筋がピシッと走る。ひどく冷めた眼差しが、相手を畏怖させるには充分。

「大目に見たのが間違いのようね、ヘイスティング侯爵夫人。社交デビュー前だからといい、彼女の高慢な態度や物言いは赦されものではないわ。1人娘を甘やかすのは仕方がないにしても……1人の人間としては、きちんとマナーを教えるべきだったわね? 高慢過ぎるのはいただけないわ」

「あっ……申し訳ございません、奥方様! 貴家への不敬な言動には私からも深く謝罪致します。どうか、どうか平にご容赦下さい!」

 そう告げるなり、娘バーバラの行動を諌める為に踵を返すヘイスティング侯爵夫人。

 ただ、彼女は少々思い違いをしている。

 先代グラント公爵夫人ハリエッタが憤慨しているのは、当家への不敬な言語以上に、相手が侍女だからといって高慢な態度で臨むヘイスティング侯爵令嬢バーバラの人となり。


「……アンジェラは、私の大切な孫娘なのよ」


 それが何を意味するのかを知った頃には遅い。

 もはや、後の祭り。




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