【完結】婚約者はお譲りします!転生悪役令嬢は世界を救いたい!

白雨 音

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三人を探し、教室棟の階段まで来た時、上から声が聞こえてきた。
踊り場にその姿が見え、わたしは息を顰め、身を隠すと、耳を澄ませた。

「あの人、どうして食堂に来たのかしら…」

《あの人》とは、十中八九、《わたし》だろう。
自分の陰口を聞くなんて、いい気はしないわね…
だけど、これも無事にトゥルーエンドに導く為よ、我慢、我慢!

「席替えをしたり、食堂に来たり…
きっと、何か企んでいるのよ!あたし、怖いわ…」

怖がらせたみたいね…
だけど、ヒロインから嫌われるのは良い事よね?
パトリックとブランドンに頼るのは喜べないけど…

「怖がる事は無いよ、エリー、何かあっても、僕らが付いてる」

パトリックが真剣にエリーを慰めている。
もう!パトリックは優しいんだから!そんなんじゃ、悪女に騙されちゃうわよ!!
どう邪魔をしようかと頭を捻っていた時、意外な発言が耳に届いた。

「けどさー、俺には、あの女がそんな悪い奴には見えねーんだよなぁ…」

ブランドンだ!
彼は単純で、本能的、直感型だ。
わたしに悪意が無い事は分かるみたいね…
ありがとう、ブランドン!持つべきものは、単細胞の友達ね!!

「実は、僕もなんだ…
これまで話した事が無かったから、彼女を誤解していたのかもしれない…」

パトリックまで!
ああ~ん!ありがとう♪
だが、喜ぶのは、そこまでだった___

「皆、騙されてるのよ!あたしがどんな目に遭ってきたか…皆には分からない!」

高らかに言い、泣き崩れるエリー…

「エリー!ごめん、君の気持ちも考えずに…」
「そうだったな、エリー、悪かった…」

慰める声が遠くなる…

わたしは手に持っていた果実を一口齧った。

大袈裟過ぎて、舞台を観ているみたいだったけど…
そこまで、追い詰められているって事よね…

エリーに酷い事をしたのは事実だ。
平民女と馬鹿にし、身形を貶し、教科書を破り、踏み付け…
挙句、階段から突き落とそうとしていた…

「怖がられても、当然よね…」

果実をもう一口齧ろうと口を開いた時だ…
何かが足元に触れ、わたしは「ひゃっ!」と飛び上がった。
その拍子に、手から果実が滑り落ちる…

「ああ!わたしのデザート~~!!」

手を伸ばそうとしたが、それよりも早く、黒い物体がそれを攫って行った。

「!??」

ギョッとするも、よく見ると、それは黒猫で、戯れる様に果実を齧っている…

「もう、誰の猫なの?」

ペットは飼って良い事になっているが、それは寮の中だけだ。

「学園に連れて来るなんて…それとも、脱走してきたの?
首輪が無いから、捨て猫かしら?」

だが、捨て猫にしては毛並みが良く、痩せてもいない。

「まぁ、いいわ、あげるわよ、お腹が空いているんでしょう?」

尤も、『あげる』と言う前に、既に半分食べられているが…
動物が好きだった、前世の気持ちが蘇った事で、ほっこりとした。

前世では、実家で犬を飼っていた。
大学生になり、家を出てからは、ペットを飼う事など出来なかった。
ペットが居れば、少しは癒された気がする…

「アラベラも、何か飼えば良かったのに…」

尤も、アラベラは自分以外、興味が無かったので、
動物を飼ったとしても、世話などしないだろう。
自分の面倒も見れないのだから!
わたしは「やれやれ」と頭を振り、腰を落とし、黒猫の丸い背を撫でた。
短い毛は、フワフワとしていて、触り心地が良い。

「ふふ、ねぇ、あなた、わたしに飼われたい?」

黒猫は顔を上げ、「ニャー」と鳴くと、わたしの肩に飛び乗り、
頭を蹴って何処かへ行ってしまった。

流石、猫…
異世界でも猫はツンデレなのね…
でも、この塩加減が、堪らなく好きよ!

「だけど、頭は踏み台にしないで欲しいわ!髪型が崩れちゃうじゃない!」

毎朝、ハンナにせっせと巻いて貰ってるのに!

わたしは急いで教室に戻り、鞄から手鏡を取り出し、
頭が鳥の巣になっていないか、あれこれと角度を変え、確認した。


「ドレイパー、どうかしたの?」

予鈴が鳴り、席に戻って来たパトリックが、
手鏡を手に悪戦苦闘しているわたしに気付き、怪訝な顔をした。

「さっき、猫に頭を踏み台にされたのよ!鳥の巣になっていないか見ていたの…」

「ぶっ!!どわっはっはっはっは!!」

遠慮なく吹き出し、豪快に笑ったのは、ブランドンだ。
失礼な奴ね!!

「もう!笑う事無いでしょう!紳士じゃないわ!パトリックを見習いなさいよ!」

そう言って、パトリックを振り返ると、彼は赤い顔をし、口元を手で押さえていた。

「パトリック~~??」

わたしが頬を膨らませて睨むと、パトリックは「笑ってないよ!」と慌てて言い、
誤魔化す様に、授業の準備を始めた。

「パトリック、髪型が崩れない魔法って無いの?」
「おい、ドレイパー、俺にも聞けよ!」
「あら、ごめんなさい、ブランドン、知ってるの?」
「知らん!」

全く、ブランドンは自己中だから…
わたしは「やれやれ」と頭を振り、パトリックに向き直った。

「ごめん、考えた事が無かったから…」

それもそうね、男だもの、お洒落好きかナルシストでもなきゃ、
髪型なんて気にしないわよね。
それに、パトリックの白金色の髪は、羨ましい程に、サラサラだ。

「でも、調べてみるよ」

パトリックが言ってくれ、わたしは飛び上がった。

「ありがとう、パトリック!あなたって、本当に良い人ね!」

お人好し過ぎて心配になるけど!助かるわ!

「いや、その、別に君の為という訳じゃなくて…役に立つ事だから…
知っておいて損は無いし…」

何やらぶつぶつと言い訳をしているが、わたしは上機嫌だったので気にならなかった。


◇◇


あの日以降、わたしは昼食を食堂で摂る事にし、
エリー、パトリック、ブランドンの席に押し掛けた。
それが続けば、周囲も気付き、ブランドンの隣には誰も座らなくなった。
恐れられているのだろうけど、都合が良いので、甘んじている。

わたしの目的は、世界の平穏、トゥルーエンドだもの!
細かい事なんて、気にしていられないわ!

ちなみに、ドロシアとジャネットも、嫌な顔をしつつ、くっついて来ている。
彼女たちは将来の為にも、《公爵令嬢》と親しくしておきたいのだ。

その努力は認めるけど、うれしくは無いのよね…

貴族社会では《普通》の事ではあるが、利害関係しかないなんて、虚しいだけだ。


「放課後、試合するから、応援に来いよ___」

既に食事を半分以上お腹に収めたブランドンが、隣を向き、エリーを誘った。
ブランドンの声は無駄に野太いので、普段は煩く耳が痛い位なのだが、
盗み聞きしたい時には便利だ。

「うん!絶対行くね!」

エリーが可愛らしく返事をする。
むむ…良い雰囲気ね…

「ブランドン、試合に出るの?何の試合?」

わたしはさり気なく、会話に割り込んだ。
瞬間、エリーは顔を顰めて俯いたが、
鈍感なブランドンは、あっさりと振り返り、ニヤリと笑った。

「部活だよ、格闘部、たまにトーナメント戦をやるんだ」

格闘部?殴り合いかしら?
野蛮そうで顔を顰めてしまうが…ブランドンは好きそうだ。
エリーは応援に行くみたいだけど…
そんなの、観なきゃいけないなんて、ヒロインも大変ね…

「ブランドンは格闘部だったのね、剣術部かと思ったわ」

戦が起こった時には、学園生ながら騎士団に所属し、活躍していた。
まぁ、死ぬんだけど…
将来を知る由も無いブランドンは、得意気に話した。

「勿論、剣術部にも入ってるぜ!他にも、呼ばれれば何処でも行くけどな!」
「助っ人?凄いわね!無敵じゃない!」
「ははは!まーな!」

ブランドンは豪快に笑う。

ブランドンは、エリーと結ばれたら、戦で死ぬ事になる。
彼を無敵でいさせてあげる為にも、エリーとの恋路は邪魔しないとね!

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