【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、癒されるより、癒したい?

白雨 音

文字の大きさ
23 / 34

23

しおりを挟む



リゼットたちと料理を取りに行った先で、テオと合流した。

「リゼットが迷惑を掛けていない?」
「はい、とても楽しかったですわ」

リゼットがわたしの隣からヒョコリと顔を出すと、テオに笑みを見せた。

「お兄様、フルールをお返ししますわ!お寂しそうですもの!」
「ありがとう、フルールが居なくて寂しかったよ」

テオはさらりと言い、わたしの腰を抱く。
婚約者としては当たり前かもしれないが、偽物の立場では慣れる事は無い。
からかわれている気がする。

「フルールも僕が一緒じゃなくて、寂しかった?」

ほら、こんな風に…
からかわれている、お芝居だと分かっていても、赤くなってしまう。

「寂しかったです…」

わたしが俯き小声で返すと、テオは「ふふふ」と笑いを零し、
リゼットと友達は何故か「きゃー!」と黄色い声を上げ、走って行った。

「フルール、何を食べる?」
「わたしは飲み物を…果実水はあるでしょうか?」

上がってしまった熱を下げたかった。
テオはそれを取り、「はい、フルール」と渡してくれた。
果実水で喉を潤し、気持ちを落ち着けていると、数名の若者が話し掛けて来た。

「おい、テオフィル!おまえ、婚約したんだって?」
「彼女が婚約者かい?紹介してくれよ!」

皆テオの知り合いらしい。テオはわたしを紹介した。

「フルール=メルシェ伯爵令嬢、僕の婚約者だよ。
彼らはヒューゴの従兄弟で、エリック、ロラン、ピエール、ジャン、皆、隣国の音楽学校に留学中なんだ。
皆、フルールを怖がらせないでくれよ」

「よろしく、フルール!」
「婚約おめでとう!」
「テオの婚約者に会えるなんて、わざわざ来た甲斐があったよ!」
「結婚式には是非呼んで欲しいな、君たちの為に曲を作るよ!」

皆気さくでいい若者たちだった。
わたしは挨拶をしてから、会話の邪魔にならない様に少し離れ、眺めていた。
そこに、綺麗に着飾った三人の令嬢が近付いて来た。

「テオフィル様の婚約者の方でしょう?」
「伯爵令嬢でしたかしら?」
「メルシェ伯爵家なんて、聞いた事ありませんわね」

好意的で無い事は直ぐに分かった。
高圧的に見降ろされ、わたしは怯んだ。
だが、テオの婚約者として、色々言われるのは承知の上だ。ヒューゴからも忠告されていた。
わたしは『心を強く持たねば』と自分に言い聞かせた。だが…

「そのドレスは何処で買われましたの?随分、古めかしいですわね」
「それに、髪型もいけませんわ!」
「もっと洗練されていませんとね、テオフィル様が恥を掻きますわよ!」
「このペンダントも!こんな小さな石、見た事ありませんわ!」

ドレスはイザベルが自慢にしているロアナのデザインで、自分の為に用意してくれた物だ。
そして、ペンダントは、今日の為にテオが選んで贈ってくれた物…
わたしが身に着けている事で、全て台無しにしてしまっているのでは…!
わたしは怖くなり、無意識にペンダントの石を握った。

「お帰りになっては?あなたの様な方にはいて貰いたくありませんわ」
「この場が穢れますもの」

冷たく追い詰める言葉に、わたしの頭は真っ白になる。
陥落寸前だったが、肩を強く掴まれ、わたしは我に返った。

「僕の婚約者を苛めないでくれないかな」

テオの声に、わたしは安堵し、詰めていた息を吐いた。

「テオフィル様!私達は苛めてなどおりませんわ!」
「ええ、仲良くしたいと思っていた処ですの…」

彼女たちは取り繕おうとしたが、テオは許さなかった。

「悪いけど、全て聞こえていたよ、あまりに酷いので聞くに堪えなかったけどね…
僕もフルールも、ヒューゴから招待されて来ている。主催者でもない君たちから『帰れ』と言われる筋合いはない筈だ。
暴言を吐かれ、侮辱されるなんて論外だよ。
僕に言わせれば、君たちの様な者こそ、この場に居て欲しく無い。
だが、ヒューゴが招待したのなら仕方ない、お互い我慢するしかないね」

テオはわたしを連れて行く。
彼女たちは一言も言い返せなかった。


「ごめんね、君に辛い思いをさせてしまって…」

テオの声は沈んでいた。
その暗い横顔に、わたしは息を飲んだ。

「テオ様の所為ではありませんわ!」
「いや、君から離れるべきでは無かった、婚約者として失格だよ」

いつもわたしを放っていたジョルジュが聞いたら何と思うだろうか?
尤も、相手がわたしだったから、彼は放っておいたのかもしれないが…
わたしはその考えを、頭を振って吹き飛ばした。

「テオ様、わたしは、大丈夫です、家柄も釣り合いませんし、何か言われるだろうという事は承知していましたので、どうか気になさらないで下さい」

テオは足を止め、嘆息した。

「とても、そんな風には見えなかったよ、倒れてしまうんじゃないかと思った…」

テオの言う通りだ。
テオが助けてくれなければ、あの場でみっともなく倒れていただろう。
あの日の様に…
テオもそれを思い出したのかもしれない、
心配してくれる彼の心が有難く、心に沁みる。
わたしは感謝を込めて言った。

「でも、わたしは倒れていませんわ、テオ様が助けて下さいましたから」

「君は優しいね」

オリーブグレーの瞳が、じっと、わたしの目を覗き込む。

吸い込まれそうだ…

まるで時間が止まったかの様だったが、
テオが「ふっ」と笑い、現実に引き戻された。

「僕はもっと、頼りになる婚約者にならなければね」

あなた以上に頼りになる婚約者はいませんわ…
そう言っても、自分に厳しいテオは納得しないだろう。
わたしは、そっと、その手に触れた。

「期待しておりますわ、婚約者殿」

わたしの冗談にテオは笑い、ギュっと、わたしの指先を握った。


途中でヴィクと合流し、わたしたちは三人で庭園を見て周った。
その後、料理を取り、テーブルに着き、会話と演奏を楽しんだ。
パーティの終盤で漸く解放されたヒューゴは、辟易した様子で、わたしたちのテーブルにやって来た。

「参ったよ、話しが長げーの!」
「仕方ないだろう、おまえは主賓だ」

ヴィクは冷たく切り捨てたが、飲み物を渡していた。
ヒューゴはそれを一気に飲むと、「おかわり!」とグラスを上げた。
ヴィクはすかさず、二杯目を渡す…その見事さに思わず目を丸くした。

「息がピッタリですね…」
「そうだろう?」

わたしとテオがこっそりと交わすと、ヒューゴがわざとらしく咳払いをした。
その頬は薄ら赤い…ヒューゴは軽く見せているが、本当は照れ屋だと、最近分かってきた。

「それはそうと、さっきは悪かったな、フルール」

ヒューゴに言われ、わたしはきょとんとした。

「意地の悪い女共に絡まれてただろ、一応、俺の客だし、俺に責任があるからなー」
「いえ、ヒューゴ様には関係の無い事ですので、謝らないで下さい!」
「ありがとなー、全く、人のパーティに来て、問題を起こすなっつーの!」
「実際の所、招待客は選べないからね」
「ああ、顔も名も知らないヤツ等が大半だよ」
「おい、そんな事より、フルール、何かされたのか?」

ヴィクが顔を顰め、心配してくれた。

「いえ、少し…言われただけです」

大した事は無いという風に流そうとしたが、ヒューゴが遮った。

「酷いんだよ!あいつら、何でもかんでもケチ付けやがってさー!
まぁ、テオも言ってやってたし、それで十分恥を掻いてた訳だけどな…
おまえら、その後の顛末、知りたくない?」

ヒューゴがニヤリと悪い笑みを浮かべ、わたしは嫌な予感に眉を寄せた。
だが、テオもヴィクも「知りたい!」と身を乗り出したのだった。
ああ…類友でしたね…

「おまえらが去った後、おまえの可愛い妹リゼット嬢が、友達を連れ、颯爽と登場だ!」

『先程、姉にドレスをどちらで買われたのかお聞きになっていらしたので、
姉に代わり、あたしがお答え致しますわ!』
『姉のドレスは、ロアナ=ル・ブランの新作ですの』
『このドレスはその色違いで、母のドレスもロアナのデザインですわ』
『ロアナの店は王都にもあるので、ご存じの方もいらっしゃるのではないかしら?』

リゼットが周囲を伺うと、貴婦人や令嬢たちは顔を見合わせ、頷いた。

『ええ、勿論、知っているわ』
『ロアナのドレスは人気ですもの!』
『デザインが新しくて、洗練されていて…才能豊かな方ですわ!』

リゼットはその声に満足し、顔色を悪くしている令嬢たちに向けて更に言った。

『ロアナのドレスを古めかしいと言われた方は初めてですわ、
参考に、ロアナに伝えておきますわね』
『それと、髪型が洗練されていないとか?あたしも姉とお揃いにしていますが、お見苦しければ謝りますわ』

リゼットが周囲にそれを見せつけると、『とっても可愛いわ』と声が上がった。

『ああ、それと、姉のペンダントですが、婚約者であるあたしの兄からの贈り物ですの。ペンダントを貶すという事は、我が兄を、婚約者として落第者だとおっしゃりたいのね?』
『ここまで恥を掻かされ、その上、場を穢す、帰れと言われるのでしたら、
グノー家一同、喜んで帰らせて頂きますわ!』

リゼットの高圧的な目に、令嬢たちは口々に非礼を詫び、逃げる様にその場を立ち去った。

『皆さま、楽しいパーティの中、お騒がせして申し訳ありませんでした』

リゼットは周囲に詫び、去ろうとしたが、ヒューゴの従兄弟たちが引き止めた。

『グノー家の皆さんには、ヒューゴの為にも居て貰わなければね!』
『僕たちからも、客の非礼をお詫びします』
『どうか、ヒューゴの為にも、最後までいらして下さい』
『許して下さるなら、どうぞお手を___』

従姉たちはリゼットと友達をダンスに誘い、少女たちを笑顔にした。
小さな令嬢たちが、年上の立派な若者とダンスをする姿は、微笑ましく、周囲を和やかな気分にさせたのだった。


「いやー、リゼット嬢の行く末は、イザベル様だな!あの威厳といったら!末恐ろしいよ!」
「そう、それで、ヒューゴ、リゼットと踊ったのは誰かな?エリック?ロランかな?それともピエール?ジャンも居たね?」
「妬くなよ、何れはリゼット嬢だって結婚するんだからな、早く妹離れしろ」

ヒューゴに言われ、テオは不満気に頬を膨らませていた。
時々子供の様だ。
その可愛らしさに、わたしはこっそりと笑ったのだった。


パーティが終わり、わたしは馬車に向かうリゼットを呼び止め、礼を言った。

「ヒューゴ様からお聞きしました、わたしの為に言って下さり、ありがとうございました、大丈夫でしたか?」

わたしは、リゼットが傷付いていないか心配だったが、
リゼットは何処までも明るく、生命力に満ちていた。
その青い瞳をキラキラと輝かせ、得意気に言った。

「フルールを護るのは当然よ!あたしたち、家族になるのだもの!」

家族…
罪悪感に、ズキリと胸が痛む。

「フルールを苛める人は誰だって許さないわ!あたしに任せて!」
「ありがとうございます、リゼット、頼もしいですわ」

リゼットはうれしそうな笑顔を見せた。
そして、馬車に乗り、見えなくなるまで手を振っていた。

明るく可愛いテオの妹…
これ程慕って貰えるなんて、夢みたいだ。
でも、この先、わたしの義妹になる事は無い…

アンドリュー、イザベル、リゼット…
皆良い人で大好きだが、どれだけ好きでも、家族にはなれない___
それが、酷く寂しかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の妹を助けたい、ただそれだけなんだ。

克全
恋愛
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月10日「カクヨム」恋愛日間ランキング21位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング33位

【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

秋月一花
恋愛
 旅芸人のひとりとして踊り子をしながら各地を巡っていたアナベルは、十五年前に一度だけ会ったことのあるレアルテキ王国の国王、エルヴィスに偶然出会う。 「君の力を借りたい」  あまりにも真剣なその表情に、アナベルは詳しい話を聞くことにした。  そして、その内容を聞いて彼女はエルヴィスに協力することを約束する。  こうして踊り子のアナベルは、エルヴィスの寵姫として王宮へ入ることになった。  目的はたったひとつ。  ――王妃イレインから、すべてを奪うこと。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

処理中です...