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しおりを挟むリゼットたちと料理を取りに行った先で、テオと合流した。
「リゼットが迷惑を掛けていない?」
「はい、とても楽しかったですわ」
リゼットがわたしの隣からヒョコリと顔を出すと、テオに笑みを見せた。
「お兄様、フルールをお返ししますわ!お寂しそうですもの!」
「ありがとう、フルールが居なくて寂しかったよ」
テオはさらりと言い、わたしの腰を抱く。
婚約者としては当たり前かもしれないが、偽物の立場では慣れる事は無い。
からかわれている気がする。
「フルールも僕が一緒じゃなくて、寂しかった?」
ほら、こんな風に…
からかわれている、お芝居だと分かっていても、赤くなってしまう。
「寂しかったです…」
わたしが俯き小声で返すと、テオは「ふふふ」と笑いを零し、
リゼットと友達は何故か「きゃー!」と黄色い声を上げ、走って行った。
「フルール、何を食べる?」
「わたしは飲み物を…果実水はあるでしょうか?」
上がってしまった熱を下げたかった。
テオはそれを取り、「はい、フルール」と渡してくれた。
果実水で喉を潤し、気持ちを落ち着けていると、数名の若者が話し掛けて来た。
「おい、テオフィル!おまえ、婚約したんだって?」
「彼女が婚約者かい?紹介してくれよ!」
皆テオの知り合いらしい。テオはわたしを紹介した。
「フルール=メルシェ伯爵令嬢、僕の婚約者だよ。
彼らはヒューゴの従兄弟で、エリック、ロラン、ピエール、ジャン、皆、隣国の音楽学校に留学中なんだ。
皆、フルールを怖がらせないでくれよ」
「よろしく、フルール!」
「婚約おめでとう!」
「テオの婚約者に会えるなんて、わざわざ来た甲斐があったよ!」
「結婚式には是非呼んで欲しいな、君たちの為に曲を作るよ!」
皆気さくでいい若者たちだった。
わたしは挨拶をしてから、会話の邪魔にならない様に少し離れ、眺めていた。
そこに、綺麗に着飾った三人の令嬢が近付いて来た。
「テオフィル様の婚約者の方でしょう?」
「伯爵令嬢でしたかしら?」
「メルシェ伯爵家なんて、聞いた事ありませんわね」
好意的で無い事は直ぐに分かった。
高圧的に見降ろされ、わたしは怯んだ。
だが、テオの婚約者として、色々言われるのは承知の上だ。ヒューゴからも忠告されていた。
わたしは『心を強く持たねば』と自分に言い聞かせた。だが…
「そのドレスは何処で買われましたの?随分、古めかしいですわね」
「それに、髪型もいけませんわ!」
「もっと洗練されていませんとね、テオフィル様が恥を掻きますわよ!」
「このペンダントも!こんな小さな石、見た事ありませんわ!」
ドレスはイザベルが自慢にしているロアナのデザインで、自分の為に用意してくれた物だ。
そして、ペンダントは、今日の為にテオが選んで贈ってくれた物…
わたしが身に着けている事で、全て台無しにしてしまっているのでは…!
わたしは怖くなり、無意識にペンダントの石を握った。
「お帰りになっては?あなたの様な方にはいて貰いたくありませんわ」
「この場が穢れますもの」
冷たく追い詰める言葉に、わたしの頭は真っ白になる。
陥落寸前だったが、肩を強く掴まれ、わたしは我に返った。
「僕の婚約者を苛めないでくれないかな」
テオの声に、わたしは安堵し、詰めていた息を吐いた。
「テオフィル様!私達は苛めてなどおりませんわ!」
「ええ、仲良くしたいと思っていた処ですの…」
彼女たちは取り繕おうとしたが、テオは許さなかった。
「悪いけど、全て聞こえていたよ、あまりに酷いので聞くに堪えなかったけどね…
僕もフルールも、ヒューゴから招待されて来ている。主催者でもない君たちから『帰れ』と言われる筋合いはない筈だ。
暴言を吐かれ、侮辱されるなんて論外だよ。
僕に言わせれば、君たちの様な者こそ、この場に居て欲しく無い。
だが、ヒューゴが招待したのなら仕方ない、お互い我慢するしかないね」
テオはわたしを連れて行く。
彼女たちは一言も言い返せなかった。
「ごめんね、君に辛い思いをさせてしまって…」
テオの声は沈んでいた。
その暗い横顔に、わたしは息を飲んだ。
「テオ様の所為ではありませんわ!」
「いや、君から離れるべきでは無かった、婚約者として失格だよ」
いつもわたしを放っていたジョルジュが聞いたら何と思うだろうか?
尤も、相手がわたしだったから、彼は放っておいたのかもしれないが…
わたしはその考えを、頭を振って吹き飛ばした。
「テオ様、わたしは、大丈夫です、家柄も釣り合いませんし、何か言われるだろうという事は承知していましたので、どうか気になさらないで下さい」
テオは足を止め、嘆息した。
「とても、そんな風には見えなかったよ、倒れてしまうんじゃないかと思った…」
テオの言う通りだ。
テオが助けてくれなければ、あの場でみっともなく倒れていただろう。
あの日の様に…
テオもそれを思い出したのかもしれない、
心配してくれる彼の心が有難く、心に沁みる。
わたしは感謝を込めて言った。
「でも、わたしは倒れていませんわ、テオ様が助けて下さいましたから」
「君は優しいね」
オリーブグレーの瞳が、じっと、わたしの目を覗き込む。
吸い込まれそうだ…
まるで時間が止まったかの様だったが、
テオが「ふっ」と笑い、現実に引き戻された。
「僕はもっと、頼りになる婚約者にならなければね」
あなた以上に頼りになる婚約者はいませんわ…
そう言っても、自分に厳しいテオは納得しないだろう。
わたしは、そっと、その手に触れた。
「期待しておりますわ、婚約者殿」
わたしの冗談にテオは笑い、ギュっと、わたしの指先を握った。
途中でヴィクと合流し、わたしたちは三人で庭園を見て周った。
その後、料理を取り、テーブルに着き、会話と演奏を楽しんだ。
パーティの終盤で漸く解放されたヒューゴは、辟易した様子で、わたしたちのテーブルにやって来た。
「参ったよ、話しが長げーの!」
「仕方ないだろう、おまえは主賓だ」
ヴィクは冷たく切り捨てたが、飲み物を渡していた。
ヒューゴはそれを一気に飲むと、「おかわり!」とグラスを上げた。
ヴィクはすかさず、二杯目を渡す…その見事さに思わず目を丸くした。
「息がピッタリですね…」
「そうだろう?」
わたしとテオがこっそりと交わすと、ヒューゴがわざとらしく咳払いをした。
その頬は薄ら赤い…ヒューゴは軽く見せているが、本当は照れ屋だと、最近分かってきた。
「それはそうと、さっきは悪かったな、フルール」
ヒューゴに言われ、わたしはきょとんとした。
「意地の悪い女共に絡まれてただろ、一応、俺の客だし、俺に責任があるからなー」
「いえ、ヒューゴ様には関係の無い事ですので、謝らないで下さい!」
「ありがとなー、全く、人のパーティに来て、問題を起こすなっつーの!」
「実際の所、招待客は選べないからね」
「ああ、顔も名も知らないヤツ等が大半だよ」
「おい、そんな事より、フルール、何かされたのか?」
ヴィクが顔を顰め、心配してくれた。
「いえ、少し…言われただけです」
大した事は無いという風に流そうとしたが、ヒューゴが遮った。
「酷いんだよ!あいつら、何でもかんでもケチ付けやがってさー!
まぁ、テオも言ってやってたし、それで十分恥を掻いてた訳だけどな…
おまえら、その後の顛末、知りたくない?」
ヒューゴがニヤリと悪い笑みを浮かべ、わたしは嫌な予感に眉を寄せた。
だが、テオもヴィクも「知りたい!」と身を乗り出したのだった。
ああ…類友でしたね…
「おまえらが去った後、おまえの可愛い妹リゼット嬢が、友達を連れ、颯爽と登場だ!」
『先程、姉にドレスをどちらで買われたのかお聞きになっていらしたので、
姉に代わり、あたしがお答え致しますわ!』
『姉のドレスは、ロアナ=ル・ブランの新作ですの』
『このドレスはその色違いで、母のドレスもロアナのデザインですわ』
『ロアナの店は王都にもあるので、ご存じの方もいらっしゃるのではないかしら?』
リゼットが周囲を伺うと、貴婦人や令嬢たちは顔を見合わせ、頷いた。
『ええ、勿論、知っているわ』
『ロアナのドレスは人気ですもの!』
『デザインが新しくて、洗練されていて…才能豊かな方ですわ!』
リゼットはその声に満足し、顔色を悪くしている令嬢たちに向けて更に言った。
『ロアナのドレスを古めかしいと言われた方は初めてですわ、
参考に、ロアナに伝えておきますわね』
『それと、髪型が洗練されていないとか?あたしも姉とお揃いにしていますが、お見苦しければ謝りますわ』
リゼットが周囲にそれを見せつけると、『とっても可愛いわ』と声が上がった。
『ああ、それと、姉のペンダントですが、婚約者であるあたしの兄からの贈り物ですの。ペンダントを貶すという事は、我が兄を、婚約者として落第者だとおっしゃりたいのね?』
『ここまで恥を掻かされ、その上、場を穢す、帰れと言われるのでしたら、
グノー家一同、喜んで帰らせて頂きますわ!』
リゼットの高圧的な目に、令嬢たちは口々に非礼を詫び、逃げる様にその場を立ち去った。
『皆さま、楽しいパーティの中、お騒がせして申し訳ありませんでした』
リゼットは周囲に詫び、去ろうとしたが、ヒューゴの従兄弟たちが引き止めた。
『グノー家の皆さんには、ヒューゴの為にも居て貰わなければね!』
『僕たちからも、客の非礼をお詫びします』
『どうか、ヒューゴの為にも、最後までいらして下さい』
『許して下さるなら、どうぞお手を___』
従姉たちはリゼットと友達をダンスに誘い、少女たちを笑顔にした。
小さな令嬢たちが、年上の立派な若者とダンスをする姿は、微笑ましく、周囲を和やかな気分にさせたのだった。
「いやー、リゼット嬢の行く末は、イザベル様だな!あの威厳といったら!末恐ろしいよ!」
「そう、それで、ヒューゴ、リゼットと踊ったのは誰かな?エリック?ロランかな?それともピエール?ジャンも居たね?」
「妬くなよ、何れはリゼット嬢だって結婚するんだからな、早く妹離れしろ」
ヒューゴに言われ、テオは不満気に頬を膨らませていた。
時々子供の様だ。
その可愛らしさに、わたしはこっそりと笑ったのだった。
パーティが終わり、わたしは馬車に向かうリゼットを呼び止め、礼を言った。
「ヒューゴ様からお聞きしました、わたしの為に言って下さり、ありがとうございました、大丈夫でしたか?」
わたしは、リゼットが傷付いていないか心配だったが、
リゼットは何処までも明るく、生命力に満ちていた。
その青い瞳をキラキラと輝かせ、得意気に言った。
「フルールを護るのは当然よ!あたしたち、家族になるのだもの!」
家族…
罪悪感に、ズキリと胸が痛む。
「フルールを苛める人は誰だって許さないわ!あたしに任せて!」
「ありがとうございます、リゼット、頼もしいですわ」
リゼットはうれしそうな笑顔を見せた。
そして、馬車に乗り、見えなくなるまで手を振っていた。
明るく可愛いテオの妹…
これ程慕って貰えるなんて、夢みたいだ。
でも、この先、わたしの義妹になる事は無い…
アンドリュー、イザベル、リゼット…
皆良い人で大好きだが、どれだけ好きでも、家族にはなれない___
それが、酷く寂しかった。
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