【完結】《BL》溺愛しないで下さい!僕はあなたの弟殿下ではありません!

白雨 音

文字の大きさ
13 / 24

13

しおりを挟む


ランベールの姿を見なくなって、十日が経つ。
その間、僕は読書やお祈りをして過ごしたが、ふと気づくと、ぼんやりとしてしまっていた。

「ランベール様…どうしているかな?」

会えなくて寂しいと言ってくれた。
その時は、大袈裟な気がしたが、こうして、長い間顔を見ないと、
寂しいし、心配になった。

「視察と言っていたけど、何処へ視察に行ったのかな?」

全く聞かなかった自分に驚く。
悶々としていた僕は、それに気付いた。

「ステファニー様も、お一人だよね?」

ステファニーの愛するザカリーは、ランベールの護衛だ。
当然、ザカリーもランベールに付き、一緒に視察に行っただろう。

僕はステファニーに会い、視察の事を教えて貰う事にした。

僕は第三王子に相応しい恰好に着替えると、離宮を出て、王城へ向かった。
城の事は、クリストフから少し聞いていて、王太子、王子たちが暮らす区域は把握していた。
とはいえ、他の者に会えば、影武者だとバレる可能性が高くなる…

「なるべく、人とは会わずに過ごすつもりでいたのに…」

『ステファニーに会って、ランベールの話を聞く』という目的が、僕を動かした。


城に入ろうとすると、衛兵が恐ろしい顔で睨んで来たが、
直ぐに、《クリストフ》だと気付いた様で、顔色を変えた。

「こ、これは、クリストフ殿下!失礼致しました!どうぞ、お通り下さい!」

「ああ、ありがとう」

《クリストフの顔》は役に立ちそうだ。

僕は上手く衛兵たちからステファニーの居場所を聞き出し、
何とか部屋へと辿り着いた。

「王太子妃、クリストフ殿下がお見えです!」

衛兵が扉に向かって声を掛けると、「お入りなさい」と返事があった。
扉が開かれ、僕は中に入る。
そこは恐ろしく広く、豪華な部屋だった。
ステファニーは美しく着飾り、長ソファに座って編み物をしていた。

「二人だけにして頂戴」

ステファニーが言うと、侍女たちは部屋を出て行った。
それを確かめてから、ステファニーは嘆息した。

「ああ、息が詰まるったらないわ!クリストフ、どうぞ、お掛けになって」

僕は椅子を勧められ、座った。

「あなたが来てくれて助かったわ、お互い、退屈よね?」

ステファニーが顔を顰め、肩を竦める。
やはり、ザカリーも居ない様だ。

「ステファニー様、兄殿下がどちらに視察に行かれたか、ご存じですか?」

「視察?そう、ランベールは視察だと言ったのね…」

「視察ではないのですか?」

「ええ、あなたを心配させたくなかったんでしょう。
今、北地方の部族とサンセット王国の間で紛争が起こっているの。
国に援軍の要請が来てね、ランベールが騎士団を率いて向かったわ」

「!!」

思ってもみなかった事に、僕は愕然となった。
ステファニーが安心させる様に続けた。

「ランベールは賢いし、有能な指揮官だから、大丈夫よ。
それに、ザカリーも付いているわ」

だが、とても安心する事など出来なかった。
体の震えが止まらず、僕は無意識に祈りの手になっていた。

「もっと、詳しく教えて下さい…」

僕はステファニーから詳しく話を聞いた。

グランボワ王国の北地域の国境を跨ぐと、先住民族であるゾスター部族の土地がある。
ゾスター部族の土地は荒廃していて、これまで攻め入る様な国は無かったのだが、
この度、サンセット王国の国王が亡くなり、新国王となったオディロンが、
新たな領土として、ゾスター部族の土地に目を付けたらしい___

「でも、サンセット王国は、あんな土地を領土にして、どうするつもりかしら?
作物もあまり育たない、放牧にも不向きな土地よ?
ゾスター部族の者たちを奴隷にするつもりかしら…」

「サンセット王国の人たちにとっては、違うのかもしれませんね…」

攻め入って奪おうとする程だ、利も無く、そんな事はしないだろう。

ゾスター部族の長は、グランボワ国に援軍を要請した。
グランボワ王国とゾスター部族の繋がりは、グランボワ王国の建国の際に、
ゾスター部族が力を貸した事に始まる。
以来、ゾスター部族の危機にはグランボワ王国が助け、グランボワ王国の危機には、
ゾスター部族が助ける、そういう約束が結ばれていたのだ。

ランベールは騎士団に籍があり、陣頭指揮を執る事になった。
第二王子アンドレも騎士団の副団長として同行している。
そして、大勢の騎士団員や傭兵たちが、紛争を終息させる為に向かった___

「僕にも、何か出来ないでしょうか…」

ステファニーは頭を振った。

「あなたは騎士団には籍が無いもの…剣を握った事さえないでしょう?」

その通りで、僕は暴力とは無縁に生きて来た。
いや、いつも、暴力を受けない様、逃げてきた…

「私たちに出来る事は、信じて待つ事位よ」

自分が酷く情けなく思えた。





僕はいつか通った隠し通路を通り、礼拝堂へ行き、祈りを捧げた。

ランベールが無事でいるように…

ランベールの事を思えば思う程に、僕はあの夜の事を悔いた。
ランベールがどんな思いで、僕の所に来たのか…

『今夜は、一緒に寝てもいい?』
『一緒に寝るだけ、何もしないから、お願い、クリス』

『抱きしめるだけで、我慢するよ』

『気持ち良くしてあげようか?』
『私はもっと、おまえを触りたいよ』

『神様は許してくれるよ、自然の事だからね…』

あんなに僕を求めていたのに…

僕は、拒絶した。
怖かったんだ。
神に背く事が、自分が穢れる事が…
抜け出せなくなりそうな自分が…
必死で、自分を守っていた。

「だけど、知っていたら、拒絶なんてしなかった!」

ランベールは何も言ってくれなかった。
僕が断れない事を知っていたからだ___

彼は優しいから…
僕を愛してくれているから…

「!!」

僕は自分の膝を拳で叩いた。

どうして、彼の事を考えてあげられなかったのだろう!
彼に訊けば良かったんだ!

どうしたの?
何かあったの?
少し、変だよ、お願いだから、僕に話して…

幾ら後悔しても、あの時は、もう、戻らない___

「ああ、どうか、お願いです!我が神よ!ランベール様を無事に帰して下さい!」


◇◇


僕はゾスター部族の事を調べる事にした。
サンセット王国が何を狙っているのか。
ステファニーの言葉から察すると、その事に気付いている者はいない。
それが分かれば、少しはランベールの役に立てるのではないか…

「サンセット王国の狙いが何なのか、ゾスター部族の土地に何があるのか、
調べてみようと思います。何か分かれば、解決の糸口になるのではないかと…」

ステファニーにそれを相談すると、彼女は乗り気になった。

「良い考えね、何もしないよりは余程いいわ、それに、私も気になる所よ。
勿論協力するわ。城の図書室の本を片っ端から調べましょう、人を集めるわ___」

ステファニーが仕切ってくれ、作業は直ぐに始まった。


僕はランベールに買って貰った古い歴史書から記述を探した。
だが、書かれていた事は、上辺の事で、新しい発見には至らなかった。

「あの本屋なら、もっと、詳しい本が置いてあるかも…」

ランベールが教えてくれた本屋には、古い歴史書や文献が多く置かれていた。
ランベールは、『売り物ではない、持ち出し禁止の本もある』と言っていた。
僕は期待に気が逸った。

「行ってみよう!」

立ち上がるも、それに気付いた。

「ああ、僕はお金を持っていなかったんだ…」

これまで全て、ランベールが払ってくれていたし、お金が必要な場面も無かった。
だが、本屋に行くには、それなりの資金が要る。
ここで頼れるのは、ステファニー以外、思いつかず、
僕は図書室で他の者たちと同様に作業をしているステファニーを訪ねた。

「町の本屋に行ってみようと思うのですが、資金を出して頂けないでしょうか」

「自分のお金があるでしょう?」

当然の様に返され、『確かに』と納得してしまった。
クリストフもそれなりに自由に出来る資金は持っているだろう。
現に、旅に出ている位なのだから…

「ええと、そうですね…」

だが、クリストフの部屋に入り、盗み出す様な真似は出来ない。
盗みはいけない___

「でも、そうね、必要経費だし、出してあげるわ」

ステファニーは考えを変え、金を小袋に入れ、渡してくれた。

「足りなければ、また来て頂戴」
「ありがとうございます!」
「町へは護衛を付けて行くのよ、バースが居るでしょう?」
「いえ、バースは…今は休みを取っているので…」
「あのバースが!?そう、だったら、他の者を呼びましょう…」
「ステファニー様、それは自分で出来ますので」

護衛を付ける気は無く、僕はやんわりとそれを止めた。

『おまえは私と一緒でなくては、出てはいけないよ』と、ランベールにも言われていたが、
同時に、『ここから先は秘密だよ』と言われた事を思い出したからだ。

ランベールの大切な場所を、僕が荒らす訳にはいかない。
護ってあげなければ…

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪妻オメガの俺、離縁されたいんだけど旦那様が溺愛してくる

古井重箱
BL
【あらすじ】劣等感が強いオメガ、レムートは父から南域に嫁ぐよう命じられる。結婚相手はヴァイゼンなる偉丈夫。見知らぬ土地で、見知らぬ男と結婚するなんて嫌だ。悪妻になろう。そして離縁されて、修道士として生きていこう。そう決意したレムートは、悪妻になるべくワガママを口にするのだが、ヴァイゼンにかえって可愛らがれる事態に。「どうすれば悪妻になれるんだ!?」レムートの試練が始まる。【注記】海のように心が広い攻(25)×気難しい美人受(18)。ラブシーンありの回には*をつけます。オメガバースの一般的な解釈から外れたところがあったらごめんなさい。更新は気まぐれです。アルファポリスとムーンライトノベルズ、pixivに投稿。

オメガパンダの獣人は麒麟皇帝の運命の番

兎騎かなで
BL
 パンダ族の白露は成人を迎え、生まれ育った里を出た。白露は里で唯一のオメガだ。将来は父や母のように、のんびりとした生活を営めるアルファと結ばれたいと思っていたのに、実は白露は皇帝の番だったらしい。  美味しい笹の葉を分けあって二人で食べるような、鳥を見つけて一緒に眺めて楽しむような、そんな穏やかな時を、激務に追われる皇帝と共に過ごすことはできるのか?   さらに白露には、発情期が来たことがないという悩みもあって……理想の番関係に向かって奮闘する物語。

庶子のオメガ令息、嫁ぎ先で溺愛されています。悪い噂はあてになりません。

こたま
BL
男爵家の庶子として産まれたサシャ。母と二人粗末な離れで暮らしていた。男爵が賭けと散財で作った借金がかさみ、帳消しにするために娘かオメガのサシャを嫁に出すことになった。相手は北の辺境伯子息。顔に痣があり鉄仮面の戦争狂と噂の人物であったが。嫁いだ先には噂と全く異なる美丈夫で優しく勇敢なアルファ令息がいた。溺愛され、周囲にも大事にされて幸せを掴むハッピーエンドオメガバースBLです。間違いのご指摘を頂き修正しました。ありがとうございました。

花街だからといって身体は売ってません…って話聞いてます?

銀花月
BL
魔導師マルスは秘密裏に王命を受けて、花街で花を売る(フリ)をしていた。フッと視線を感じ、目線をむけると騎士団の第ニ副団長とバッチリ目が合ってしまう。 王命を知られる訳にもいかず… 王宮内で見た事はあるが接点もない。自分の事は分からないだろうとマルスはシラをきろうとするが、副団長は「お前の花を買ってやろう、マルス=トルマトン」と声をかけてきたーーーえ?俺だってバレてる? ※[小説家になろう]様にも掲載しています。

BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。

佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。

婚約破棄された俺をお前が好きだったなんて聞いてない

十山
BL
レオナルドは辺境に領地を持つ侯爵家の次男。婚約破棄され、卒業とともに領地の危険区域の警備隊に就いた。婚活しないとならないが、有耶無耶のまま時は過ぎ…危険区域の魔獣が荒れるようになり、領地に配属されてきた神官は意外な人物で…?! 年下攻めです。婚約破棄はおまけ程度のエピソード。さくっと読める、ラブコメ寄りの軽い話です。 ファンタジー要素あり。貴族神殿などの設定は深く突っ込まないでください…。 性描写ありは※ ムーンライトノベルズにも投稿しています いいね、お気に入り、ありがとうございます!

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

断られるのが確定してるのに、ずっと好きだった相手と見合いすることになったΩの話。

叶崎みお
BL
ΩらしくないΩは、Ωが苦手なハイスペックαに恋をした。初めて恋をした相手と見合いをすることになり浮かれるΩだったが、αは見合いを断りたい様子で──。 オメガバース設定の話ですが、作中ではヒートしてません。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

処理中です...