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3. 仕事と婚約と夜の声
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我が家に婚約の打診が来るなんて珍しい。
しかもあんな有名な方から。
母は舞い上がっているけれど、私は本気にしていない。
「何かの間違いだと思いますわ」
ラルフ様と私に縁談だなんて。
「仕事熱心な方なので、お飾りの妻でも求めてらっしゃるのでしょうか。真面目な方なので、奥様となる方に不誠実なことはされないと思いますが」
「お嬢様、そんな他人事のように」
「私のどこに好かれる要素があったと言うのでしょう。控えめな態度が好ましい、と前に仰っていたことはありますが」
父が驚いている。
「直接会話をしたことがあったのか?ラルフ様と?」
「ええ、夜会で何度か」
「侯爵夫妻からは、ラルフ様は仕事ばかりで年頃の令嬢と見合いどころか釣書すらまともに見ないらしい。そこで、希望する条件を聞いた上で知人に聞いてフローラの名前が上がったらしい。」
「そうなのですね、条件ですか……まだ本格的なお話ではないですし、ラルフ様に意中の方がいて、ご両親がご存知ないだけかもしれませんね」
あんな素敵な方を、誰も放っておくわけないもの。
次の夜会では、珍しく王太子様がいらっしゃった。
ラルフ様はグラスを片手に壁のところへ来られていたけれど、王太子様の姿をみてそちらに向かった。
いつもより令嬢が多いように思う。王太子妃も候補はいらっしゃるが決定していない。
ラルフ様は側近なので、お二人は親しい様子に見えた。
しばらくして、夜風に当たろうとテラスに出た。
「じゃあ、近々申し込みをするつもりか?」
上のバルコニーの声が聞こえた。風向きによってこんなところに聞こえるなんて。
しかもこの声はもしかしたら
「ええ、このままでは……殿下にもご迷惑を」
ラルフ様と王太子殿下の会話だ。
聞いてはいけない。
「……仕事のことは、別に、……ゆっくり」
「いえ、仕事のためにも早く彼女に申し込みます」
「そうか、彼女と過ごす予定だったのだな、もう戻るといい。婚約できるよう力になろう」
ラルフ様が、婚約。
直接、申し込むということは家からの打診ではなく本人の意志で。
それは、すぐに成立するんでしょうね。
そう思うと、胸がギュッとなった。
時々こうなるけれど、私がラルフ様を思うのは特別なことではなくて、たくさんの令嬢が憧れているのと同じ。
ラルフ様のお相手が羨ましいから、自分が哀れになるだけ。でもしばらくすればお二人が並んだ姿を祝福できるようになるはず。
どんな方なんだろう。
仕事のためということは、有力な貴族かしら。
それとも将来的に外交もラルフ様は担える能力があるのだから、他国の方かもしれないわ。
「フローラ嬢」
声をかけられて振り返るとラルフ様がいた。
「ああ良かった。いつもの場所にいらっしゃらないから心配しました」
ほっとしたように笑うラルフ様に、考えていたことが消えていく。
「もしかして、探してくださってのですか?」
「はい。その、もしかして誰かと親しくなられたのかと」
珍しく口ごもりながら。
「そんな事はありえませんわ」
「フローラ嬢?何かありましたか」
「いいえ、何でも。私、戻りますわね、失礼します。」
ホールに戻ろうとしたら、手を捕まれた。
「すみません、なんだかフローラ嬢がいつもと違うように見えて。
手が冷たいですね。あちらのソファで待っていてください。暖かい飲み物を頼んできます」
テラスの横のソファを見ると、風は少し当たらなくなっている。ホールからも見えにくくなっている。
あれは恋人が語らう場所のような気がするけれど、
いいのかしら。
意識しているほうがおかしいのかしら。ただの親切かもしれないのに。
「フローラ嬢?ミルクティーとストレートティーをもらってきました。どうぞ」
ふわり、といい香りと優しい声がした。
しかもあんな有名な方から。
母は舞い上がっているけれど、私は本気にしていない。
「何かの間違いだと思いますわ」
ラルフ様と私に縁談だなんて。
「仕事熱心な方なので、お飾りの妻でも求めてらっしゃるのでしょうか。真面目な方なので、奥様となる方に不誠実なことはされないと思いますが」
「お嬢様、そんな他人事のように」
「私のどこに好かれる要素があったと言うのでしょう。控えめな態度が好ましい、と前に仰っていたことはありますが」
父が驚いている。
「直接会話をしたことがあったのか?ラルフ様と?」
「ええ、夜会で何度か」
「侯爵夫妻からは、ラルフ様は仕事ばかりで年頃の令嬢と見合いどころか釣書すらまともに見ないらしい。そこで、希望する条件を聞いた上で知人に聞いてフローラの名前が上がったらしい。」
「そうなのですね、条件ですか……まだ本格的なお話ではないですし、ラルフ様に意中の方がいて、ご両親がご存知ないだけかもしれませんね」
あんな素敵な方を、誰も放っておくわけないもの。
次の夜会では、珍しく王太子様がいらっしゃった。
ラルフ様はグラスを片手に壁のところへ来られていたけれど、王太子様の姿をみてそちらに向かった。
いつもより令嬢が多いように思う。王太子妃も候補はいらっしゃるが決定していない。
ラルフ様は側近なので、お二人は親しい様子に見えた。
しばらくして、夜風に当たろうとテラスに出た。
「じゃあ、近々申し込みをするつもりか?」
上のバルコニーの声が聞こえた。風向きによってこんなところに聞こえるなんて。
しかもこの声はもしかしたら
「ええ、このままでは……殿下にもご迷惑を」
ラルフ様と王太子殿下の会話だ。
聞いてはいけない。
「……仕事のことは、別に、……ゆっくり」
「いえ、仕事のためにも早く彼女に申し込みます」
「そうか、彼女と過ごす予定だったのだな、もう戻るといい。婚約できるよう力になろう」
ラルフ様が、婚約。
直接、申し込むということは家からの打診ではなく本人の意志で。
それは、すぐに成立するんでしょうね。
そう思うと、胸がギュッとなった。
時々こうなるけれど、私がラルフ様を思うのは特別なことではなくて、たくさんの令嬢が憧れているのと同じ。
ラルフ様のお相手が羨ましいから、自分が哀れになるだけ。でもしばらくすればお二人が並んだ姿を祝福できるようになるはず。
どんな方なんだろう。
仕事のためということは、有力な貴族かしら。
それとも将来的に外交もラルフ様は担える能力があるのだから、他国の方かもしれないわ。
「フローラ嬢」
声をかけられて振り返るとラルフ様がいた。
「ああ良かった。いつもの場所にいらっしゃらないから心配しました」
ほっとしたように笑うラルフ様に、考えていたことが消えていく。
「もしかして、探してくださってのですか?」
「はい。その、もしかして誰かと親しくなられたのかと」
珍しく口ごもりながら。
「そんな事はありえませんわ」
「フローラ嬢?何かありましたか」
「いいえ、何でも。私、戻りますわね、失礼します。」
ホールに戻ろうとしたら、手を捕まれた。
「すみません、なんだかフローラ嬢がいつもと違うように見えて。
手が冷たいですね。あちらのソファで待っていてください。暖かい飲み物を頼んできます」
テラスの横のソファを見ると、風は少し当たらなくなっている。ホールからも見えにくくなっている。
あれは恋人が語らう場所のような気がするけれど、
いいのかしら。
意識しているほうがおかしいのかしら。ただの親切かもしれないのに。
「フローラ嬢?ミルクティーとストレートティーをもらってきました。どうぞ」
ふわり、といい香りと優しい声がした。
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