猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら

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魔導世界

第27話 人魚族アドリアナの希望商品

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「えっ」
「だから、売って欲しいのだけれど?」

 ……よかった、商品を希望だった。というか、海水を冷却するだって?

「えっと、それはどうしてですか?」
「……実は最近この辺りの海水がとっても温くなるんですの。このままだと、わたくしたちはいずれゆで上がってしまうわ! あぁ、腹立たしい!」

 この言い方だと、明らかに人間の仕業だと教えてくれているようなものだ。

「ちなみに原因は……」
「人間よ! 人間の中途半端な冒険者が力試しと称し、火力試しの魔法を海面めがけて撃ちまくっているからに決まっているわ!!」

 そういえばウォルフ村のサシャも冒険者を嫌っていたな。魔物目線で見れば一部の人間が迷惑をかけているってことになる。

「あぁ、腹立たしい! そもそもわたくしたちを見境なく攻撃するし、ほとんどの攻撃魔法で炎ばかり使ってくるし、火傷を負うわたくしたちの身にもなってほしいものだわ!」

 水中に棲んでいる魔物だから炎属性で――ってことなんだろうけど、まさかそれが海水温度にまで影響を及ぼしているとは。

「もしかして、それでこの洞門に避難しているのですか?」
「悪いかしら?」
「い、いいえ」

 そのおかげと言ったら人魚たちに悪いが、商売に繋がっているのだから何とも言えなくなる。

「酷い時には沸騰したように熱くなって……その証拠がありますの。見てくださる……?」
「……というと?」
「鈍い人間ですわね! わたくしを見ればいいだけのことですわ!」
「うっ――!?」

 一瞬だけアドリアナの目が光り、全身が硬直状態に陥った――かに思えたが、俺の目に飛び込んできたのはアドリアナの胸元だった。

 多分普通の人間であれば石化状態になっていた可能性があったが、コムギさんの力で守られている俺には単なる眩しい光にしか見えなかった。

「……なるほど、肌が赤くなっていますね」
「そうでしょう? だから、あなたに売って欲しいのだけれど?」
「そうですね……少し時間をもらいます」
「分かっているわ」

 瞬間的にとなると氷の塊を入れればって話になるけど、魔法が主原因だとすると商売にならないから却下。

 だが、ネット倉庫で注文出来るとなれば、ドライアイスが有効のはず。

「コムギさん。タブレットは使えるのかな?」
「問題ないニャ」

 コムギさんは、魔導車から離れずに俺と人魚たちの動きに注意を払っている。人魚族も俺には一切手を出してこないとはいえ、護衛猫さんの役目はなかなか大変だ。

 さて、タブレットを操作……と。

 画面に触れると商品検索がすぐに出来るようになっていた。俺はそのまま画面をスクロールして、強力な冷却力と保冷力のある商品をヒットさせる。

 ……うん、これなら。

 ドライアイスは結構強力なアイテムだし、おそらく異世界でも問題なく役立ってくれるはずだ。

 人魚族に悪影響を及ぼすものにしてはいけないし、選択が難しいが継続的に買ってくれそうなもので形があるものだとすれば、ドライアイス一択しかない。

 ええと、ドライアイスは……あ、あった。しかも銅貨だ。

 今までと比べたら全然安い買い物だな!
 
 ポチッと注文、と。

 注文しといて今さらだが、人魚さんは銅貨を持っているだろうか?

「あ、あの、人間のお金……銅貨はお持ちですか?」
「銅貨? それでいいのね? それなら持っているわ」
「え、お持ちなんですか?」

 魔物の間ではほとんど使うことなんてないだろうけど、人魚族ならもしかしたらあってもおかしくはないか。

「ルゴー洞門は人間がよく通るのだけれど、わたくしたちを見るだけでそのお金をくれたり落としていったりするの。だからお金なら沢山あるわ。どれくらい必要なのか分からないけれど、仲間に持ってきてもらうわ」

 この場には無いらしく、他の人魚たちに伝えて持ってきてもらうみたいだ。

 それにしても、この世界の冒険者はあまりいいように思われていないのだろうか?

 おそらく一部の冒険者なんだろうが、局所的に迷惑がかかっているような、そんな感じがしてならない。

 そうこうしているうちに、発送完了という文字が浮かび上がる。

 ……どこかに届いてくれるはず。それにしても、注文した商品の届け先の精度に関してもおそらく俺のスキルアップが関係している。

 そうじゃないと、毎回のように突然降ってわいてくる状態だ。

「ニャニャニャッ!? 何だか冷えてきたニャ……」

 あぁ、今回はコムギさんの近くに届いたのか。それならもう少しスキルアップすれば俺の手元に届きそうだな。

「お待たせしました」
「……あら、意外と早いのね」

 例によって段ボール箱で届いたので、養生テープを剥がしてドライアイスを見てもらうことにした。

「冷気の塊……かしら?」

 そう言って手で掴もうとする彼女に対し。

「だ、駄目ですっ!!」

 その手を掴み、直接触れないように手を引っ込めさせた。

「……わたくしの手を握り、あまつさえあなたの思い通りに動かすなんて、一体何をするつもりなのかしら? 商人だというのに、あなたも所詮は低俗な人間と変わりないのかしらね……」 

 誤解をされているが、ここは冷静に説明をしておかなければ。

「いいえ。それはドライアイスというものです。非常に低温なものなので、直接触れてしまうと、途端にあなたの肌は凍傷になる危険性があります。そうならないためには手を守る手袋を使うか、掴むものを使うしかないんです!」

 俺の説明に対し、アドリアナはもちろん他の人魚たちも頷きながら真剣に聞いていた。

「そ、そうなのね……あなたはわたくしのために――」

 どうやら分かってもらえたようだ。

「それなら、その手袋も売って欲しいわ。そんな危険なものを掴むものなんて、この洞門には落ちていないもの」
「かしこまりました」

 理解してもらえたからあとは使い方を教えて、それから――海水が冷えてくれるのを確かめるだけだな。
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