【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

文字の大きさ
656 / 687
第十九章 婚約者として過ごす日々

翠色のドレス

しおりを挟む
 翌朝、アレクと二人の朝食を終えた後。

「リィカ様、この後は本日の晩餐のための準備を行います」
「……ふぇ?」

 侍女に言われた言葉に、首を傾げた。

 今日の夕飯は、王族勢揃いで食べるとは聞いた。リィカの数日遅れで、今日からレーナニアが王宮に来て泊まるからだ。

 皆が揃ったところで一緒に食事をすると言われて頷いたのは、朝食前のことだ。身内だけの集まりだとも言われたので、パーティーのような準備はないだろうと思っていたのだが。

「何の準備をするんだ?」

 そう聞いたのは、アレクである。質問している辺り、アレクも知らないということだ。問われた、いつもいる年配の侍女は何ということもないように、サラッと答えた。

「無論、晩餐に着て頂くドレスの準備です。アレクシス殿下にも、相応の格好をして頂きますので、ご承知置き下さいませ」
「……………普段着でいいんじゃないのか?」

 アレクの長めの沈黙は、疑問と不満が漂っていたが、侍女が気にした様子はない。

「実は、若い侍女たちが張り切っております。美しく着飾るのが好きな侍女はレーナニア様を。可愛く着飾るのが好きな侍女はリィカ様を、それぞれ着付けしたいと。国王陛下へ具申し、了承を得ました」

「………………」

「そして、女性のみ着飾って男性は普段着というわけには参りませんので。両殿下にも正装して頂きます」

「………………はぁ」

 アレクが顔に手を当てて、大きなため息をついた。リィカは状況が分かっていないのか、目をパチパチさせているだけだ。

「全く、なぜ父上は許可を出すんだ」

「侍女の練習になるからではないでしょうか。今後、王族となられるお二方です。一言にドレスといっても、千差万別です。色、形、素材、その他装飾品を含めた様々なもの、何が主人となるお二方に合うのか合わないのか、それを知ることが大切です」

「……そうか」

 まともな返事が返ってきてしまった。これでは反論のしようがない。そして、侍女の練習が必要なのは、レーナニアではなくリィカだろう。

 レーナニアは今までも沢山のドレスを着てきたのだ。今さら一から知る必要はない。逆にリィカはこれまで数着程度着たのみ。色々試して知ることが必要なのだ。

「今日、鏡を作ろうと思ったのに」

 リィカが話を理解して、残念そうに言った。国王とアークバルトに頼まれた鏡作りがまだできていないので、それをやろうと思っていたのだ。だが、この分では諦めるしかないだろう。
 しかし、もっと時間に余裕があるのかと思ったら、王宮暮らしは存外忙しいのだろうか。

「なぁリィカ、俺は二人きりで過ごせると思っていたんだが?」

 アレクがおもむろにそう言って、リィカの手を取った。そのまま当たり前のように、その手の平に口付けをする。その途端にボンと顔が赤くなるリィカは、いつまでたっても慣れないようだ。

「い、いってくるっ!」

 宣言して、取られた手を振れば、アレクは素直に手を離す。
 さっさと歩き出したリィカに、一礼した侍女が後を追うのを、アレクは残念そうな顔で見送ったのだった。


※ ※ ※


 侍女に案内されて部屋に入ったリィカは、首を傾げた。
 おそらく着せ替え人形にされるんだろうと、覚悟はしている。何度か参加したパーティーで、ドレスを決めたときのように。

 部屋には色とりどりのドレスが多数あるんだろうなと思いつつ入ったのだが、目に入った光景が意外だった。
 確かにドレスは多い。多いのだが、すべて緑系統の色のドレスだったのだ。どれも緑と言える色なのに、同じ色がないのがすごい。

「リィカ様、ご足労頂きまして、ありがとうございます」

 部屋にいた数人の侍女が、そう言って頭を下げる。確かに若いけれど、リィカよりは年上だ。けれど、リィカと似たり寄ったりな年齢のような感じの侍女もいる。

 リィカの表情がわずかに引き攣った。やはり頭を下げられるのは苦手だ。自分も同じように返していいならいいが、それもできない。

「ドレス、緑色だけなんだね」

 どう返していいか分からなかったので、一つ頷くだけに留めて、疑問を口にした。すると、挨拶を口にした侍女が、ほんの少し口元を綻ばせた。

「はい。後々、様々な色を試したく存じますが、一番重要なのはこの色です。……アレクシス殿下の目の色ですので」
「…………!」

 リィカの頬が、わずかに赤くなる。左手の薬指に嵌まっている指輪に、思わず手を持っていってしまう。

「レーナニア様はあおのドレスになります。お相手の男性の色を身に纏うのは、基本中の基本ですので」
「……そ、そうですか」

 アークバルトの目の色は、碧色だ。……という、どうでもいいことを思い出して、恥ずかしさから意識を逸らせようとしてみたが、無理だった。侍女たちの微笑ましいものを見たような笑顔が、なんか嫌だ。

「それでは始めさせて頂きます」
「……どうぞ」

 まともに侍女たちを見られず、視線を逸らせながらリィカは返答したのだった。


※ ※ ※


(つかれたぁ……)

 ようやくドレスの着付けが終わったのは、晩餐の少し前である。朝から何時間かけてやったのか。昼食も軽くつまんだだけで終わった。
 着せ替え人形にされているだけの自分がこれだけ疲れているのに、動き回っている侍女に疲れている様子がないのが、すごい。

 着ているのは、色々な緑色のグラデーションがかかったドレスだ。

 ドレスによっては肩丸出しの、胸元ギリギリのドレスもあったりするが、私的な晩餐の席ということで、今着ているのは露出は少ないドレスだ。
 試しに露出が多いのは苦手だと言ってみると、侍女たちは少し考える風になり、「かしこまりました」と返答してくれた。とは言っても、今後聞いてもらえるのかどうかは分からない。

 ちなみに、途中でアレクが様子を見に来たのだが、リィカが何かを言う前に侍女たちが追い返してくれていた。

「とても可愛らしくてお似合いです、リィカ様」
「あ、ありがとう」

 満足しました、という顔の侍女たちに言われて、リィカは少しはにかんだ。これだけ時間をかけたのだから、お世辞ということもないだろう。

(鏡で見たいなあ。小さいのしかないけど)

 残念なのは、自分で自分の姿を見られないこと。手元にある鏡は、Dランクの魔石で作った手の平サイズの鏡だけなので、ドレス姿を見るには物足りない。大きいのも作っておけば良かった、と思ったところでドアがノックされた。

「そろそろ時間だが、どうなった?」

 アレクの声だ。リィカが立ち上がりかけたが、侍女がドアを開ける方が早かった。

「どうぞ中へ」
「ああ。……っ!」

 促されて入ってきたアレクは、リィカを一目見ると、口元を手で押さえた。そのまま動かないアレクに不安になる。

「ええと、どこか、変……?」
「…………」

 アレクは無言のままだが、ツカツカとリィカに近寄ると、いきなり抱きしめた。

「ひゃっ!?」
「こんなの可愛すぎるだろう……。晩餐なんて放置して、このまま部屋へ連れて帰りたい……」
「駄目に決まっております」

 アレクのつぶやきに冷静に返したのは、いつもついている年配の侍女である。

「そろそろお時間です。リィカ様を離してエスコートなさいませ」
「……分かったよ」

 渋々とリィカから手を離す。解放されてリィカはホッとするが、顔が熱い。手でパタパタ扇いでいると、アレクが「ほら」と左手を差し出した。

「行くぞ」
「あ、う、うん」
「部屋ではなく、晩餐の席へ、ですからね」
「分かっているっ!」

 わざわざ念を押してきた侍女にアレクは叫んで、困った顔をしたリィカがそれでも手を重ねたのを確認して、歩き出したのだった。


※ ※ ※


「リィカさん、可愛いですね」
「レーナ様、きれい……」

 晩餐の席に着く前に顔を合わせた女性二人は、お互いに褒め合う。が、リィカにレーナニアの言葉は耳に入っていない。

 レーナニアは本当に綺麗だった。
 ロングの金髪を結い上げて、両脇から一房ずつ髪が垂れている。首回りの露出はリィカより多めだが、そこにいくつも宝石がついた大ぶりのネックレスをつけていて、露出が気にならない。

 リィカのレースが多く使われているドレスに対して、レーナニアのドレスにはそういったものがほとんどないが、スカート部分にはドレープがきいている。

 同じ年齢のはずなのに、レーナニアの方が綺麗で大人っぽい。

「すごく、きれいです」

 この人はもうすぐ結婚するんだなと思ったら、なぜか涙が出た。レーナニアが少し驚いた顔をして、そのままリィカに近づくと手を背中に回した。

「リィカさんだって、すごく可愛いですよ。ああもう、アレクシス殿下にあげてしまうのが、もったいないです」

 もらい泣きでもしたのか、なぜかレーナニアも涙声である。

「……どういう意味ですか、義姉上あねうえ
「そもそも、別にリィカはレーナのものじゃないからね」

 アレクがやや憮然として、アークバルトは呆れていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

異世界転移魔方陣をネットオークションで買って行ってみたら、日本に帰れなくなった件。

蛇崩 通
ファンタジー
 ネットオークションに、異世界転移魔方陣が出品されていた。  三千円で。  二枚入り。  手製のガイドブック『異世界の歩き方』付き。  ガイドブックには、異世界会話集も収録。  出品商品の説明文には、「魔力が充分にあれば、異世界に行けます」とあった。  おもしろそうなので、買ってみた。  使ってみた。  帰れなくなった。日本に。  魔力切れのようだ。  しかたがないので、異世界で魔法の勉強をすることにした。  それなのに……  気がついたら、魔王軍と戦うことに。  はたして、日本に無事戻れるのか?  <第1章の主な内容>  王立魔法学園南校で授業を受けていたら、クラスまるごと徴兵されてしまった。  魔王軍が、王都まで迫ったからだ。  同じクラスは、女生徒ばかり。  毒薔薇姫、毒蛇姫、サソリ姫など、毒はあるけど魔法はからっきしの美少女ばかり。  ベテラン騎士も兵士たちも、あっという間にアース・ドラゴンに喰われてしまった。  しかたがない。ぼくが戦うか。  <第2章の主な内容>  救援要請が来た。南城壁を守る氷姫から。彼女は、王立魔法学園北校が誇る三大魔法剣姫の一人。氷結魔法剣を持つ魔法姫騎士だ。  さっそく救援に行くと、氷姫たち守備隊は、アース・ドラゴンの大軍に包囲され、絶体絶命の窮地だった。  どう救出する?  <第3章の主な内容>  南城壁第十六砦の屋上では、三大魔法剣姫が、そろい踏みをしていた。氷結魔法剣の使い手、氷姫。火炎魔法剣の炎姫。それに、雷鳴魔法剣の雷姫だ。  そこへ、魔王の娘にして、王都侵攻魔王軍の総司令官、炎龍王女がやって来た。三名の女魔族を率いて。交渉のためだ。だが、炎龍王女の要求内容は、常軌を逸していた。  交渉は、すぐに決裂。三大魔法剣姫と魔王の娘との激しいバトルが勃発する。  驚異的な再生能力を誇る女魔族たちに、三大魔法剣姫は苦戦するが……  <第4章の主な内容>  リリーシア王女が、魔王軍に拉致された。  明日の夜明けまでに王女を奪還しなければ、王都平民区の十万人の命が失われる。  なぜなら、兵力の減少に苦しむ王国騎士団は、王都外壁の放棄と、内壁への撤退を主張していた。それを拒否し、外壁での徹底抗戦を主張していたのが、臨時副司令官のリリーシア王女だったからだ。  三大魔法剣姫とトッキロたちは、王女を救出するため、深夜、魔王軍の野営陣地に侵入するが……

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

泥まみれの英雄譚 〜その手が掴んだ温もりは〜

夢見中
ファンタジー
彼は異世界召喚に巻き込まれるが、そこで待っていたのは「ハズレ」の烙印と、城からの追放だった。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...