妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香

文字の大きさ
49 / 57
番外編 ファルター

6.魔術具

しおりを挟む

 俺がポカンとして反応できないでいると、陛下はなぜか満足そうに笑った。

「まあ意味が分からぬであろうな。どうやって、そなたの父君に口頭で許可を取ったか、気になるであろう?」
「………………え? は、はい……、え、あれ?」

 そんな話だっただろうか? いや、そんなことも言っていた気がするが、それよりもっと衝撃的なことを言われた気がするのだが……。

「我がグランデルト国で、魔術具と呼ばれる道具が作られていることは、知っておるな?」
「は、はい」

 反射的に返事をしてから、やっと頭が動き出した気がする。
 攻撃魔術を石に固める技術が俺の故郷であるブンデスリーク王国にしかないことと同様に、魔術具と呼ばれる道具を作れるのは、このグランデルト王国だけだ。

「開発自体は大分前に成功していたのだが、最近になってようやく、何とか持ち歩きが可能なくらいに小型化に成功したのだ」

 そこまで言うと、心得たような侍女が何かを陛下に差し出している。それを受け取って、陛下は俺に見せてくれた。

「ファルター殿、通話機、という魔術具はご存じか?」

 聞かれて、言葉に詰まった。
 はっきり言うなら、聞いた事があるような、ないような。少なくとも、知っていると言えるレベルじゃない。

「良い、徐々に覚えてくれ。ブンデスリーク王国への道のりは険しい故に、そうでなくとも高価な魔術具に交通費がかさみ、さらに高くなる。国単位でもそう簡単に購入できぬ代物だからな」
「……申し訳ありません」

 魔術具という存在は知っていても、その具体的な内容までは分かっていなかった。グランデルトの特徴の一つと言ってもいいものを、知らずにいた自分が恥ずかしかった。

「謝罪の必要はない。でだ、通話機というのは二つで一組になっている魔術具でな。これを持つ者同士、離れた場所にいても会話をすることができる、という代物だ」

「離れてても、話ができるんですか!?」

「左様。調べたところ、二組程度だが、過去にブンデスリーク王国へも売っている記録があった。どのような使い方をしているかは知らぬが、ファルター殿が知らぬということは、王家で所有してはいないようだな」

 所有していたとしても、俺みたいな出来損ないには見せなかっただけ、という可能性もなくもない。
 王子であったはずなのに、本当に俺は何も知らなかったんだということを、遠い外国に来て思い知らされる。

「我らが作る魔術具は、ダンジョン攻略の助けとなるものがほとんどだ。通話機とてそうだ。ダンジョンの中と外、あるいはダンジョンの中で離れて行動するとき。会話ができると連携もしやすい。魔術具は軍の所有物として、ダンジョン攻略のために使用されてしかるべきものだ」

「……はい」

 落ち込んだ気持ちを見透かされたような気がする。
 つまりは、王家が所有していた可能性は限りなくゼロ。だから、俺が知らないのも無理はないと、そう陛下は仰って下さったのだ。

「話を戻すと、これも通話機の一種なのだが、それをさらに高性能にしたものだ」

 先ほど侍女に渡されていた魔術具……通話機を俺に渡してきた。
 何だか分からないが、とりあえず受け取る。

 改めてしみじみ見てみると、四角い黒い板のようなもので、その周囲に枠がはまっている。その黒い部分に、俺の情けない顔が映っている……。

「えっ!?」

 突如、その黒い部分が明るくなった。そこに映っているのは俺の顔ではなく、国王陛下の顔だ。
 顔を上げれば、そこには普通に陛下がいらっしゃる。けれど、相変わらず映っているのは陛下だ。

「どうだ、面白いだろう」

 陛下の得意げな声が、正面からだけではなく、その四角い板からも聞こえて、ギョッとする。
 正面の陛下を見て、四角い板に映る陛下を見て、もう一度正面の陛下を見る。どこからどう見ても、どちらも陛下だ。

「ちなみに、動かすと周囲の景色を映し出すこともできる」

 そう言って陛下が四角い板を動かすと、俺の持つ方には侍女の顔や周囲の景色が映った。
 一体何がどうなっているのか、理解するのは不可能だった。

「映像通話機、と呼んでいる。声だけではなく、相手の顔、周囲の景色まで映し出せる。ダンジョンで中と外でこれを持つ者がいれば、中の様子を外に居ながらにして知ることが可能となる。通話機以上に高価になるが、需要はあると見込んでいる」

 プツッと板に映る陛下の顔が消えた。また黒い板に戻り、俺の顔が映し出される。

「さて、ここまで説明すれば理解頂けたであろう? 我が国の者がこれを持ち、ブンデスリーク王国まで行ったのだ。そして、この魔術具を使用し、あちらの国王陛下と直接話を行ったのだ」

「……あ、は、はい。…………えーと?」

 そもそもの話は何だったかと考えて、父上に口頭で許可を取ったという話だったことは思い出した。
 ……何の許可を取るという話だった?

「ファルター殿。魔術具の話にしても、知らぬならはっきりそう言ってくれ。知った振りをされるのが、一番困るのだ」
「……え?」

 陛下が、悲しそうな笑みを浮かべていた。
 そうでなくとも、思考がまったく追いついていない所に、そんな笑みを向けられ、俺は返す言葉が何も出てこない。

「そなたは表情に出るから分かりやすいが、エマは隠してしまう。そのせいで、なぜエマが伸びてゆかぬのか、どうすれば良いのか、最近まで悩みの種だった」
「え……その……」
「それが分かったのは、そなたのおかげだ。これでも、本当に感謝しているのだぞ?」
「…………………」

 沈黙を返すしかできなかった。
 どう言っていいかが分からない。でも俺のしたことなんて、本当にたいしたことじゃない。

「一ヶ月前の出来事からずっと、エマは明らかにそなたのことを気にしていてな。だが、なぜ気にしているのかと聞くと、明確な答えが返ってこぬから、焚き付けてみた」

「え……?」

「ファルター殿。そなたの父君は、そなたがいいと言えばいいと仰った。改めて伺おう。エマの婚約者となってくれぬか?」

「……………………!!!」

 そうだった。その話だったんだ。
 現実逃避したいくらいの衝撃に、頭の中は大混乱だった。


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...