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199 イシュマ
しおりを挟む泡まみれの彼女がみえた。
病み上がりにこんなに冷たい湖で……?
それに……僕のシャツを着ているけれど濡れて身体に張り付いてまるで……
見ていると後ろめたい気持ちになる……けれど目が離せない。
水の音が聞こえている間は大丈夫だろうと、どうにか彼女に背を向ける。
そうした方がいい気がした。
湖から陸へ上がる気配を感じて再び彼女に視線を戻すと木の陰に隠れてしまった。着替えるのだろうと思い待つことにする。
ようやく話ができる。嬉しくて早く彼女の元へ向かいたいけれども待つ。
しばらく待っても動き出す気配がない。
少し迷ったけれど様子を見に行くと彼女が倒れていた。
額に手を当てると熱が出ている……やはり無理をして出てきたのか……
彼女を馬に乗せ急いで家へ戻る。
暖炉に火を入れて彼女の濡れた髪を乾かす。
新しく乾いたシャツを出して着替えをする。
何だか振り出しに戻ったみたいだ……
けれどももう一度彼女を見つけることができて良かった。
彼女の髪が乾いたか確かめてから整え直したベッドへ運ぶ。
目を覚ましたときに僕がいなかったらまた出ていってしまうだろう……しばらくは彼女のそばにいたい。
彼女の額に冷たいタオルを乗せながらそんなことを考えていると
「イシュマー!」
……こんなときに……
彼女の頭を撫でてから部屋を出てリビングへ向かうと
「兄上、今日は二人で来たのですね」
僕と同じ白い髪がさらりと揺れる。
「……どうした? いつもほど嬉しそうではないな」
僕と同じ赤みがかった目を細める二人。
いつも通り微笑んだつもりなのに……
「そんなことはないよ、嬉しいよ」
ふーん……と僕を見つめて
「そうか、そうだよな」
僕と同じ顔で微笑む兄上達。
僕らは三つ子だ。そっくりすぎて両親でも見分けがつかないくらいの。
一番上がジョシュア兄上で二番目がヨシュア兄上、そして三番目が僕、イシュマだ。
この国、ベゼドラ王国では双子の出生率が高い。
双子は縁起がいい、と大切にされる。
けれども三人目が産まれて三つ子になると話しは変わってくる。
三人目は不吉とされている。
だから産まれてすぐに養子に出されたり……殺されてしまう子供も少なくはない。
ずっと昔から言われている事らしいからなぜそうなのかはよく分からない。
僕は三番目……だけれども養子にも出されず殺されもしていない。
兄上達に何かあった時に役に立つから、らしい。
だからちゃんとした教育は受けさせてもらえたけれど、決まった人以外と話すことはほとんどない。
僕の存在は隠しておかなければならないから。
けれども時々、兄上達のどちらかが隠れて僕が隠れた兄上の代わりに表を歩くことはあった。
不吉な存在として国王の父上は会いに来ないし、王妃である母上も僕が成人してからはほとんど来てくれなくなった。
だから兄上達がふざけて城へ連れていってくれた時にチラリとでもどちらかの姿が見られた時は嬉しかった。
兄上達は時々女性の話をする。
婚約者を決めるためにたくさんの令嬢と会っているらしい。
僕には縁のない話だから羨ましい気もするけれど兄上達は彼女達に意地悪ないたずらをしているようだった。
どちらかを見分けられるか試していると言っていた。
「間違って私のベッドに入ってこられては迷惑だからね」
ジョシュア兄上が言う。
「俺達を見分けられないようなコ、嫌だろ?」
ヨシュア兄上が言う。
「でも両親でも見分けられないのにそれは可哀想ではないですか」
そう言ってみたけれど兄上達はそうは思わないようで、それどころかイシュマはいつまで経っても子供っぽいな、と笑われてしまう。
よくわからないし、これでは婚約者など決められないのでは……と思ってしまう。
以前母上が言っていた……僕が家庭を持つ必要はない、と。
兄上二人のどちらかに何かあった時にそのどちらかの家庭に入ればいいのだからと。
だから見分けられるとか見分けられないとか……関係ないのではないだろうか……
でも……何となく難しいことだとはわかっていても奥の部屋で寝ている彼女には三人でいても僕のことはわかって欲しいと思う。
兄上達が言っているのはこういうことなのか……
彼女は僕が三人目だと……不吉なものだと知ったら嫌がるだろうか……離れていってしまうだろうか。
……とにかく……今は彼女を隠し通すことを考えよう。
彼女の存在を万が一誰かに知られたらどうなるのだろう。
ここは王城の敷地内で……かなり城からは離れているけれど、どうやって入って来たのかと聞かれたら……僕は説明が出来ない。
それにあの神秘的な髪色と瞳の色。やはりどこの国にも存在しないのでは……
「なんか美味しそうな匂いがする」
ハッとしてキッチンへ移動するヨシュア兄上よりも早くキッチンへ行き彼女の置き手紙をポケットに隠す。
テーブルの上の料理はそのままだから兄上達に見つかる。
「これは何だ? 誰が持ってきた?」
ジョシュア兄上が探るような目付きになる。
「僕が作ったんだよ……」
こう言うしかない。
「「イシュマが?」」
二人とも驚いている。
「うん、時間はあるからね。今度兄上達が来たときに食べてもらおうかと思って」
でもまだ練習しているところだから食べないでね、とお皿を下げる。
「ところで兄上達の馬は馬屋に連れていったのですか」
急いで話をそらす。
「あぁ、湖に寄って水も飲ませてきた」
危なかった……僕より先に兄上達が彼女を見つけてしまうところだったかもしれない。
「もう少し柵を広げてもらったらどうだ? 土地はあるのだから」
ジョシュア兄上が三頭入ると狭く感じるな、と言う。
「……うん、そうするよ」
「そうするよって、まさか自分でやる気じゃないよな? あー……そうか、ここのことを知っている者は少ないからな」
使用人もいないしな、とヨシュア兄上はわかっていてそんなことを言う。
「うん、時間はあるから自分でやってみるよ」
そう言って笑うと
「私達も使うから、柵を広げる時は手伝うよ」
「そうだな」
となんだかんだ言いながら二人とも手伝ってくれるらしい。
……早く帰ってくれないかな……そんな二人にこんなことを思ってしまい後ろめたくなるけれど……落ち着かない……
「僕の部屋にいきませんか、借りていた本も返したいし、また持ってきて欲しいものもあるので」
二人を僕の部屋へ誘導しよう。彼女のいる一階にいるのはあまりよくない気がする。僕達の話し声で彼女が目を覚ましてしまうかもしれない。
「そうか、前来たときに持ってきた本は読んだのか」
偉いぞ、と僕の頭を撫でるジョシュア兄上。
子供扱いしないで欲しい。生まれた順番が違うだけで年は同じなのだから。
「次はどのような本がいい?」
ジョシュア兄上が機嫌良さそうに微笑みながら聞いてくる。
「恋愛小説なんかいいんじゃないか?」
イシュマには関係ないけどな、とヨシュア兄上が笑いながら言う。
「恋愛小説? あるのですか?」
二人がおや? という顔をする。
しまった……
「なんだ? 興味があるのか? お前には無理だぞ、母上にも言われているだろう?」
ヨシュア兄上が釘を刺す。
そんなことわかっている。
「まぁ……いいじゃないか、本を読むくらい」
うつむく僕にジョシュア兄上が次くる時に持ってくる、と言ってくれた。
その後二階の僕の部屋へ行き兄上達の気が済むまで居てもらってから、返す本を持ってリビングへ戻る。
「そろそろ戻るよ。帰りが遅くなると面倒だからね」
ジョシュア兄上がそう言って二人がドアに向かい歩きだそうとして動きを止める。
どうしたのだろう? と兄上達の視線の先をたどると……
「……イシュマ……さん」
僕のシャツだけを身に纏い……熱で頬を染め何故か涙目の彼女が立っていた……
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