異世界転移の……説明なし!

サイカ

文字の大きさ
199 / 251

199 イシュマ

しおりを挟む


 泡まみれの彼女がみえた。


病み上がりにこんなに冷たい湖で……?

それに……僕のシャツを着ているけれど濡れて身体に張り付いてまるで……
見ていると後ろめたい気持ちになる……けれど目が離せない。

水の音が聞こえている間は大丈夫だろうと、どうにか彼女に背を向ける。
そうした方がいい気がした。

湖から陸へ上がる気配を感じて再び彼女に視線を戻すと木の陰に隠れてしまった。着替えるのだろうと思い待つことにする。

ようやく話ができる。嬉しくて早く彼女の元へ向かいたいけれども待つ。

しばらく待っても動き出す気配がない。
少し迷ったけれど様子を見に行くと彼女が倒れていた。

額に手を当てると熱が出ている……やはり無理をして出てきたのか……

彼女を馬に乗せ急いで家へ戻る。
暖炉に火を入れて彼女の濡れた髪を乾かす。
新しく乾いたシャツを出して着替えをする。

何だか振り出しに戻ったみたいだ……

けれどももう一度彼女を見つけることができて良かった。

彼女の髪が乾いたか確かめてから整え直したベッドへ運ぶ。
目を覚ましたときに僕がいなかったらまた出ていってしまうだろう……しばらくは彼女のそばにいたい。

彼女の額に冷たいタオルを乗せながらそんなことを考えていると

「イシュマー!」

……こんなときに……

彼女の頭を撫でてから部屋を出てリビングへ向かうと

「兄上、今日は二人で来たのですね」

僕と同じ白い髪がさらりと揺れる。

「……どうした? いつもほど嬉しそうではないな」

僕と同じ赤みがかった目を細める二人。
いつも通り微笑んだつもりなのに……

「そんなことはないよ、嬉しいよ」

ふーん……と僕を見つめて

「そうか、そうだよな」

僕と同じ顔で微笑む兄上達。
僕らは三つ子だ。そっくりすぎて両親でも見分けがつかないくらいの。

一番上がジョシュア兄上で二番目がヨシュア兄上、そして三番目が僕、イシュマだ。

この国、ベゼドラ王国では双子の出生率が高い。
双子は縁起がいい、と大切にされる。
けれども三人目が産まれて三つ子になると話しは変わってくる。

三人目は不吉とされている。
だから産まれてすぐに養子に出されたり……殺されてしまう子供も少なくはない。

ずっと昔から言われている事らしいからなぜそうなのかはよく分からない。

僕は三番目……だけれども養子にも出されず殺されもしていない。

兄上達に何かあった時に役に立つから、らしい。
だからちゃんとした教育は受けさせてもらえたけれど、決まった人以外と話すことはほとんどない。
僕の存在は隠しておかなければならないから。

けれども時々、兄上達のどちらかが隠れて僕が隠れた兄上の代わりに表を歩くことはあった。

不吉な存在として国王の父上は会いに来ないし、王妃である母上も僕が成人してからはほとんど来てくれなくなった。

だから兄上達がふざけて城へ連れていってくれた時にチラリとでもどちらかの姿が見られた時は嬉しかった。


兄上達は時々女性の話をする。
婚約者を決めるためにたくさんの令嬢と会っているらしい。
僕には縁のない話だから羨ましい気もするけれど兄上達は彼女達に意地悪ないたずらをしているようだった。

どちらかを見分けられるか試していると言っていた。

「間違って私のベッドに入ってこられては迷惑だからね」

ジョシュア兄上が言う。

「俺達を見分けられないようなコ、嫌だろ?」

ヨシュア兄上が言う。

「でも両親でも見分けられないのにそれは可哀想ではないですか」

そう言ってみたけれど兄上達はそうは思わないようで、それどころかイシュマはいつまで経っても子供っぽいな、と笑われてしまう。

よくわからないし、これでは婚約者など決められないのでは……と思ってしまう。

以前母上が言っていた……僕が家庭を持つ必要はない、と。
兄上二人のどちらかに何かあった時にそのどちらかの家庭に入ればいいのだからと。

だから見分けられるとか見分けられないとか……関係ないのではないだろうか……

でも……何となく難しいことだとはわかっていても奥の部屋で寝ている彼女には三人でいても僕のことはわかって欲しいと思う。
兄上達が言っているのはこういうことなのか……

彼女は僕が三人目だと……不吉なものだと知ったら嫌がるだろうか……離れていってしまうだろうか。

……とにかく……今は彼女を隠し通すことを考えよう。

彼女の存在を万が一誰かに知られたらどうなるのだろう。
ここは王城の敷地内で……かなり城からは離れているけれど、どうやって入って来たのかと聞かれたら……僕は説明が出来ない。

それにあの神秘的な髪色と瞳の色。やはりどこの国にも存在しないのでは……


「なんか美味しそうな匂いがする」

ハッとしてキッチンへ移動するヨシュア兄上よりも早くキッチンへ行き彼女の置き手紙をポケットに隠す。

テーブルの上の料理はそのままだから兄上達に見つかる。

「これは何だ? 誰が持ってきた?」

ジョシュア兄上が探るような目付きになる。

「僕が作ったんだよ……」

こう言うしかない。

「「イシュマが?」」

二人とも驚いている。

「うん、時間はあるからね。今度兄上達が来たときに食べてもらおうかと思って」

でもまだ練習しているところだから食べないでね、とお皿を下げる。

「ところで兄上達の馬は馬屋に連れていったのですか」

急いで話をそらす。

「あぁ、湖に寄って水も飲ませてきた」

危なかった……僕より先に兄上達が彼女を見つけてしまうところだったかもしれない。

「もう少し柵を広げてもらったらどうだ? 土地はあるのだから」

ジョシュア兄上が三頭入ると狭く感じるな、と言う。

「……うん、そうするよ」

「そうするよって、まさか自分でやる気じゃないよな? あー……そうか、ここのことを知っている者は少ないからな」

使用人もいないしな、とヨシュア兄上はわかっていてそんなことを言う。

「うん、時間はあるから自分でやってみるよ」

そう言って笑うと

「私達も使うから、柵を広げる時は手伝うよ」

「そうだな」

となんだかんだ言いながら二人とも手伝ってくれるらしい。

……早く帰ってくれないかな……そんな二人にこんなことを思ってしまい後ろめたくなるけれど……落ち着かない……

「僕の部屋にいきませんか、借りていた本も返したいし、また持ってきて欲しいものもあるので」

二人を僕の部屋へ誘導しよう。彼女のいる一階にいるのはあまりよくない気がする。僕達の話し声で彼女が目を覚ましてしまうかもしれない。

「そうか、前来たときに持ってきた本は読んだのか」

偉いぞ、と僕の頭を撫でるジョシュア兄上。
子供扱いしないで欲しい。生まれた順番が違うだけで年は同じなのだから。

「次はどのような本がいい?」

ジョシュア兄上が機嫌良さそうに微笑みながら聞いてくる。

「恋愛小説なんかいいんじゃないか?」

イシュマには関係ないけどな、とヨシュア兄上が笑いながら言う。

「恋愛小説? あるのですか?」

二人がおや? という顔をする。
しまった……

「なんだ? 興味があるのか? お前には無理だぞ、母上にも言われているだろう?」

ヨシュア兄上が釘を刺す。
そんなことわかっている。

「まぁ……いいじゃないか、本を読むくらい」

うつむく僕にジョシュア兄上が次くる時に持ってくる、と言ってくれた。

その後二階の僕の部屋へ行き兄上達の気が済むまで居てもらってから、返す本を持ってリビングへ戻る。

「そろそろ戻るよ。帰りが遅くなると面倒だからね」

ジョシュア兄上がそう言って二人がドアに向かい歩きだそうとして動きを止める。
どうしたのだろう? と兄上達の視線の先をたどると……

「……イシュマ……さん」


僕のシャツだけを身に纏い……熱で頬を染め何故か涙目の彼女が立っていた……

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...