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212 ジョシュア
しおりを挟むーー ジョシュア ーー
ヨシュアとイシュマが帰りトーカと二人になる。
「……あの……何しているの? ジョシュア……」
驚いたことにイシュマではなく私が残っていることに気付いたようだった。
念のため否定してみたが違わないよ、と今度はキッパリと言われてしまった。
正直もう演技を続けなくていいと思うと気が楽になった。
彼女は私達がイタズラをしていると思いクスクスと笑う。
完全に私達を見分けられる彼女からしたらそう見えるのかと少し驚いてしまった。
実際はイシュマを医者に診てもらうことと、リアザイアの王子達が城に滞在している間に入れ替わらなければならないような事があった場合に備えているだけなのだが。
イシュマも雰囲気まで変えられて凄いとトーカは言うが……
「……そのために生かされているからな……」
思わず呟いてしまったことを誤魔化すように風呂に入ると言うとすぐに準備をしてくれた。
風呂から戻るといい匂いがした。
食事の用意をしてくれていたトーカがこちらをみてなぜか笑い出す。
どうやら風呂上がりにちゃんと髪を拭かないのはイシュマも同じらしい。
やはり兄弟だと言われると少しだけ嬉しい気もした。
トーカが私の髪をタオルで優しく拭いてくれる。
とても心地いい…………
イシュマは毎晩してもらっているのだろうかと……ふと思った……
トーカの優しい手つきに身体の力が抜けていく。
何故か甘えたくなってしまい……そんな気持ちを恥ずかしく思う……
礼を言い食事を済ませるとトーカが私に茶をいれてくれてから風呂へ向かった。
茶を一口飲み、トーカの料理は美味しかった……と思い出しているとミケネコサンもソファーへやってきて毛繕いを始める。
本当に変わった毛色の猫だ……トーカの髪も……
トーカが風呂から戻ったら私が髪を拭いてあげよう。
あの美しい黒髪に触れられる……
改めて彼女のことを考える。
湖で溺れていた……と。
どうやって王城の敷地内に入って来たかはわからないが、トーカはここがどこなのかわかっていなかった。
記憶が……と言っていたが働きに来たような気もすると言っていた。
紹介状を持って城のメイドとして働きにきたのかもしれないが……それがなぜ湖で溺れるようなことになるのか……
そしてあの髪と瞳の色。どこから来たのかはわからないが、城に来る前に街を通っているはずだ。
あの目立つ容姿では噂になるはずだが、買い物をしに街へ行った時も見回りをしている兵達からもそんな噂話も報告も聞いてはいない。
本当に突然現れたとしか……説明がつかない。
それに、何か事情があるのなら記憶を取り戻したとしても私達に話してくれるかはわからない。
ただ……私達兄弟がこの国の王族であることはわかっていないようだから、おそらく記憶はまだ戻っていないのだろう。
記憶が戻ったらトーカはどうするのだろう。ここから出ていきたい……と言われたら……閉じ込めたくはないが……どうすることもできない。
私達に……私にっとって彼女は特別だ。
ここ最近は母上が連れてきた婚約者候補の令嬢とばかり会っていたから……
私に会うために着飾り、ドレスやアクセサリーが重いからと庭の散歩も嫌がるような令嬢だ。
香水もきつくて私は外に出たかったのだが。
そんな女性達にばかり会っていたある日、トーカは現れたのだ。それもイシュマの家に。
一瞬警戒はしたが……イシュマのシャツ一枚の姿で壁に寄りかかり弱々しく立つトーカに庇護欲を掻き立てられ……
着飾りもしないその姿と、ただ美しい黒髪と潤んだ黒い瞳に息を飲んだ。
感情が表に出やすいのか表情もコロコロと変わりみていて楽しくなる。
そんなことを思い出していると風呂上がりのトーカがこちらを覗く。
隣に座るように言い私に背中を向けさせる。
濡れた黒髪からフワリ……と石鹸の香りに混ざり甘い花の香りがして……手を伸ばしてそのまま抱き締めたくなる。
指で髪をすくと白い肌と細い首……うなじが見えて思わず口付けを……
「私もジョシュアの髪も瞳も綺麗だと思うよ」
トーカの声がしてハッとする。
……おかしい……これほどまでに理性を乱されることがあっただろうか……
なんとか普通に会話をする……不思議なことに私の心を乱すのも落ち着かせるのもトーカだった。
トーカが身体の力を抜きクスクスと笑う。
なんとも心地のいい時間だ。
トーカの髪に触れたい……と思い付いたことだったが自分がこんな風になるとは……
穏やかな時間に私の気も緩む。
一生を共にするのならきっとこのような女性がいいのだろう。
こんなに安らぐ時間を経験してしまってはこれまでの時間が虚しく感じる……そして……もしトーカがいなくなってしまったら……その先の時間を想像すると恐ろしくなる。
髪を一房手に取る……
首筋に所有痕を付けたくなる衝動をその一房に口付けることで抑える。
トーカはそんな危険が後ろにあるとも知らずにソファーの背にもたれウトウトとし始める。
そんなトーカに寝ていてもいい、と言うと
「……私にも……お兄さんができたみたい」
目を擦りながらそう言われた。
「私はトーカの兄になるつもりはないよ」
すぐに断る。
「それじゃあ……お姫様になったみたい……」
とクスクスと笑いながら目を閉じるトーカ……それならば……
「……私の……」
妻に……といいかけて思いとどまる。
あの城にトーカを閉じ込めるのか?
古いしきたりに縛られて私でさえ息苦しく感じるあの城に……
トーカの容姿をみて何を言い出すかわからない両親に合わせられるか?
やめよう……今家族のことを思い出すのは。
そっと立ち上がりトーカの部屋の隣の部屋から毛布と乾いたタオルを持って来る。
スヤスヤと寝ているトーカに毛布を掛けてまだ少し濡れている髪をタオルで包み彼女を私の胸にもたれさせる。
続きを読んでいる間に髪も乾くだろうと本を開く。
本を読み終わる頃、トーカの髪に触れると乾いていた。
起きる気配もないのでベッドに運ぶことにする。
ミケネコサンがトーカの膝から降りて私がトーカを抱き上げるのを見つめている。
彼女の部屋に勝手に入るのは躊躇われたので隣の部屋のベッドに彼女を寝かせて毛布をかける。
それから少し……迷ったが私も彼女と同じベッドに入り……寝顔を見つめる。
長いまつ毛に小さな桜色の唇……頬に触れると柔らかい……
フワリと甘い香りがして……一度落ち着いた理性が再び乱れる。
「……トーカ……」
呼んでみるが反応はない。
起きて欲しかった……でないと……
トーカの唇を指でなぞる。
その指で首筋に触れるとピクリと反応があった。
トーカの首元に顔を埋め首筋に唇を這わせると甘い吐息が漏れ唇がうっすらと開く。
吸いつくような肌と甘い香りに私の理性が崩れていく……これ以上は駄目だとわかってはいるのに止められない。
「……トーカ……」
もう一度そっと耳元で呼んでみるが起きてはくれなかった……
そのままトーカの頬に口付けをしながらゆっくりと彼女の唇に近づき……深く口付けを……
枕元にミケネコサンがやってきてこちらをジッと見つめる。
それ以上は駄目だと……そんなはずはないのにそう非難されているような……
罪悪感があるからそう見えるのか……
ため息をつき……ベッドから出てキッチンへ向かう。
水を一杯飲み気持ちを落ち着かせる。
私は何をやっているのだ……まるで私の気持ちを無視して迫ってくる女達のようなことを……
私の気持ち…………トーカの気持ち…………
私はトーカを好ましく思う。彼女といる時間が好きだし誰も来なくても彼女とならずっとここに……全てを捨てて別のどこかで暮らしてもいいとさえ思える。
簡単なことではないが……それに弟達もおそらくは……
ソファーに横になり考える。
いずれトーカの記憶が戻り……いや、戻らなくてもここを出ていきたいと言い出すかもしれない。
彼女は……リアザイアから来たのだろう。
湖で溺れたときに着ていた服のポケットに入っていた、とイシュマに渡された巾着にはそう思わせるものが入っていた。
そしてこのタイミングでのリアザイアの王族の訪問。
関係が無いわけがない。
ただ、彼らが彼女を追って……捕らえにくるのか……迎えにくるのかはわからない。
答えのでないことを考えながら、もう眠ろうと目を閉じるがなかなか寝つけず……そのまま朝を迎えてしまった……
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