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しおりを挟むキョトンとした顔で首を傾げるイシュマ……のようなジョシュア…………
「何を言っているの? トーカ。僕はイシュマだよ」
少し困ったように笑う表情はイシュマとそっくりだけれども……
「違わないよ、ジョシュアでしょ?」
そう言うとイシュマの表情がなくなり
「なんだ……いつから気付いていた」
雰囲気がガラリと変わりジョシュアになる。
いつからって……家に帰ってきた時から……
「最初から……何しているのかなって……」
ふぅ……と息を吐き
「兄弟とはいえ自分以外になりきるというのは疲れるものだな」
私……いくつか名前を持っているけれど……あまりキャラは変えていなかったかも……こんなに別人にはなりきっていなかったかも……
まぁ実在しない……というか全員私だからな。
でも……嘘をつくのは疲れるか……
「イシュマもジョシュアのふりをしていたけれど……」
そして帰ってしまったけれど……
「入れ替わって大丈夫なの?」
「あぁ、前にもしたことはある」
へぇ、そうなんだ。
それにしても……クスクスと笑い出す私を不思議そうに見つめるジョシュア。
「意外とイタズラ好きなんだね」
そう言って笑うとジョシュアは少し驚いたような顔をして……
「トーカは本当に私達三人の見分けがつくのだね。いつもはこんなことをしても誰も気付かないからイタズラにもならないのだよ」
えっ? 一晩入れ替わっても誰も気付かないの? そしてネタバラシもしないんだ……
「きっと演技が上手すぎるんだよ。今日三人でたくさん話をしていたのはイシュマに最近の事を説明していたんだね」
そうだよ、とコクリと頷くジョシュア。
「それにしてもイシュマも凄いね、あんなに雰囲気を変えられるなんて」
そう言うとジョシュアが小さな声で何か呟いた。
聞こえなかったから聞き返そうとしたら、先に風呂に入る、と言うので気にはなったけれど私はお風呂の準備に向かった。
お風呂場へ向かいながらやっぱり疑問に思う……わざわざ入れ替わらなければイシュマはジョシュアとヨシュアのいる家には帰れないのかな……と。
ジョシュアがお風呂に入っている間に夕食の準備をする。
ほとんど準備が終わった頃、ジョシュアがリビングに戻ってきた。
その姿をみて思わず笑ってしまう。
ジョシュアはなぜ笑われているのかわからず首を傾げる。
そんなジョシュアの髪からまた雫が垂れる。
「ごめん、イシュマと同じだったから……やっぱり兄弟だね」
フフフッと笑いながらジョシュアをソファーに座らせ後ろにまわる。
「ちゃんと乾かさないと風邪を引くし枕も濡れちゃうよ」
イシュマに言ったことと同じことを言いタオルで髪を拭いてあげる。
「気持ちいい……」
イシュマと同じことを言うからまた笑ってしまう。
お風呂上がりだからか少し頬を桃色に染めながらそう言って……されるがままのジョシュアは少し幼くみえた。
しっかりタオルドライをしたから夕食を食べている間に乾くかな。
おしまい、とタオルを片付けようと立ち上がると、ありがとう、と呟くようにいうジョシュア……可愛いじゃないか。
思わず手が伸びてジョシュアの頭を撫で……そうになるけれどイシュマの時のことを思い出して……
撫でようとしたことを手ぐしでジョシュアの髪を整えることでごまかす。
タオルを片付けてキッチンに戻り、三毛猫さんのご飯も用意してみんなで夕食を食べた。
「トーカの作る食事は美味しいな」
ジョシュアはそう言ってくれたけれどいつも持ってきてくれる食事の方が凝っているしおいしいと思う……でも
「ありがとう……」
本当においしそうに食べてくれるジョシュアをみて嬉しくなる。
こういう風に素直に感想を言ってくれるのはやっぱり嬉しいものだ。作った甲斐がある。
食事の後片付けをしてジョシュアにお茶を入れてから私もお風呂に入る。
ゆっくりと温まってお風呂から出てパジャマに着替える。
そういえばジョシュアはどこで寝るのだろう……イシュマの部屋かな。
聞いておけば良かった。イシュマの部屋でなければすぐに使える部屋は私の部屋の隣しかない。
他の部屋も掃除をしておかないとな……そんなことを考えながらキッチンにお水を飲みに行く。
リビングを覗くとジョシュアがソファーで本を読んでいて三毛猫さんもソファーでゴロゴロしている。
ジョシュアが私に気が付くと本を置いて
「トーカ、こちらへおいで」
? なんだろう?
ジョシュアが隣に座るように言う。
そしてスリッパを脱いでジョシュアが座っている反対側を向くよう言われる。
ジョシュアに背を向けることになるけれど……
後ろからジョシュアの手が伸びてきて……
私が肩にかけていたタオルで優しく濡れた髪を包むジョシュア。
「ジ……ジョシュア?」
驚いて振り向こうとすると
「そのままで」
私の番だから大人しくしていて、と耳元で囁かれる。
「本当に美しい髪だね」
ジョシュアが長い指で優しく私の髪をすく……気持ちいい。
ありがとう、ジョシュアも
「私もジョシュアの髪も瞳も綺麗だと思うよ」
お互い持っていないものを羨ましく思ってしまうのかな、と二人でクスクスと笑う。
身体の力も抜けて柔らかい空気が流れる。
三毛猫さんが私の膝に乗り丸くなる。
三毛猫さんを撫でながらだんだんリラックスしてくる。
「ジョシュアは……ジョシュアも今リラックスできている?」
私が髪を拭いてもらっているのに何を言っているのだろう……
「あぁ、これまでにない程に……」
ジョシュアのいつもとは違う柔らかい声が耳元に響く。
「そう……それならよかった」
なんとなくだけれど、ジョシュアはいつもどこか張りつめているような気がする。
イシュマだけがここで一人で暮らしていて、使用人もいないし両親も会いに来ない。
食料を運んでくれたロニーもここの住人には会わないように言われているみたいだったし……
ロニーに会ったことは内緒だから聞けないけれど、どうしてイシュマだけがこんなことをされているのかをそれとなく聞いてみるつもりだったけれど……
いつになく柔らかい空気をまとった彼をみて今だけはこのままでいて欲しいと思った。
長男とか関係あるのかはわからないけれどジョシュアがしっかりしているからヨシュアとイシュマが安心しているところもあるのかもしれない。
上手くは言えないけれどジョシュアにも気が抜ける時間があるのなら良かった。
ソファーの背もたれに身を預ける。
「ジョシュア……私、髪が乾くまで起きていられるかなぁ……」
三毛猫さんの温かさと髪に触れられる心地よさにウトウトしてくる。
「寝ていてもいいよ、後は任せて」
そんなことを言われると甘えてしまいたくなる。
「……私にも……お兄さんができたみたい」
目を擦りながらそう言うと
「私はトーカの兄になるつもりはないよ」
断られてしまった……
「それじゃあ……お姫様になったみたい……」
クスクスと笑いながら目を閉じる。
「……私の……」
ジョシュアが何か言ったような気がしたけれど私の意識は深く沈んでいき……
そのまま眠りについてしまった……
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