眠れる森の星空少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 俺が何を言い返しても、早瀬は怒らない。大人の余裕というものだろう。30歳だ。俺もその年になったら、彼のようになれるだろうか。すると、早瀬が俺に聞きたいことがあると言った。何だろう。返事をすると、彼に聞かれた。

「悠人君。確認しておきたいことがある。一緒に過ごしてくれている理由が知りたい」 
「あんたが聞くこと?モップとか言ってるくせに」
「楽しそうにしているからだ。どうして?」
「えーっと。他の奴らと違うからだよ。奥村さんとは大して話してないけど、自分の話ばっかりするんだよ。あのラインを読むと、性格が出ているだろ?友達付き合いだったとしても、疲れそうだよ。裕理さんは聞き上手だし、自分のことも話してくれる。相手の目も見ている。だから一緒にいて楽しい」 
「なるほど。そういう返しがくるとは思っていなかったよ」 
「何か新しいことを見抜いた?今の表情がそうだよ」 
「ますます好きになったよ」 

 早瀬が目を細めて笑い、品定めをするかのように顔を近づけて来た。嫌だと思わないのは、どうしてだろう。きっと清潔感のある人だからだ。慣れたからでもある。まさか惹かれたのか。いやそうではない。

「妙な色気を出すなよ!変質者!」
「面白い子だね。ありがとう、恋人になってくれて」
「恋人同士のフリだよー?」
「『フリ』だなんて、一言も言っていないよ。キス以上はしない恋人同士だ」
「ええ!?前言撤回する。条件はのまない」 
「ダーメ」 

 テーブル越しに手が伸びてきたから、すぐに後ろに下がった。早瀬が身を乗り出して、俺の両方の頬を包み込んだ。至近距離には両目がある。冷静すぎて冷たくも見える印象だ。そして、屈託のない笑顔に早変わりした。まるで彼が二人いるかのようだ。

(夏樹も表情が変わる子だけど。裕理さんの場合は違うと思う……。違う人みたいになるから……)

 早瀬のことがなんだか怖いと思った。すると、彼が俺に微笑みかけてきた。

「俺のことを好きになってくれないかな?」
「NOだよ……」
「可愛い子だ。はい……」
「ひいいいっ。NOだってば……」 
「何かあったのか?そういう顔をしている。このキス以外にも」
「裕理さんの顔が変わるからだよ!二人いるみたい。怖いってば」
「そうか。ばれたか。君のことを驚かせたくて」
「あああーー」

 通算5回目のキスをされてしまった。しつこいぐらいに長くて息苦しくなった後、何とか体を押しのけて終了した。その後も何を言い返しても、面白がらせるだけだった。こうして一日がスタートした。
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