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17時。
館内の5階にある、ビュッフェレストランへ来ている。透明ガラスの吹き抜け天井になっており、暗くなりつつある空が見える。黒っぽい内装で、水槽のような柱からの明かりが大人っぽい。周りにいるお客さんも、大人しかいない。それでも気後れしないのは、食べることに夢中だからだ。
「どれも美味しいよ」
「気に入ったようだね」
「うん。和・洋・中、デザート。種類が多いのに、全部が手作りなんだね」
「よく分かったね。この店の経営は、ラシャンスっていう、ホテルチェーンがやっているんだよ。そこのビュッフェは定評がある」
「テレビで見たことがあるよ。その店が目当てで泊まる人がいるって……」
「来月、宿泊するか?予約を入れておく。バイトのシフトは、火曜、金曜、土曜だね?大学の定期試験と、授業の主だったものを教えてくれないか。登録しておくから」
「どうして、俺の予定を登録するんだよ?」
「恋人同士だからだ。普通のことだよ」
「恋人同士のふりだってば!」
「俺はそう思っていない」
「強引だよーっ」
「美味しそうな手だね?」
早瀬から手を握られた。しかし、一瞬だけ力が緩んだ隙に、手を引っ込めた。楽しそうに笑っている早瀬のことを睨みつけていると、隣の方から視線を感じた。誰か知り合いが来ているのだろうか。顔を上げると、近くのテーブルにいた女性達から見つめられていた。
視線を辿ると、早瀬に注がれているものだと気づいた。当の本人は平然としている。向こうも視線を向けるだけで、話しかけて来ない。何か言いたげではある。はっきりしない様子に苛立った。なんだか失礼だからだ。
「知り合いじゃないの?」
「違うよ。見ているだけだ。こっちも食べてごらん。野菜の煮物も食べようね」
野菜嫌いではないが、今は満腹になるものをメインに食べたい。そのことを言うと、口の中に煮物を放り込まれてしまった。ほうれん草のお浸しも差し出されて、素直に食べた。
「強引だよーー」
「嫌がるからだよ」
「お水を取ってくる……。裕理さんは何か飲む?」
「俺はいいよ」
飲み物を取りに行くという口実を使って逃げ出せた。せっかくだから、どんな料理があるのか見たい。イタリアンのコーナーへ入ると、ラビオリのトマトソースや、緑色のジェラードがあった。ピスタチオ味のようだ。
後で食べようと思い、席へ戻ろうとすると、早瀬の横に女性が立っていた。さっきの人だ。早瀬が笑顔で言葉を返している。
(やっぱり知り合いなのか。話せばいいのにな……)
俺がいたから遠慮をしたのだろうか。 水の入ったグラスとパンを持って戻っていると、女性がスマホを操作し始めた。早瀬が首を振っている。
「この後で良かったら……」
「連れがいるから」
「弟さんも一緒に……」
会話の内容が聞こえる位置まで来て、ナンパだと分かった。早瀬へ声を掛けるのは納得できる。爽やかイケメンで人気がありそうだ。それが分かっているのに、面白くない感情が芽生えた。俺は遠慮なしに歩き進んで、テーブルに戻った。
「裕理さん、おまたせーー」
普通に声を掛けたつもりなのに、不機嫌な声を出した自分に驚いた。早瀬は顔色一つ変えず、女性が表情を明るくさせた。期待などさせていないのに。
「遅かったね。料理をひっくり返しているかと思っていたぞ」
「話していたから遠慮したんだよー」
「すみません。恋人が一緒なので。せっかくの誘いだけど」
「ああー、そうなんですね!」
女性が顔を赤らめてテーブルに戻った。そして、連れの人とギャーギャー騒ぎ始めた。やっぱりそうじゃない、恥ずかしかった、もう出ると言っていた。そういう反応をするのなら、最初から声を掛けてくるな。そう思いながら、野菜の煮物に箸をつけた。
「妬いてくれたのか?」
「勘違いするなよ。……そうだ。裕理さんと黒崎さんの話を聞かせてよ。面白そうだなって思っていたんだ」
「いいよ。場所を変えてから話すよ。ここじゃ気分が悪いだろう?」
「べつにー?」
「強がりだな。そういうところも可愛いよ」
いつものパターンだ。またペースに呑まれたくないから、食べることに集中した。早瀬が俺の方ばかりを見るから居心地が悪いが、それすら気にしないふりをした。
館内の5階にある、ビュッフェレストランへ来ている。透明ガラスの吹き抜け天井になっており、暗くなりつつある空が見える。黒っぽい内装で、水槽のような柱からの明かりが大人っぽい。周りにいるお客さんも、大人しかいない。それでも気後れしないのは、食べることに夢中だからだ。
「どれも美味しいよ」
「気に入ったようだね」
「うん。和・洋・中、デザート。種類が多いのに、全部が手作りなんだね」
「よく分かったね。この店の経営は、ラシャンスっていう、ホテルチェーンがやっているんだよ。そこのビュッフェは定評がある」
「テレビで見たことがあるよ。その店が目当てで泊まる人がいるって……」
「来月、宿泊するか?予約を入れておく。バイトのシフトは、火曜、金曜、土曜だね?大学の定期試験と、授業の主だったものを教えてくれないか。登録しておくから」
「どうして、俺の予定を登録するんだよ?」
「恋人同士だからだ。普通のことだよ」
「恋人同士のふりだってば!」
「俺はそう思っていない」
「強引だよーっ」
「美味しそうな手だね?」
早瀬から手を握られた。しかし、一瞬だけ力が緩んだ隙に、手を引っ込めた。楽しそうに笑っている早瀬のことを睨みつけていると、隣の方から視線を感じた。誰か知り合いが来ているのだろうか。顔を上げると、近くのテーブルにいた女性達から見つめられていた。
視線を辿ると、早瀬に注がれているものだと気づいた。当の本人は平然としている。向こうも視線を向けるだけで、話しかけて来ない。何か言いたげではある。はっきりしない様子に苛立った。なんだか失礼だからだ。
「知り合いじゃないの?」
「違うよ。見ているだけだ。こっちも食べてごらん。野菜の煮物も食べようね」
野菜嫌いではないが、今は満腹になるものをメインに食べたい。そのことを言うと、口の中に煮物を放り込まれてしまった。ほうれん草のお浸しも差し出されて、素直に食べた。
「強引だよーー」
「嫌がるからだよ」
「お水を取ってくる……。裕理さんは何か飲む?」
「俺はいいよ」
飲み物を取りに行くという口実を使って逃げ出せた。せっかくだから、どんな料理があるのか見たい。イタリアンのコーナーへ入ると、ラビオリのトマトソースや、緑色のジェラードがあった。ピスタチオ味のようだ。
後で食べようと思い、席へ戻ろうとすると、早瀬の横に女性が立っていた。さっきの人だ。早瀬が笑顔で言葉を返している。
(やっぱり知り合いなのか。話せばいいのにな……)
俺がいたから遠慮をしたのだろうか。 水の入ったグラスとパンを持って戻っていると、女性がスマホを操作し始めた。早瀬が首を振っている。
「この後で良かったら……」
「連れがいるから」
「弟さんも一緒に……」
会話の内容が聞こえる位置まで来て、ナンパだと分かった。早瀬へ声を掛けるのは納得できる。爽やかイケメンで人気がありそうだ。それが分かっているのに、面白くない感情が芽生えた。俺は遠慮なしに歩き進んで、テーブルに戻った。
「裕理さん、おまたせーー」
普通に声を掛けたつもりなのに、不機嫌な声を出した自分に驚いた。早瀬は顔色一つ変えず、女性が表情を明るくさせた。期待などさせていないのに。
「遅かったね。料理をひっくり返しているかと思っていたぞ」
「話していたから遠慮したんだよー」
「すみません。恋人が一緒なので。せっかくの誘いだけど」
「ああー、そうなんですね!」
女性が顔を赤らめてテーブルに戻った。そして、連れの人とギャーギャー騒ぎ始めた。やっぱりそうじゃない、恥ずかしかった、もう出ると言っていた。そういう反応をするのなら、最初から声を掛けてくるな。そう思いながら、野菜の煮物に箸をつけた。
「妬いてくれたのか?」
「勘違いするなよ。……そうだ。裕理さんと黒崎さんの話を聞かせてよ。面白そうだなって思っていたんだ」
「いいよ。場所を変えてから話すよ。ここじゃ気分が悪いだろう?」
「べつにー?」
「強がりだな。そういうところも可愛いよ」
いつものパターンだ。またペースに呑まれたくないから、食べることに集中した。早瀬が俺の方ばかりを見るから居心地が悪いが、それすら気にしないふりをした。
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