眠れる森の星空少年~あの日のキミ

夏目奈緖

文字の大きさ
82 / 126

7-11

しおりを挟む
 15時。

 庭の眺めが楽しめるリビングにて、珈琲とモンブランをご馳走になった。アンが懐いてくれて、一緒に遊ぶうちに気持ちが解れていった。家の中が温かい空気に包まれているから、何時間でも過ごしたい。祖母の家の雰囲気にも似ている。

「なつきー。急に来てごめんね」
「いいよ。気にしなくて」 
「裕理さんのことを黙っていて……」 
「それも気にしなくていいよ」 
「男に恋愛感情を持ったことがないから、分からなかったんだ。襲われかけたこともあるんだよ。理解出来なかった。その、キ、キ……」 
「キス?」 
「ひいいいっ」 
「真っ赤だよ。初めてなんだね」 
「うん……。奥村さんには付き合っている相手がいるって思わせたらいいと思って、恋人同士のふりをしたんだ。成功したから安心していたよ。あんなことになったけど……」
「俺達がいるからね。奥村さんが何かやってきても大丈夫だよ」 
「ありがとう」 

 夏樹が優しく肩を叩いてくれた。照れくさくなったから話題を変えた。  

「夏樹って強いね!今日のことでも思ったけど、結婚しているんだって実感したよ。義理のお父さんの隣で住んでて、ご飯を食べに行っているんだろ?大変じゃないの?親に会うだけでも面倒くさいっていう奴がいるし」
「ううん。お義父さんは面白い人だから、一緒にいるのが楽しいよ。ただし親戚の人がねえ……。うるさいみたいなんだ。よくある話だよ」 
「大人って感じがするよ。同年代の奴らとは空気が違うもん。悪い意味じゃないからね」 
「分かっているよ。この生活は自分が選択したことだから、後悔はしていないよ」 
「リスペクトするよー。このままだと宙ぶらりんだよ。法学部を選択したのだって、父親から言われたからだし。それを素直に受け入れたんだ」 
「俺も宙ぶらりんだよ……」 

 どうして夏樹が言うのだろう? 真っ直ぐに目標が定まっていると思うのに。やるべき事をこなしているのに。しかし、笑っているから安心して話を聞けた。夏樹が言った。

「宙ぶらりんでも、下には地面があるじゃん。海か水たまりでも底はあるんだよ。底まで落ちたら登るだけだよ。溺れないようにすればいいんだって思ってる。それが分かっていても、10年後は何をしているだろうって、不安になっているよ」 
「夏樹でもそう思うんだ?すごく頑張っているのに。誰かのレポートを参考しないで、自分でイチから作り上げているだろ?三宮教授が『優』の成績をつけたのは珍しいことだって、周りは言っているけど、努力した結果だもん。家事も勉強も真面目じゃん。夏樹がそういうなら、俺なんかどうしたらいいんだよ……」
「子供の頃からの性格なんだよ。黒崎さんからは、手を抜けって叱られているぐらいだし。長いゴムを引っ張っているところを想像してみてよ。100%まで伸ばすと、新しい力が加わると切れるよね?いつも80%にして余力を残しておくんだ。そうすれば追加が来ても、残りの20%で受け止められるっていう理屈だよ。分かっていても出来ないから、こういうところも宙ぶらりんだよ」   
「それに似た話を裕理さんから教えてもらった。新しい事を知るから面白いよ。12歳も離れているせいかな。いいように扱われている気がしてる……」

 早瀬は大人だ。俺は18歳という年齢の大学生だ。大人になっているはずなのに、まだ子供だと感じている。大人扱いもされずに子供でもない。何をやってもフォローされている。結局は都合のいいようにされているという被害妄想もある。 

「悠人。俺から見た早瀬さんのことを話すよ。聞いてもらえる?」
「もちろんだよ」
「誠実な人なんだ。新しい会社へ移った後も、黒崎さんのサポートをしてくれている。自分だって新しい仕事と部下がいるのに。忘れ物を届けに黒崎製菓へ行って、よく分かったよ。口だけなら何とでも言える。早瀬さんは行動に出している。そういう人だよ」 
「そっか……。夏樹も年齢差があるよね?付き合い始める時は、どうだった?」 
「ははは……。けっこう恥ずかしい話だよ。参考になるなら……」  

 夏樹が照れくさそうに笑って話してくれた。黒崎さんと今の安定した関係になるまでは、散々、ぶつかり合ったという。何度も泣いて喧嘩をしたそうだ。お互いの社会的立場の違い、経験の違い、価値観の違い。友達関係でいれば知ることがなかったものが、恋人同士になってから見えるようになり、そのズレのせいで言い合いが絶えなかったそうだ。

 俺と早瀬はどうだろう?正面からぶつかっていない気がする。早瀬と話すことを拒んでいるから、前に進まない。同じところを留まっているのだと知った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】初恋は檸檬の味 ―後輩と臆病な僕の、恋の記録―

夢鴉
BL
写真部の三年・春(はる)は、入学式の帰りに目を瞠るほどのイケメンに呼び止められた。 「好きです、先輩。俺と付き合ってください」 春の目の前に立ちはだかったのは、新入生――甘利檸檬。 一年生にして陸上部エースと騒がれている彼は、見た目良し、運動神経良し。誰もが降り向くモテ男。 「は? ……嫌だけど」 春の言葉に、甘利は茫然とする。 しかし、甘利は諦めた様子はなく、雨の日も、夏休みも、文化祭も、春を追いかけた。 「先輩、可愛いですね」 「俺を置いて修学旅行に行くんですか!?」 「俺、春先輩が好きです」 甘利の真っすぐな想いに、やがて春も惹かれて――。 ドタバタ×青春ラブコメ! 勉強以外はハイスペックな執着系後輩×ツンデレで恋に臆病な先輩の初恋記録。 ※ハートやお気に入り登録、ありがとうございます!本当に!すごく!励みになっています!! 感想等頂けましたら飛び上がって喜びます…!今後ともよろしくお願いいたします! ※すみません…!三十四話の順番がおかしくなっているのに今更気づきまして、9/30付けで修正を行いました…!読んでくださった方々、本当にすみません…!!  以前序話の下にいた三十四話と内容は同じですので、既に読んだよって方はそのままで大丈夫です! 飛んで読んでたよという方、本当に申し訳ございません…! ※お気に入り20超えありがとうございます……! ※お気に入り25超えありがとうございます!嬉しいです! ※完結まで応援、ありがとうございました!

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―

なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。 その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。 死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。 かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。 そして、孤独だったアシェル。 凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。 だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。 生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖
BL
包容力ドS×心優しい大学生。甘々な二人。包容力のある攻に優しく包み込まれる。海のそばの音楽少年~あの日のキミの続編です。 久田悠人は大学一年生。そそっかしくてネガティブな性格が前向きになれればと、アマチュアバンドでギタリストをしている。恋人の早瀬裕理(31)とは年の差カップル。指輪を交換して結婚生活を迎えた。悠人がコンテストでの入賞等で注目され、レコード会社からの所属契約オファーを受ける。そして、不安に思う悠人のことを、かつてバンド活動をしていた早瀬に優しく包み込まれる。友人の夏樹とプロとして活躍するギタリスト・佐久弥のサポートを受け、未来に向かって歩き始めた。ネガティブな悠人と、意地っ張りの早瀬の、甘々なカップルのストーリー。 <作品時系列>「眠れる森の星空少年~あの日のキミ」→「海のそばの音楽少年~あの日のキミ」→本作「回転木馬の音楽少年~あの日のキミ」

処理中です...