眠れる森の星空少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 正門から中央に向かって歩いて行くと、銀杏並木の通りに出る。そこには食堂やカフェが入っている建物がある。その中の一つが、今俺達がいる学食だ。今日は天気が良いから、銀杏並木沿いのテラス席に座った。

 山崎と真羽と俺との3人で注文した大盛りサンドイッチを食べながら、夏樹の言い分を聞いた。夏樹と森本はパンケーキをシェアしているのに、食べているのは森本だけだ。夏樹は口を動かしてばかりで、フォークを動かしていない。

 周りのテーブルでは、学生達が楽しそうに話している。このテーブルでは、夏樹の愚痴が吐き出されている。聞き流してはいない。参考になるから聞いている。好きだという気持ちが厄介なことを知った。俺のやきもちのような気持ちは、早瀬にとってどうだろうか。今もこだわっていることを言えばすっきりしそうだ。笑ってくれるだろうか。それとも、重苦しいだろうか。もしそうだとしたら、今の夏樹のように、仲間に愚痴を言ってくれるのであれば良いのにと思った。

 夏樹の愚痴は月一回ぐらいは聞いている。俺と森本と山崎は聞き慣れた。しかし、真羽はそうではなくて、驚いている。そして、夏樹の話を聞いてくれていた。しかし、真羽ばかりに話すので、彼がサンドイッチを食べるタイミングが無くなってしまっている。そこで、山崎が彼にカツサンドを勧めた。それをありがとうと言って、真羽が食べ始めた。

「真羽、どうだ?ここのカツサンド、美味しいだろう?」
「うん。ボリュームがあるなあ」
「パンケーキも食べろよ。夏樹が食べないからさ」
「ありがとう。お腹が空いていたんだ」

 真羽がパンケーキを食べると、山崎が嬉しそうな顔をした。彼のおすすめだ。美味しいと真羽が言うと、さらに嬉しそうな顔になった。こうやって自分が勧めた物を美味しいと言ってもらえるのは嬉しいだろう。そこで、早瀬との食事の時を思い出した。彼も喜んでくれているだろうかと思った。

(早く会いたいな。ああーー、やきもちなんて嫌だなあ……)

 頭に思い浮かぶフレーズがある。高校時代のバンド仲間から聞いた『恋人からの束縛が激しくて嫌になる』という言葉だ。自分はそう言われたくない。
 
 すると、夏樹の話が始まった。止まる気配がない。でも、嫌ではない。黒崎さんが到着するまで話してくれて良いと思った。

「あのさーー、黒崎さんの小さい頃の写真を見たんだ~。可愛くて、女の子みたいだったんだ~。あの子から、今の姿は想像できないよ~」
「……そうか」
「……ふむふむ。美味しいね、これ」
「でさ~。今でも面影はあるかもって思うんだ。だって、結婚してからは雰囲気が柔らかくなったんだ。そしたら、モテ方に変化が起きたんだ。友達の沙耶さんが言うには……、外見を見て、女の人が寄ってきていたんだよ。結婚してからは、中身もステキだって思われて寄ってくるんだ。メッセージカードは怪しいのがあるんだよ~っ」
「……そうか」
「……ふむふむ。このパンケーキ食べないの?」
「食べていいよ。それでさ~。あの日はさ~、家事はやらないし、強引だし……、おまけに……、ん?」
「……おまたせ」
「く、黒崎さん……」

 夏樹の口が止まった。新しい気配に気づいて顔を上げると、黒崎さんが立っていた。電話では怒っていたのに、優しい顔をしていた。そして、夏樹の両肩に手を置いて、顔を覗き込むようにした。それを見た女の子達から悲鳴が上がった。モテるパートナーがいると大変だなと思った。

「こんにちは。一緒に待ってくれたんだね。ありがとう」 
「いえ、お腹が空いていたので」 
「夏樹。二人にお礼を言え」
「うん。ありがとう。黒崎さん、ごめんね。迎えに来てくれてありがとう……」
「おいで」
「うん。黒崎さん……」

 夏樹の顔が和らいだ。黒崎さんが優しく話しかけたからだ。やっぱり優しい人だ。俺達がいると邪魔だから、退散することにした。正門を出て、真っ直ぐに駅へ向かった。森本達は大学の近くで住んでいるから、駅の前で別れた。
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