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これが大人と子供の違いだろうか。いや、そうではないだろう。自分は何も出来ない。大人しく待っていることしかできない。そして、NOと言い切ることが出来ない。
早瀬が父と話している姿を見つめた。言い争いになっていない。俺とは違うと思った。頼りになる。そう思いながらも、父から相手にされない自分を情けなく感じた。
「ええ、悠人君は夏樹君と仲が良いですよ。学食でも一緒に食べていると、黒崎常務からも聞いています。良いコンビだと笑っていますよ」
「……」
父親の笑い声が聞こえてきた。その理由に察しがついた。夏樹と親しくなると有利だと言っていた人だ。仲良くしていることが聞けて嬉しいのだろう。
「今日はこれから、黒崎常務のお宅へお邪魔します。夏樹君が庭の畑で家庭菜園を始めるので、手伝いをします。IKUエンタテイメントの遠藤代表もいらっしゃいます。ご近所さんだそうです。……そうでしたか」
「……」
「ぜひ。悠人君と予定を合わせてご連絡します。いえ、とんでもない。はい、失礼します」
電話を切った後、早瀬がため息をついた。そして、俺の方へ向き直り、スマホを返してきた。これで用件が済んだぞと言いながら。
「お許しが出たよ」
「お父さんは……、夏樹と仲が良いって聞いたら機嫌を直したんだね……。自分達に有利になる相手ならいいんだ……」
「悠人君。真っ直ぐな君に言うのは酷かもしれないけど、そういう尺度で計る人はいる。お父さんもそうだとは限らない」
「でも、夏樹と仲が良いって聞いたら笑っていたよ」
「友達が出来て、楽しくやっていることが知れて、嬉しかったんだよ」
「本気で言っているわけ?」
「そうだよ。そう受け取ろう。悠人君にやってもらいたいことは、この2点。退寮に関する書類を、お父さんの事務所へ送ること。退寮後に、その旨を連絡すること。さあ行こうか」
早瀬が運転席へ向き直った。子供っぽい自覚はしている。父にとっては、痛くも痒くもない反抗だという事も分かっている。
「裕理さん、待って。もう一回、電話を掛けるから」
「やめておこう。冷静に話が出来ないだろう。裏目に出るだけだ。まずは目的達成が出来たから、引越しを進めよう。それから後で、お父さんに言いたいことを整理する。まくしたてても話は通じない。音楽の事もそうだ。理解してもらいたいなら、考えをまとめてから説明しろ。理解してもらわなくていいなら、今のままでもいい」
「それじゃ、変われないよ。いつもの臆病な自分に戻るだけだから」
「悠人君はね、臆病なんかじゃない。人の目を気にしているんだ」
「俺は落ち着きがなくてバタバタやっていて、その度に失敗して、カッコ悪いところを見せているんだ。お父さんに叱られないか、ビクビクしていたんだ。そんな自分をやめたい」
「落ち着きがないのは、失敗するのを怖がっているからだ。『こんな風になったらどうしよう?』『こうなるかもしれない』っていう、先読みと思い込みのセットだ。やめるなら、その考え方だ」
子供の頃の失敗の数々を思い出した。 恥ずかしいからやめなさいと言われていた。それが呪文のように焼き付いている。
「裕理さん……。俺、小さい時から『どうして他の子のように出来ないんだ?』って言われていたよ。何かやろうとする度に思い出すんだ。焦って失敗しているよ」
「……」
早瀬が思案顔になり、ほんの少しの無言の後、笑った。何かを思い出したようだ。そして、運転席から身を乗り出して、俺の頬を撫でた。
「おばあちゃんから言われたっていう話を思い出したよ。『悠人の落ち着きがないのは、生まれた時に悪い魔法使いから掛けられた呪いのせいだ』っていう、その悪い魔法使いは、お父さんのことじゃないかな?おばあちゃんは、そう言って、お父さんを叱っていたんだよ。悠人君のことを悪く言うなって。俺はそう思う。恥ずかしいからやめなさいとか、どうして他の子のようにできないんだって、まるで呪文だね。出来ないかもしれないと植え付ける言葉だ。もっといい言葉が、沢山あるのにね?」
「……っ」
そういう考え方があるのか。早瀬からの言葉を聞いて、涙がこぼれ落ちていった。そして、心の中のつっかえが取れていくように感じた。さらに涙が溢れて来て、嗚咽も漏れた。みっともない、カッコ悪い。しかし、それでもいいと思った。
早瀬が父と話している姿を見つめた。言い争いになっていない。俺とは違うと思った。頼りになる。そう思いながらも、父から相手にされない自分を情けなく感じた。
「ええ、悠人君は夏樹君と仲が良いですよ。学食でも一緒に食べていると、黒崎常務からも聞いています。良いコンビだと笑っていますよ」
「……」
父親の笑い声が聞こえてきた。その理由に察しがついた。夏樹と親しくなると有利だと言っていた人だ。仲良くしていることが聞けて嬉しいのだろう。
「今日はこれから、黒崎常務のお宅へお邪魔します。夏樹君が庭の畑で家庭菜園を始めるので、手伝いをします。IKUエンタテイメントの遠藤代表もいらっしゃいます。ご近所さんだそうです。……そうでしたか」
「……」
「ぜひ。悠人君と予定を合わせてご連絡します。いえ、とんでもない。はい、失礼します」
電話を切った後、早瀬がため息をついた。そして、俺の方へ向き直り、スマホを返してきた。これで用件が済んだぞと言いながら。
「お許しが出たよ」
「お父さんは……、夏樹と仲が良いって聞いたら機嫌を直したんだね……。自分達に有利になる相手ならいいんだ……」
「悠人君。真っ直ぐな君に言うのは酷かもしれないけど、そういう尺度で計る人はいる。お父さんもそうだとは限らない」
「でも、夏樹と仲が良いって聞いたら笑っていたよ」
「友達が出来て、楽しくやっていることが知れて、嬉しかったんだよ」
「本気で言っているわけ?」
「そうだよ。そう受け取ろう。悠人君にやってもらいたいことは、この2点。退寮に関する書類を、お父さんの事務所へ送ること。退寮後に、その旨を連絡すること。さあ行こうか」
早瀬が運転席へ向き直った。子供っぽい自覚はしている。父にとっては、痛くも痒くもない反抗だという事も分かっている。
「裕理さん、待って。もう一回、電話を掛けるから」
「やめておこう。冷静に話が出来ないだろう。裏目に出るだけだ。まずは目的達成が出来たから、引越しを進めよう。それから後で、お父さんに言いたいことを整理する。まくしたてても話は通じない。音楽の事もそうだ。理解してもらいたいなら、考えをまとめてから説明しろ。理解してもらわなくていいなら、今のままでもいい」
「それじゃ、変われないよ。いつもの臆病な自分に戻るだけだから」
「悠人君はね、臆病なんかじゃない。人の目を気にしているんだ」
「俺は落ち着きがなくてバタバタやっていて、その度に失敗して、カッコ悪いところを見せているんだ。お父さんに叱られないか、ビクビクしていたんだ。そんな自分をやめたい」
「落ち着きがないのは、失敗するのを怖がっているからだ。『こんな風になったらどうしよう?』『こうなるかもしれない』っていう、先読みと思い込みのセットだ。やめるなら、その考え方だ」
子供の頃の失敗の数々を思い出した。 恥ずかしいからやめなさいと言われていた。それが呪文のように焼き付いている。
「裕理さん……。俺、小さい時から『どうして他の子のように出来ないんだ?』って言われていたよ。何かやろうとする度に思い出すんだ。焦って失敗しているよ」
「……」
早瀬が思案顔になり、ほんの少しの無言の後、笑った。何かを思い出したようだ。そして、運転席から身を乗り出して、俺の頬を撫でた。
「おばあちゃんから言われたっていう話を思い出したよ。『悠人の落ち着きがないのは、生まれた時に悪い魔法使いから掛けられた呪いのせいだ』っていう、その悪い魔法使いは、お父さんのことじゃないかな?おばあちゃんは、そう言って、お父さんを叱っていたんだよ。悠人君のことを悪く言うなって。俺はそう思う。恥ずかしいからやめなさいとか、どうして他の子のようにできないんだって、まるで呪文だね。出来ないかもしれないと植え付ける言葉だ。もっといい言葉が、沢山あるのにね?」
「……っ」
そういう考え方があるのか。早瀬からの言葉を聞いて、涙がこぼれ落ちていった。そして、心の中のつっかえが取れていくように感じた。さらに涙が溢れて来て、嗚咽も漏れた。みっともない、カッコ悪い。しかし、それでもいいと思った。
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