98 / 126
9-1 魔法使いの家
しおりを挟む
6月9日、日曜日。午前8時半。
緩やかな坂になっている住宅街を早瀬の車が進んでいく。今日は夏樹の家へ遊びに行く日だ。早瀬と2人で選んだ土産が後部座席にある。しゃぶしゃぶを食べに行った日から、俺達は喧嘩やすれ違いをしていない。仲睦まじく土産を選べたと思う。それが嬉しくて、後部座席を振り返っていると車酔いになりそうになり、早瀬から笑われてしまった。
「夏樹から聞いたんだ。実家ではトマトを育てていたんだって。今はプランターで九条ネギとニラ、ミント、プチトマト、大葉を育てているんだ。遊びに行った時に見せてもらったよ。レース編みもやっていたんだ。俺とは性格が反対だよ」
「それは言える。温泉施設のプールで遊ぶか、露天風呂で過ごす違いだ。今日はバタバタ走り回れるね。外は車が多くて危ないからね。よかったね」
「俺は小学生じゃないよ」
「色んな虫が棲んでいそうだ。楽しみだね?」
「……」
「あれ?虫は苦手だったかな?」
「苦手……」
「キッチンの黒いヤツだけかと思っていたよ」
「全般がダメ……」
「土を掘り起こすと色々と……、楽しみだね?」
「子供みたいな嫌がらせを言うなよー」
早瀬の身体をバシバシ叩いてやった。それでも笑い続けているから無駄なのか。気を紛らわそうとスマホを見ると、父からの着信はなかった。
「お父さんから折り返しがないだろう?」
「うん。今日は休みのはずだけど。そのうちかかってくるよ」
今朝、父親に電話を掛けた。早瀬と暮らすことを伝えるためだ。 早瀬は大丈夫だと言うが、すんなり納得するとは思えない。嫌な思いをするのは自分だけでいい。用件だけ伝えた後、電話を切るつもりだ。
(でもなあ。裕理さんとは仕事で会う機会があるし、何か言うかもしれない……)
それが引っかかっている一番の理由だ。母からは連絡が来るが、恋人と暮らしているのを知った後は追い払うようにして電話を切っている。
「悠人君、心配ない。SPの俺がいる」
「エロいSPだよね」
「へえ~?どうしてエロいのかな?」
「知らないよ!あ、お父さんから電話が来た……」
「公園があるから停めるよ。時間はまだある」
「ありがとう」
父から電話が入った。車が右折して公園のそばに行った。俺は停車するのを待たずに電話に出た。さっさと用件を言ってしまいたいからだ。
「もしもし」
「お前の方から珍しいな。何があった?」
「寮を出るからその連絡だよ。一緒に暮らしたい人がいるから」
「同級生の子か?」
「社会人だよ。今年31歳の男の人。付き合っているんだ。その人のマンションへ行くから」
「相手の名前と勤務先を教えろ」
「それを先に聞くわけ?いつからとか聞かないわけ?」
「まずは相手のことだ」
胸がチクチク痛くなった。どういう付き合いをしているのか?いつから?同性だろう?そういう質問が飛んでくる前に、相手の『名刺』を知りたがっている。大企業に勤めている相手ならいいのか? 父に聞きたいことがたくさんある。ありすぎて黙っていると、父の声が固くなった。 こうして言葉に詰まった時には、威圧感を感じている。
「悠人。名前も言えない相手なのか?」
「お父さんには言いたくない!」
「反抗か」
「もう大学をやめ……、裕理さん!?」
電話がつながったまま、横から伸びた手にスマホを奪い取られた。そして、止める間もなく、早瀬が話し始めた。
「もしもし。お久しぶりです、黒崎製菓の早瀬です」
「……」
「はい。悠人君とはバイト先で知り合いました。会社の近くです。ええ、そうでしたね」
「……」
「とんでもない。その節はお世話になりました。はい、業務は順調です」
話しぶりからも、ごく普通の空気が流れている。早瀬の横顔には笑顔が浮かんでいるし、内容は聞けないものの、スピーカーから漏れ聞こえてくれる声のトーンは落ち着いている。何も怒っていないように聞こえる。
緩やかな坂になっている住宅街を早瀬の車が進んでいく。今日は夏樹の家へ遊びに行く日だ。早瀬と2人で選んだ土産が後部座席にある。しゃぶしゃぶを食べに行った日から、俺達は喧嘩やすれ違いをしていない。仲睦まじく土産を選べたと思う。それが嬉しくて、後部座席を振り返っていると車酔いになりそうになり、早瀬から笑われてしまった。
「夏樹から聞いたんだ。実家ではトマトを育てていたんだって。今はプランターで九条ネギとニラ、ミント、プチトマト、大葉を育てているんだ。遊びに行った時に見せてもらったよ。レース編みもやっていたんだ。俺とは性格が反対だよ」
「それは言える。温泉施設のプールで遊ぶか、露天風呂で過ごす違いだ。今日はバタバタ走り回れるね。外は車が多くて危ないからね。よかったね」
「俺は小学生じゃないよ」
「色んな虫が棲んでいそうだ。楽しみだね?」
「……」
「あれ?虫は苦手だったかな?」
「苦手……」
「キッチンの黒いヤツだけかと思っていたよ」
「全般がダメ……」
「土を掘り起こすと色々と……、楽しみだね?」
「子供みたいな嫌がらせを言うなよー」
早瀬の身体をバシバシ叩いてやった。それでも笑い続けているから無駄なのか。気を紛らわそうとスマホを見ると、父からの着信はなかった。
「お父さんから折り返しがないだろう?」
「うん。今日は休みのはずだけど。そのうちかかってくるよ」
今朝、父親に電話を掛けた。早瀬と暮らすことを伝えるためだ。 早瀬は大丈夫だと言うが、すんなり納得するとは思えない。嫌な思いをするのは自分だけでいい。用件だけ伝えた後、電話を切るつもりだ。
(でもなあ。裕理さんとは仕事で会う機会があるし、何か言うかもしれない……)
それが引っかかっている一番の理由だ。母からは連絡が来るが、恋人と暮らしているのを知った後は追い払うようにして電話を切っている。
「悠人君、心配ない。SPの俺がいる」
「エロいSPだよね」
「へえ~?どうしてエロいのかな?」
「知らないよ!あ、お父さんから電話が来た……」
「公園があるから停めるよ。時間はまだある」
「ありがとう」
父から電話が入った。車が右折して公園のそばに行った。俺は停車するのを待たずに電話に出た。さっさと用件を言ってしまいたいからだ。
「もしもし」
「お前の方から珍しいな。何があった?」
「寮を出るからその連絡だよ。一緒に暮らしたい人がいるから」
「同級生の子か?」
「社会人だよ。今年31歳の男の人。付き合っているんだ。その人のマンションへ行くから」
「相手の名前と勤務先を教えろ」
「それを先に聞くわけ?いつからとか聞かないわけ?」
「まずは相手のことだ」
胸がチクチク痛くなった。どういう付き合いをしているのか?いつから?同性だろう?そういう質問が飛んでくる前に、相手の『名刺』を知りたがっている。大企業に勤めている相手ならいいのか? 父に聞きたいことがたくさんある。ありすぎて黙っていると、父の声が固くなった。 こうして言葉に詰まった時には、威圧感を感じている。
「悠人。名前も言えない相手なのか?」
「お父さんには言いたくない!」
「反抗か」
「もう大学をやめ……、裕理さん!?」
電話がつながったまま、横から伸びた手にスマホを奪い取られた。そして、止める間もなく、早瀬が話し始めた。
「もしもし。お久しぶりです、黒崎製菓の早瀬です」
「……」
「はい。悠人君とはバイト先で知り合いました。会社の近くです。ええ、そうでしたね」
「……」
「とんでもない。その節はお世話になりました。はい、業務は順調です」
話しぶりからも、ごく普通の空気が流れている。早瀬の横顔には笑顔が浮かんでいるし、内容は聞けないものの、スピーカーから漏れ聞こえてくれる声のトーンは落ち着いている。何も怒っていないように聞こえる。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】初恋は檸檬の味 ―後輩と臆病な僕の、恋の記録―
夢鴉
BL
写真部の三年・春(はる)は、入学式の帰りに目を瞠るほどのイケメンに呼び止められた。
「好きです、先輩。俺と付き合ってください」
春の目の前に立ちはだかったのは、新入生――甘利檸檬。
一年生にして陸上部エースと騒がれている彼は、見た目良し、運動神経良し。誰もが降り向くモテ男。
「は? ……嫌だけど」
春の言葉に、甘利は茫然とする。
しかし、甘利は諦めた様子はなく、雨の日も、夏休みも、文化祭も、春を追いかけた。
「先輩、可愛いですね」
「俺を置いて修学旅行に行くんですか!?」
「俺、春先輩が好きです」
甘利の真っすぐな想いに、やがて春も惹かれて――。
ドタバタ×青春ラブコメ!
勉強以外はハイスペックな執着系後輩×ツンデレで恋に臆病な先輩の初恋記録。
※ハートやお気に入り登録、ありがとうございます!本当に!すごく!励みになっています!!
感想等頂けましたら飛び上がって喜びます…!今後ともよろしくお願いいたします!
※すみません…!三十四話の順番がおかしくなっているのに今更気づきまして、9/30付けで修正を行いました…!読んでくださった方々、本当にすみません…!!
以前序話の下にいた三十四話と内容は同じですので、既に読んだよって方はそのままで大丈夫です! 飛んで読んでたよという方、本当に申し訳ございません…!
※お気に入り20超えありがとうございます……!
※お気に入り25超えありがとうございます!嬉しいです!
※完結まで応援、ありがとうございました!
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―
なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。
その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。
死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。
かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。
そして、孤独だったアシェル。
凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。
だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。
生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
回転木馬の音楽少年~あの日のキミ
夏目奈緖
BL
包容力ドS×心優しい大学生。甘々な二人。包容力のある攻に優しく包み込まれる。海のそばの音楽少年~あの日のキミの続編です。
久田悠人は大学一年生。そそっかしくてネガティブな性格が前向きになれればと、アマチュアバンドでギタリストをしている。恋人の早瀬裕理(31)とは年の差カップル。指輪を交換して結婚生活を迎えた。悠人がコンテストでの入賞等で注目され、レコード会社からの所属契約オファーを受ける。そして、不安に思う悠人のことを、かつてバンド活動をしていた早瀬に優しく包み込まれる。友人の夏樹とプロとして活躍するギタリスト・佐久弥のサポートを受け、未来に向かって歩き始めた。ネガティブな悠人と、意地っ張りの早瀬の、甘々なカップルのストーリー。
<作品時系列>「眠れる森の星空少年~あの日のキミ」→「海のそばの音楽少年~あの日のキミ」→本作「回転木馬の音楽少年~あの日のキミ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる