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午前11時。
畑の作業が順調に進んでいった。俺は畑の半分を平らにする作業を終え、反対側で作業している夏樹に声をかけた。
「なつきー。こっちは終わったよー」
「ありがとう!」
夏樹が向こうから手を振って来た。そろそろ休憩時間に入る頃で、ちょうどいいタイミングで終わった。普段は汗をかかないのに、額や首筋が濡れている。シートの上に置いたタオルを取ろうとすると、先に早瀬が取ってくれた。
「はい、拭いてあげるよ」
「ありがとう」
「こっちを向いてごらん」
「うん」
額と首筋の汗をふき取られた後、Tシャツの中に手が入ってきたから、ドキッとした。しかし、背中の汗を拭いてくれたのだと分かり、ホッとした。
「背中も汗をかいているね」
「うん。久しぶりだよ。こんなに汗をかいたのは」
「今夜もかかせてあげようか?」
「何のこと?」
「ベッドの中のことだよ」
「え、え、ええ!?」
「やることをやりたい」
「え、ええ!?」
「ゆうとくーん、どうしたのかな?」
「ひいいいっ」
「この反応は、いつまで続くかな?初々しさが消える日が来るのが寂しいよ」
「離せよー」
「ダーメ、恋人同士だ。おかしくないぞ」
「キスはしないからねー」
顔が近づいて来たから、慌てて両手で押しのけた。早瀬がいじめっ子の顔で笑っている。するとその時だ。天の助けがやって来た。 黒崎さんが早瀬のことを呼んでいる。
「裕理。親父が話したいそうだ」
「はーい!」
早瀬が俺の真似をして返事をした。真似するなと文句を言うと、二人が笑っていた。二人はプライベートでは、大学の先輩と後輩の関係に戻ると言っていた。お互いの呼び方も変化して、ここでは下の名前で呼び合っている。
(いいな。いつまでも先輩と後輩っていうのって……)
夏樹と桜木さんがテラスの椅子に座って、お茶を飲んでいる。俺も入ろうと思って向かおうとすると、アンが走ってきた。その後ろからは、大型犬も来ている。そして、俺の周りで2匹がグルグル回って遊び始めた。
「君は、どこの子かなー?」
「その子はリクだよ。うちの子」
「遠藤さん家の子だったんですねー」
歩いて来たのは遠藤さんだ。アメリカンレーキを使っていた時、手を添えて助けてくれた。重くてヨロけても、楽しそうに笑ってくれた。
「リクは何歳ですか?」
「まだ生後8ヶ月だよ。体が大きいから大人みたいだろう」
「はい。アンと同じぐらいなんですね」
すると、リクが鼻先をひっつけてきた。何か匂いがするのだろうか。背中を撫でると、パタパタと尻尾を降った。その姿を見て、遠藤さんが笑った。
「リクが家族以外に懐くのは珍しいよ」
「そうなんですね。こんなに遊んでいるのに」
「夏樹君にも懐いた。悠人君のことも好きみたいだね。優しいからだろう」
「へへへ……」
「悠人君のお父さんが久田弁護士だと、黒崎さんから聞いたよ」
「父をご存知だったんですね」
「ああ」
父の法律事務所は取り扱い分野が広い。知り合いが多いものの、こうして名前が出ることはなかった。早瀬や黒崎さんも顔見知りだから、不思議な感覚だ。俺とは年に数回しか会わないのに、家族以外が知っているなんてと思った。すると、遠藤さんが言った。
「久田さんの事務所で、うちの法務部門の相談役をお願いしている。何度か食事をしたよ。最近は会っていないが……。退院後の体調はどうだろう?」
「え?」
思わず言葉に詰まったのは、入院したことを知らなかったからだ。いつ入院したのだろう。家に帰ってこないのは周りには内緒にしている。だから話を合わせないといけない。しかし、今更だと思った。心配してくれている人に嘘をつきたくないと思った。
「胃潰瘍で3日間の入院だと聞いていた。過労があったんだろう」
「電話では変わらない様子でした」
「その様子だと、お父さんは君に内緒にしていたんだろう。すまない。大学受験の直前の頃のことだった」
「はい。何も知らなくて」
「心配をかけたくなかったんだろう」
「はい……」
遠藤さんは俺が知らないことを、どうして?とは聞いてこなかった。別居しているのを知っているのかも知れない。受験前に、父は俺に電話をかけてきていた。入院のことを知らなかったのは、俺が電話に出なかったからだ。いくら嫌いな人でも、酷いことをしてしまった。しかし、胸がチクリと痛んだが、ごめんねとは言いたくない。
「お父さんからは悠人君の話を聞かせてもらっていたよ。家のことを話す人じゃないが、楽しそうにしている。君のことを心強いと言っていたよ」
「ええ?」
「そんなに怖いお父さんなのか。わざと挑発すると、負けん気を出すと言っていたよ。根性があると自慢された。大学合格も喜んでいたよ。受かりやしないと嫌味を言ったら、次の模試で高得点を出したそうじゃないか」
「そんなこと言っていたんだ……」
「褒められていなかったんだね。さっきの畑づくりでも、根性を見せていたじゃないか。良くやった!」
背中をバシッと叩かれた。けっこう痛かった。でも、とても嬉しかった。
畑の作業が順調に進んでいった。俺は畑の半分を平らにする作業を終え、反対側で作業している夏樹に声をかけた。
「なつきー。こっちは終わったよー」
「ありがとう!」
夏樹が向こうから手を振って来た。そろそろ休憩時間に入る頃で、ちょうどいいタイミングで終わった。普段は汗をかかないのに、額や首筋が濡れている。シートの上に置いたタオルを取ろうとすると、先に早瀬が取ってくれた。
「はい、拭いてあげるよ」
「ありがとう」
「こっちを向いてごらん」
「うん」
額と首筋の汗をふき取られた後、Tシャツの中に手が入ってきたから、ドキッとした。しかし、背中の汗を拭いてくれたのだと分かり、ホッとした。
「背中も汗をかいているね」
「うん。久しぶりだよ。こんなに汗をかいたのは」
「今夜もかかせてあげようか?」
「何のこと?」
「ベッドの中のことだよ」
「え、え、ええ!?」
「やることをやりたい」
「え、ええ!?」
「ゆうとくーん、どうしたのかな?」
「ひいいいっ」
「この反応は、いつまで続くかな?初々しさが消える日が来るのが寂しいよ」
「離せよー」
「ダーメ、恋人同士だ。おかしくないぞ」
「キスはしないからねー」
顔が近づいて来たから、慌てて両手で押しのけた。早瀬がいじめっ子の顔で笑っている。するとその時だ。天の助けがやって来た。 黒崎さんが早瀬のことを呼んでいる。
「裕理。親父が話したいそうだ」
「はーい!」
早瀬が俺の真似をして返事をした。真似するなと文句を言うと、二人が笑っていた。二人はプライベートでは、大学の先輩と後輩の関係に戻ると言っていた。お互いの呼び方も変化して、ここでは下の名前で呼び合っている。
(いいな。いつまでも先輩と後輩っていうのって……)
夏樹と桜木さんがテラスの椅子に座って、お茶を飲んでいる。俺も入ろうと思って向かおうとすると、アンが走ってきた。その後ろからは、大型犬も来ている。そして、俺の周りで2匹がグルグル回って遊び始めた。
「君は、どこの子かなー?」
「その子はリクだよ。うちの子」
「遠藤さん家の子だったんですねー」
歩いて来たのは遠藤さんだ。アメリカンレーキを使っていた時、手を添えて助けてくれた。重くてヨロけても、楽しそうに笑ってくれた。
「リクは何歳ですか?」
「まだ生後8ヶ月だよ。体が大きいから大人みたいだろう」
「はい。アンと同じぐらいなんですね」
すると、リクが鼻先をひっつけてきた。何か匂いがするのだろうか。背中を撫でると、パタパタと尻尾を降った。その姿を見て、遠藤さんが笑った。
「リクが家族以外に懐くのは珍しいよ」
「そうなんですね。こんなに遊んでいるのに」
「夏樹君にも懐いた。悠人君のことも好きみたいだね。優しいからだろう」
「へへへ……」
「悠人君のお父さんが久田弁護士だと、黒崎さんから聞いたよ」
「父をご存知だったんですね」
「ああ」
父の法律事務所は取り扱い分野が広い。知り合いが多いものの、こうして名前が出ることはなかった。早瀬や黒崎さんも顔見知りだから、不思議な感覚だ。俺とは年に数回しか会わないのに、家族以外が知っているなんてと思った。すると、遠藤さんが言った。
「久田さんの事務所で、うちの法務部門の相談役をお願いしている。何度か食事をしたよ。最近は会っていないが……。退院後の体調はどうだろう?」
「え?」
思わず言葉に詰まったのは、入院したことを知らなかったからだ。いつ入院したのだろう。家に帰ってこないのは周りには内緒にしている。だから話を合わせないといけない。しかし、今更だと思った。心配してくれている人に嘘をつきたくないと思った。
「胃潰瘍で3日間の入院だと聞いていた。過労があったんだろう」
「電話では変わらない様子でした」
「その様子だと、お父さんは君に内緒にしていたんだろう。すまない。大学受験の直前の頃のことだった」
「はい。何も知らなくて」
「心配をかけたくなかったんだろう」
「はい……」
遠藤さんは俺が知らないことを、どうして?とは聞いてこなかった。別居しているのを知っているのかも知れない。受験前に、父は俺に電話をかけてきていた。入院のことを知らなかったのは、俺が電話に出なかったからだ。いくら嫌いな人でも、酷いことをしてしまった。しかし、胸がチクリと痛んだが、ごめんねとは言いたくない。
「お父さんからは悠人君の話を聞かせてもらっていたよ。家のことを話す人じゃないが、楽しそうにしている。君のことを心強いと言っていたよ」
「ええ?」
「そんなに怖いお父さんなのか。わざと挑発すると、負けん気を出すと言っていたよ。根性があると自慢された。大学合格も喜んでいたよ。受かりやしないと嫌味を言ったら、次の模試で高得点を出したそうじゃないか」
「そんなこと言っていたんだ……」
「褒められていなかったんだね。さっきの畑づくりでも、根性を見せていたじゃないか。良くやった!」
背中をバシッと叩かれた。けっこう痛かった。でも、とても嬉しかった。
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