恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖

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 この辺りの水辺には、光り始めた橋が並んでいる。アトラクションも彩られ始めて、昼間とは異なる、幻想的な世界に変わった。夏樹が俺のことを心配している。電話が解決していないのなら、俺のことは気にせずに仕事をしてくれとまで言われた。それを聞いて、また胸の奥が痛くなった。

「夏樹。後で話す。待たせてすまない」 
「俺のことはいいよ。もう大丈夫なの?ここはおとぎの国みたいで楽しいね。動物のイルミネーションまであるもんね。光の動物園みたいだよー。ドイツのクリスマスマーケットが、こういう感じなんだ。ネットで見た時、綺麗だなって思ったんだ。……そうだ、イングリッシュローズガーデンのアーチも光るんだって。まさに絵本の世界みたいになっているんじゃないかな?」 

 動物のモニュメントが並び、夏樹がそれらを眺めて微笑んでいる。彼こそ、この世界の住人のように思えた。後ろでは、メリーゴーランドが光を放っている。これほど似合う子はいないだろう。さっきの生々しいやり取りとは、真逆の存在だ。汚したくない。今のように、光に包まれていてほしい。 

「お前こそ、おとぎの国の住人のようだ。見事に溶け込んでいる」
「それって褒め言葉なの?」 
「最大級の褒め言葉だ」 
「信用できないよー。妖精を妖怪だと間違えたくせに」
「そうか……」 
「黒崎さんって、メリーゴーランドみたいだね。次から次へ新しい面が見つかるからだよ。ああやって何度も同じ馬が回っているけど、色んな表情の馬がいるから忘れるんだ。……同じ景色が目の前に戻って来ると、新しい馬みたいに見える。人の気持ちとか考え方が……、ひとつじゃないのと同じだね。答えが決まっていないんだ」
「お前の方がメリーゴーランドのようだ。出会ったときは可愛らしくて憎たらしい高校生だった。あれから三ヶ月しか経っていないが、今のお前は大人になった。嫌みを言ったかと思えば、大人びたことを言い始める。その時の凜とした表情が好きだ」
「あんたのおかげだよ。怖い見た目に慣れて、意地悪にも驚かなくなったし。ああー、星が見えてきたよ」 

 赤い夕焼けに染まった雲が流れていたはずの空が、その色を変えていた。深い青や灰色がかった空は、まるで水彩絵の具で描いたかのようだ。その中には、ひときわ明るい星が輝いている。夏樹がその星を指して言った。

「広場で星を眺めた日を覚えている?アンタレスが最後の時を迎えた時、お疲れ様って声をかけたいって話をしたよね。……今は違う言葉をかけたいんだ。あなたを愛し続けるって……」 
「お前の好きな歌詞だったな」 
「そうだよ。”心のドア”の歌詞だよ」
「大人っぽいな」
「子供っぽいから、たまには大人になるよ」
「急いで大人になるな」 
「大人の階段を上らせたのは、誰だっけ?そろそろ観覧車に乗ろうよー」 

 俺の腕を掴んで強く引いた。感じたことのない温もりによって、寂しかった子供時代が思い出に変わりそうだ。

 するとその時だ。ゴンドラに乗り込む前に着信が鳴り、優衣からのメッセージが入った。とても穏便では済まされない内容だった。夏樹を一目見たいから会いに行くと書いてあった。

 それを読み、気まぐれに付き合ってきた自分自身への苛立ちを抑え切れず、事情を知らない夏樹の顔を曇らせた。ゴンドラに乗るのは後にした方がいいかと思ったが、夏樹に綺麗な景色を見せたいから乗り込んだ。こうするしか出来ない。笑顔にさせる方法が、他に思いつかないからだった。
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