恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖

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4-8(黒崎視点)

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 18時。

 夏の日暮れは遅い。ようやく日が傾いてきた時間だ。ホテルのイベントを見た後、夏樹と二人で園内を回った。夕方になり、イルミネーションの点灯が始まっている場所を見つけた。それらの装飾を眺めながら、夏樹が表情を輝かせている。午前中は喧嘩をしてしまい、ホテルの部屋では夏樹の機嫌を損ねかけてしまった。しかし、ホテルでのイベントを見せると、たちまち機嫌を直してもらえた。

 俺から離れて行くかもしれないという思いが俺の中にある。イングリッシュローズガーデンでは、夏樹の視界から外れたくないと思った。そして、彼のことを乱暴に扱い、委縮させてしまった。いつもそれを繰り返していると思う。

(上手くいかない。大切にする方法を間違えているのか?まだ遠慮がちだ……)

 夜のイベント目当てだろうか。寄り添うカップルが増えた。夏樹と手を繋ぎたいと思ったが、まだ彼の方からは手を繋がれたことなく、俺の方から手を取っている。

(綺麗だな……)

 タワー型の観覧車が建ち、大きな柱からは、繊細に彩られた光が放たれた。そして、そばにあるメリーゴーランドからの煌びやかな光によって、さらに周囲が輝きに包まれた。 夏樹の髪の毛が風になびき、その光に照らされた。これで天使の羽があれば合うと思った。

「こんなに沢山の人がいても、あんたの事は見つけられるよ。自信があるんだよー。だから、俺のことも見つけてよ」 
「どこかへ行くつもりなのか?……すまない。電話だ。待っていてくれ」
「うん。一人で平気だからね」

 視界に入る位置を保ち、会話が聞こえない場所へ向かった。着信表示は”葉月優衣”だ。もうとっくに別れ話は解決したはずが、またこうして連絡が入るようになった。つい最近まで付き合っていた相手とは別れたのだと言われた。俺の方は付き合っている相手がいるのだと返事をすると、俺に脅しをかけてきた。夏樹のことを言いふらすとまで言われた。俺としては言いふらして貰ってかまわないのだが、夏樹や家族に危険が及ぶ可能性を考えて、もう一度、優衣と会って話そうかと思っている。

 彼女が俺に要求しているのは、彼女の家に行くことだ。俺が彼女の家に忘れた新しいレストランのパンフレットを取りに来いというものだった。捨てて貰ってかまわないと言ったが、彼女は納得しなかった。

 優衣に電話をかけた。通話を始めた時点で、険悪なムードが漂っていた。かけ直すのが遅いと言っている。そして、俺とまた会いたいのだと言っている。しかし、俺はそういう付き合い方はやめた。今は夏樹がいるからだ。

(黒崎君……、どこにいるの?) 
「遊園地に来ている」
(また会って貰いたいの)
「いくら連絡をして来ても無駄だ」
(電話ぐらい、いいじゃない。本当に冷たいのね) 
「用件はなんだ?デート中だから手短に頼む」
(……やり直して欲しいの。……付き合っている相手は開明高校の生徒でしょう?妹の万理ちゃんは、他の高校の二年生よね?学校名まで調べられなかったわ。あんまり似ていないのね。夏樹君、お母さん似かしら?男の子でも可愛いものね。左手みたいに、顔に傷が出来たらどうする?それでも、好きなのかしら?) 
「どうして知っているんだ?」
(見に行ったからよ)

 それを聞いて全身の血が沸騰しそうになった。万理のことまで知っているなら、本当に家や学校まで行ったのだろうと思った。ここまで知っていることをアピールし、危害を加えるかのような発言までされた。 

「お前には関係ない。他に用件はあるのか?」 
(荷物があるから、取りに来てほしいの)
「そんな物は無い。会う筋合いもない」 
(あるわよ。パンフレットよ。取りに来てもらいたいの。月一回でも会ってほしいの。女性の体の方がいいでしょう?そんなに夏樹君がいいの?) 
「何が言いたいのか分からない」
(夏樹君って可愛い顔をしているわね。しかも優しい性格だなんて、揃いすぎて怖くないの?開明高校ではあなたって彼氏って呼ばれているのよね?夏樹君みたいな優等生は、あなたに似合わないわ……)
「連絡を寄越して来るな。周りもうろつくな」
(やり直してほしいだけなの。お願い……。会社に電話をかけられたくないでしょう?)

 これ以上聞かずに電話を切った。夏樹に打ち明ける必要がある。どう責められても仕方がないと思った。彼と家族の身を守る事が先決だ。しかし、平常心が保てそうにもない。優衣からの電話のことを振り返ると、今までの話とは内容が変わっていた。夏樹と家族に被害が出ないように手を打つ。このまま早瀬に電話をかけた。
  
(……社長。お疲れ様です) 
「葉月優衣から電話が入った。脅しの内容だ。帰った後で話をつける」 
(承知いたしました。今日も女性から電話が入ったよ。葉月さんじゃないかな。その後は静かだ。対処しておこうか?) 
「マカロンを土産にする。すまない」
(では、後ほど経過を報告します) 

 早瀬との通話を終えた。そして、夏樹の姿を探すと、すぐに見つけられた。彼は近くにあるメリーゴーランドを眺めていた。ほんの一瞬でも一人にさせたくなかった。彼の元に行き、電話が終わったことを伝えると、ホッとした顔をしていた。それを見て、胸の奥が痛くなった。いつ優衣のことを話そうかと悩んだ。
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