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黒崎の反応を見て、支配人が胸をなで下ろし、演奏を待っている人達の元へ向かった。演奏することが決まった。拍手まで聞こえてきた。俺は黒崎に無理をさせていないか心配になった。
すると、俺の我が儘を聞く代わりに手を繋がせてくれと黒崎から言われて、手を繋いだ。さらに抱き寄せられた。こんな場所でやめてほしい。周りに人がいるからだ。俺は顔が赤くなるのを誤魔化せなくて、やめてくれと言った。すると、黒崎が俺の方を向いて笑った。
「夏樹。今夜のリクエストは?」
「あ、えーっとね……」
抱き寄せられたままで聞かれたから、耳元で響いた低い声に、胸の鼓動が跳ねた。さすがに離れて貰いたい。いい加減にしろと言いながら身じろぐと、やっと黒崎にピアノの前に行ってもらえた。
彼が椅子に座り、ピアノを弾いている姿に見惚れた。雰囲気が違うから落ち着かなくて、なかなかリクエスト曲が思いつかない。観客が期待の眼差しを向けているのは、演奏が上手だということと、イケメンすぎるからだと思った。
「黒崎さん。今夜のリクエストは、”誰も寝てはならぬ”がいいな」
「分かった。そうする」
「私のお父さんも聴きたいな。他は思いつかないよ」
「心のドアはどうだ?」
「いつ練習したの?」
「一緒に暮らす前に練習した。歌ってみたらどうだ?よく通る声をしている」
「ここじゃ恥ずかしいから」
「そうか」
本当は歌いたい気持ちがあるが、きっと下手くそだと自覚するだろう。歌うのが好きだという気持ちが、奪われるように無くなるのが嫌だ。黒崎が残念そうに笑ったのが、さっきの俺のように見えた。聴きたいということだ。でも、人前で歌う勇気が出ない。やっぱり黒崎に無理強いさせた気がしてしまった。それを黒崎に聞くと、大丈夫だと返事が返ってきた。
(上手だな……)
ぼんやりと見つめていると、 黒崎の演奏が始まり、優しい音色が響き渡った。包み込まれるようで心地いい。普段ならピアノのそばで聴いているのに、今夜は少し距離が離れている。寂しくなる気持ちを抑えながら、目を閉じて身をゆだねた。 黒崎が心のドアを引き始めたとき、胸の鼓動が高鳴った。かっこいいと思ったからだ。
(あなたが心のドアを開けた。黒崎さんから開けられた気がする。よかった……。あ……)
するとその時だ。近くに居たお客さん達から声をかけられた。素敵な演奏だと言ってくれて嬉しかった。
「お連れの方よね?お兄さん、すごく素敵ね」
「ありがとうございます」
「誰かのことを想って、弾いているのかしらねー」
「うらやましいわーー」
「……俺のことです」
「あらー、いいわねー」
(あれ?すんなり話せた。ああー、また話しかけられた。俺、笑ってる?)
どういう魔法を架けられたのだろう?初めて会う人と話すのが苦手なのに、ごく普通に話すことができた自分に驚いた。黒崎が俺の方を見て微笑みかけてきた。俺が楽しそうに話しているからだと思う。まるで黒崎のことが魔法使いのように思えた。
(あの絵本みたいに、これからも一緒に暮らしたい。森の中の一軒家で暮らしたいな。いつまでも仲良く。そっか。それだけでいいのか。気負わなくてもいいね……)
演奏が終わったら、黒崎のことを”お疲れ様”と言って迎えようと思った。俺が出来ることだ。そう思っていると、最後の一音が響き渡って演奏が終わり、大きな拍手が起きた。黒崎が恥ずかしそうにしている気がした。みんなが笑顔を向けているからだ。
「お疲れ様でした。お帰りなさい」
「ありがとう。ただいま」
席に戻ってきた黒崎に声をかけると、かっこいい笑顔が返ってきた。それを見て、ピアノを弾いて欲しいと言って良かったと思った。彼が緊張していたと言った。それを聞き、距離が近くなった実感がわいた。するとその時だ。そばに座っていたお客さん達から話しかけられた。
「素敵でした。来てよかった。どこから来たの?あら、同じじゃない。私たちも。……あら、あの子、大丈夫かしら?見て来るわ!」
「楽器が壊れていないといいけど……」
お客さん達が向こうの方を見ていた。そこには、ギターケースを落としてしまったグループがいた。近くにいたスタッフが駆け寄っていた。そのグループの一人に、大丈夫ですと言いながら首を振っている子がいて、高校生ぐらいに見えた。
すると、俺の我が儘を聞く代わりに手を繋がせてくれと黒崎から言われて、手を繋いだ。さらに抱き寄せられた。こんな場所でやめてほしい。周りに人がいるからだ。俺は顔が赤くなるのを誤魔化せなくて、やめてくれと言った。すると、黒崎が俺の方を向いて笑った。
「夏樹。今夜のリクエストは?」
「あ、えーっとね……」
抱き寄せられたままで聞かれたから、耳元で響いた低い声に、胸の鼓動が跳ねた。さすがに離れて貰いたい。いい加減にしろと言いながら身じろぐと、やっと黒崎にピアノの前に行ってもらえた。
彼が椅子に座り、ピアノを弾いている姿に見惚れた。雰囲気が違うから落ち着かなくて、なかなかリクエスト曲が思いつかない。観客が期待の眼差しを向けているのは、演奏が上手だということと、イケメンすぎるからだと思った。
「黒崎さん。今夜のリクエストは、”誰も寝てはならぬ”がいいな」
「分かった。そうする」
「私のお父さんも聴きたいな。他は思いつかないよ」
「心のドアはどうだ?」
「いつ練習したの?」
「一緒に暮らす前に練習した。歌ってみたらどうだ?よく通る声をしている」
「ここじゃ恥ずかしいから」
「そうか」
本当は歌いたい気持ちがあるが、きっと下手くそだと自覚するだろう。歌うのが好きだという気持ちが、奪われるように無くなるのが嫌だ。黒崎が残念そうに笑ったのが、さっきの俺のように見えた。聴きたいということだ。でも、人前で歌う勇気が出ない。やっぱり黒崎に無理強いさせた気がしてしまった。それを黒崎に聞くと、大丈夫だと返事が返ってきた。
(上手だな……)
ぼんやりと見つめていると、 黒崎の演奏が始まり、優しい音色が響き渡った。包み込まれるようで心地いい。普段ならピアノのそばで聴いているのに、今夜は少し距離が離れている。寂しくなる気持ちを抑えながら、目を閉じて身をゆだねた。 黒崎が心のドアを引き始めたとき、胸の鼓動が高鳴った。かっこいいと思ったからだ。
(あなたが心のドアを開けた。黒崎さんから開けられた気がする。よかった……。あ……)
するとその時だ。近くに居たお客さん達から声をかけられた。素敵な演奏だと言ってくれて嬉しかった。
「お連れの方よね?お兄さん、すごく素敵ね」
「ありがとうございます」
「誰かのことを想って、弾いているのかしらねー」
「うらやましいわーー」
「……俺のことです」
「あらー、いいわねー」
(あれ?すんなり話せた。ああー、また話しかけられた。俺、笑ってる?)
どういう魔法を架けられたのだろう?初めて会う人と話すのが苦手なのに、ごく普通に話すことができた自分に驚いた。黒崎が俺の方を見て微笑みかけてきた。俺が楽しそうに話しているからだと思う。まるで黒崎のことが魔法使いのように思えた。
(あの絵本みたいに、これからも一緒に暮らしたい。森の中の一軒家で暮らしたいな。いつまでも仲良く。そっか。それだけでいいのか。気負わなくてもいいね……)
演奏が終わったら、黒崎のことを”お疲れ様”と言って迎えようと思った。俺が出来ることだ。そう思っていると、最後の一音が響き渡って演奏が終わり、大きな拍手が起きた。黒崎が恥ずかしそうにしている気がした。みんなが笑顔を向けているからだ。
「お疲れ様でした。お帰りなさい」
「ありがとう。ただいま」
席に戻ってきた黒崎に声をかけると、かっこいい笑顔が返ってきた。それを見て、ピアノを弾いて欲しいと言って良かったと思った。彼が緊張していたと言った。それを聞き、距離が近くなった実感がわいた。するとその時だ。そばに座っていたお客さん達から話しかけられた。
「素敵でした。来てよかった。どこから来たの?あら、同じじゃない。私たちも。……あら、あの子、大丈夫かしら?見て来るわ!」
「楽器が壊れていないといいけど……」
お客さん達が向こうの方を見ていた。そこには、ギターケースを落としてしまったグループがいた。近くにいたスタッフが駆け寄っていた。そのグループの一人に、大丈夫ですと言いながら首を振っている子がいて、高校生ぐらいに見えた。
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