恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖

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4-19(夏樹視点)

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 22時。 

 イルミネーションを楽しみながら夜の散歩をした後、ホテルへ帰って来た。繋いだ手が温かくて気持ちいい。初めて自分の方から手を繋げた時、やっと恋人同士になった実感をした。

 黒崎から思いきり甘やかされて、何でも最優先にして貰えている。それなのに、言うことを聞かないでいると怒られることが増えてきた。俺は黒崎に対して遠慮しないようにしている。彼も俺に対して遠慮しないようにしているようだ。

(それでいいんだ。面白くていいよ……)

 ここへ遊びに来て、お互いの距離が近づけたのが良かった。もう遠慮をしない。どうせ自分なんかと後ろ向きになり、本当に黒崎の後ろを歩いていた。肩を抱かれる力が強くて、ついていけなかった。ここへ来るまでにそれを話せたし、黒崎の気持ちを聞くことができてよかった。
 
「黒崎さん。俺に言いたいことはある?まだ遠慮しているんじゃないのかな?」
「そう思わない。遠慮しないようにしている。お前は言いたい放題でかまわない。俺に出来ることは何でもする」
「言いたい放題は難しいよ」
「我が儘を言って貰えないのは寂しい。言ってくれ」
「中間子は甘え下手なんだ」
 
 つないだ手をブンブン振ると、黒崎が横を向いて吹き出した。子供っぽかったらしい。俺達に視線を向けてくるホテルのお客さん達がいた。ここのロビーは落ち着いた空間が広がっている。静かだ。目立ってしまって恥ずかして俯くと、俺達の前に人影が立った。

 スーツ姿の男性が黒崎へ声をかけた。知り合いの人らしい。ホテルの支配人であり、黒崎とは仕事で付き合いがあるそうだ。ざっくばらんに話している。でも、紳士的な雰囲気があるからかっこいいと思った。

 そして、黒崎が支配人から促されてピアノのそばへ行くと、彼が苦笑いをした。ピアノを弾いてくれと頼まれていた。今夜のピアノニストが急病で来れなくなり、困っているそうだ。俺は黒崎の演奏を聴きたいと思った。
 
「弾いて貰えないか?一曲だけでも……」 
「俺も聴きたい。雰囲気が違うから楽しそう」 
「こういう場で、何年も弾いていない」
「どうして?勿体ないよ。聴いてもらってよ」 

 黒崎らしくないと思った。自信に満ち溢れている姿しか見ていないから、断るのが意外だ。カメラの前のインタビューでも、堂々としていたのに。

 そこまで考えて立ち止まった。俺のことでは自信がなくなると話していた。ピアノのことでも自信がないのだろうか。ほとんど弾いたことのない俺でも、かなり上手なのが分かる。音大の入学まで決めていたのに。

(どうしてかな?あれ?弾きたそうだな。失敗したことがあるのかな?)

 だったら無理に言えない。人前で弾きたいと思うまでは。黒崎の手を握り直して、断ろうねという意味を込めて、軽く引っ張った。

「黒崎さん。眠くなったんだ。せっかくだけど。すみませんでした。実は……」
「弾かせてもらう」
「良かった。ありがとう。段取りをしてくる。予定の楽曲か?お任せする」
「分かった。……観客になってくれ」
「え……?」
「初めての我儘だな。驚いた」

 無理なことを言われて嬉しいから、今夜は演奏すると言われた。もちろん俺のためにだ。無理をしていないかと聞いたら、そうでもないと返事が返ってきたから、安心した。黒崎が楽しそうにしているから、良かったと思った。
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