恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖

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 黒崎製菓が潰れようと知ったことではないが、亡くなった兄との約束を破るわけにはいかない。黒崎製菓を継いでも良いと思った。そう思えるようになったのは、夏樹のおかげだ。決して黒崎家の為ではなく、父の為でもない。

 夏樹のことを守る砦にさせることもできるだろう。夏樹は戸惑うだろうが、彼のことを守るために、俺の腕の中に閉じ込めてしまおうと決めた。いつか理解してもらえるだろうと思った。
 
「父は俺に戻ってきて貰いたがっている。俺は忙しくなる。お前のことが必要だ。猫の手も借りたいと思っていた」 
「オマケは嫌だって言ったばかりだよ」 
「都内へ引っ越すのは怖くないのか?森本君達とも離れるぞ?……志望大学は都内だったな?」
「うん。お兄ちゃんと同じ大学だよ。合格すればの話だけど、一石二鳥だね。あんたと一緒に行けるよ。合格したい。一緒に行くなら怖くないよ」
「それだけじゃないぞ。俺の恋人だとして見られる以上、知らない大人に囲まれる。話しかけられるのは、間違いない。パーティーに呼ばれて、出席するかも知れない。怖くないのか?」
「パーティーに出るの?俺が?」
「俺のパートナーだ。隠すつもりは無い」
「そっか。出るよ。頑張るよ。経験してみたい。いつまでも怖がりたくないんだ。知らない人に囲まれるのは戸惑うけど……」
「お前なら乗り越えられる。さあ、ここを出るぞ。ピアノコンサートを聴きに行こう。早くしないとピアノが逃げるぞ」
「もう……。子ども扱いするなって。行くよーー!」
「ああ……」

 夏樹から強く手を握られて、引っ張られた。そばにある光の動物のモニュメントが背後で輝き、夏樹の姿が見事に溶け込んだ。綺麗だと思った。そして、俺だけの物にしたいという気持ちが芽生えた。

 黒崎製菓を継ぐことを決めた後、父の希望通りになる予感がした。黒崎家で夏樹と同居することになりそうだ。パートナーとして生涯を共に歩む以上、黒崎家とのつながりができる。親戚付き合いをしないわけにはいかない。それを夏樹の父が心配していた。夏樹のことをどうするつもりなのかと。新しい世界へ飛び込んで行けば、心の中に澱が溜まるだろう。喧嘩もしそうだ。しかし、夏樹のことを離すつもりはない。一緒に連れて行くのだと決めた。

 そして、さらに俺はこう決めた。大学卒業後は社会に出さずに、家の中にいてもらうことにした。夏樹のことを守るためなら仕方が無いと思った。外に行けば、彼にとってやっかいなことが降りかかってくるからだ。早く黒崎家になじんで貰うためでもある。夏樹は嫌がるだろうが、折を見て話すことにした。

(夏樹。俺が決めたことを許してくれ)

 夏樹の手を引き、今夜のコンサートを聴くために、歩き出した。
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