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11-7(黒崎視点)
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砂浜の上に座って、空を見上げているところだ。夏樹がコンビニへ行こうとした時、強く止めなかった。一人になりたかったから、夏樹の好意に甘えた。
子供の頃を思い出した。あれは、母が父と結婚して父の家へ引っ越しをする前のことだ。6歳の誕生日に、母と二人で住んでいた家に、ピアノが設置された。幼稚園から帰って来た後に置いてあったから喜んだ。さらに嬉しい出来事があった。それは、拓海兄さんとの出会いだ。家に拓海兄さんが遊びに来ていた。初めて会う人だから緊張したのを覚えている。
「はじめましてっ」
「はじめまして。ちゃんと挨拶ができるんだな。えらいぞ」
「うん……」
「怖い人じゃないぞ?圭一のお兄ちゃんだ。拓海っていう名前だよ」
「うん……」
俺は人見知りをする性格の子供だった。拓海兄さんの腕に抱かれて、その顔を見つめた。お父さんに似ているのに、どうしてこんなに優しそうなのかな?子供心にそう思っていた。すぐに『お兄ちゃん』とは呼べなかった。家族というものを知らなくて、戸惑ったからだ。それでも、嫌な顔一つされなかった。
しばらく遊んで打ち解けた。拓海兄さんの家へ遊びに行く許可をもらうために、母を探した。バルコニーの近くまで来たときに、父と2人でいるのを見つけた。声をかけようとしたら、拓海兄さんから静かにするように言われた。お父さんとお母さんが大事な話があるのだと言っていた。父が母にプロポーズをしているところだった。しかし、母は拒んでいた。今ならそれが分かる。
「黒崎の家は……、世界が違いすぎるの。完璧に振舞えないわ」
「周りは放っておきなさい。黒崎家の一員として育てるからね。君が嫌がるから学校の面接を受けることが出来なかったが、入学には問題ない。時間が出来た時、一緒に見学に行こう。いい学校だよ。教育環境には十分だ」
「私の意見を聞いてくれないのね。圭一は近くの学校がいいって言っているのよ」
「私の言う通りにすればいい。拓海を連れて来てよかった。すっかり懐いたようだ」
「どこへ行くのにも、一人で出してもらえない。圭一まで、そうする気なの?」
「一人で出かけているじゃないか」
「していないわ。運転手さんがいる車に乗るのは、まだいい方よ。誰かが後ろにいるのは、監視をされているようにしか思えない」
「君のことが心配だからだ」
「はい……」
母はどこへ行くのにも一人ではなかった。運転手やお手伝いさんと一緒に出かけていた。父からの命令だった。不自由を感じていたのが、今になって理解できる。妻として黒崎家を守ることは、相当なプレッシャーだったようだ。周りから冷たい目を向けられていた。当たり前のことが出来ないと、陰口を叩かれていたそうだ。このことは、当時のお手伝いさんから話を聞いて知ることができた。
愛人の中では、母は一番愛されたそうだ。母は寂しそうな父のことを放っておけなくて、離れることが出来なかった。それらを理解できるようになったのは、夏樹のおかげだ。
(あれは5年生のときだった……)
小学5年生の夏休み中の出来事だ。 父と母が結婚して5年経った頃だ。俺の前では仲が良かったと思う。俺は嬉しかった。そして、母に学校行事に来てもらったことへの礼が言いたくて、部屋へ行った。ドアが開いていたから室内を見回すと、そばにあったカウンターの上に、たくさんの薬袋が置いてあった。
「メンタルクリニック……。ママ、具合が悪いんだ……」
当時、母と話すことが少なかった。親子らしい触れ合いがないとは言えないが、俺は寂しい思いをしていた。しかし、拓海兄さんがいたから平気だと思っていた。めったに話すことがなくても、母のことが心配になった。何かできることはないか。そう考えていたとき、両親が言い争う声が聞こえてきた。
「あ……」
あの時、母の前に出て父から守れば良かった。父のことが怖くて、母のことを守れなかった。自分自身が情けなかった。しかし、母が泣いていたのに、涙を拭いてあげられなかった。自分にはその資格がないと思ったからだ。
「僕はママのことを守れないもん。男なのに……。お父さんが怖いんだ……」
小学6年生になった頃だ。母親の印象が変わり、柔らかい表情になった。俺と話す時間ができて嬉しかった。しかし、それは長くは続かなかった。また両親が喧嘩を始めたからだ。今なら理由が分かる。母が父以外の男との間に子供ができたからだ。父と別れ話をしていたのだろう。
「どういうことだ!」
「見ての通りよ」
「圭一は渡さないぞ」
「連れて行くわ」
「お前に何ができる?ロクに働いたことがないだろう」
「一人じゃないもの」
「あの男に何ができる?」
「調べたのね」
「当然だ。産むのか?」
「あたりまえでしょう」
「圭一が出来た時は、モデルを辞めたくなくて、産むのを迷っていたのにか?」
「……」
ショックだった。俺のことを連れて行くと言われたことが嬉しかったが、産むことを迷われた事実を知り、心が耐えられなかった。
子供の頃を思い出した。あれは、母が父と結婚して父の家へ引っ越しをする前のことだ。6歳の誕生日に、母と二人で住んでいた家に、ピアノが設置された。幼稚園から帰って来た後に置いてあったから喜んだ。さらに嬉しい出来事があった。それは、拓海兄さんとの出会いだ。家に拓海兄さんが遊びに来ていた。初めて会う人だから緊張したのを覚えている。
「はじめましてっ」
「はじめまして。ちゃんと挨拶ができるんだな。えらいぞ」
「うん……」
「怖い人じゃないぞ?圭一のお兄ちゃんだ。拓海っていう名前だよ」
「うん……」
俺は人見知りをする性格の子供だった。拓海兄さんの腕に抱かれて、その顔を見つめた。お父さんに似ているのに、どうしてこんなに優しそうなのかな?子供心にそう思っていた。すぐに『お兄ちゃん』とは呼べなかった。家族というものを知らなくて、戸惑ったからだ。それでも、嫌な顔一つされなかった。
しばらく遊んで打ち解けた。拓海兄さんの家へ遊びに行く許可をもらうために、母を探した。バルコニーの近くまで来たときに、父と2人でいるのを見つけた。声をかけようとしたら、拓海兄さんから静かにするように言われた。お父さんとお母さんが大事な話があるのだと言っていた。父が母にプロポーズをしているところだった。しかし、母は拒んでいた。今ならそれが分かる。
「黒崎の家は……、世界が違いすぎるの。完璧に振舞えないわ」
「周りは放っておきなさい。黒崎家の一員として育てるからね。君が嫌がるから学校の面接を受けることが出来なかったが、入学には問題ない。時間が出来た時、一緒に見学に行こう。いい学校だよ。教育環境には十分だ」
「私の意見を聞いてくれないのね。圭一は近くの学校がいいって言っているのよ」
「私の言う通りにすればいい。拓海を連れて来てよかった。すっかり懐いたようだ」
「どこへ行くのにも、一人で出してもらえない。圭一まで、そうする気なの?」
「一人で出かけているじゃないか」
「していないわ。運転手さんがいる車に乗るのは、まだいい方よ。誰かが後ろにいるのは、監視をされているようにしか思えない」
「君のことが心配だからだ」
「はい……」
母はどこへ行くのにも一人ではなかった。運転手やお手伝いさんと一緒に出かけていた。父からの命令だった。不自由を感じていたのが、今になって理解できる。妻として黒崎家を守ることは、相当なプレッシャーだったようだ。周りから冷たい目を向けられていた。当たり前のことが出来ないと、陰口を叩かれていたそうだ。このことは、当時のお手伝いさんから話を聞いて知ることができた。
愛人の中では、母は一番愛されたそうだ。母は寂しそうな父のことを放っておけなくて、離れることが出来なかった。それらを理解できるようになったのは、夏樹のおかげだ。
(あれは5年生のときだった……)
小学5年生の夏休み中の出来事だ。 父と母が結婚して5年経った頃だ。俺の前では仲が良かったと思う。俺は嬉しかった。そして、母に学校行事に来てもらったことへの礼が言いたくて、部屋へ行った。ドアが開いていたから室内を見回すと、そばにあったカウンターの上に、たくさんの薬袋が置いてあった。
「メンタルクリニック……。ママ、具合が悪いんだ……」
当時、母と話すことが少なかった。親子らしい触れ合いがないとは言えないが、俺は寂しい思いをしていた。しかし、拓海兄さんがいたから平気だと思っていた。めったに話すことがなくても、母のことが心配になった。何かできることはないか。そう考えていたとき、両親が言い争う声が聞こえてきた。
「あ……」
あの時、母の前に出て父から守れば良かった。父のことが怖くて、母のことを守れなかった。自分自身が情けなかった。しかし、母が泣いていたのに、涙を拭いてあげられなかった。自分にはその資格がないと思ったからだ。
「僕はママのことを守れないもん。男なのに……。お父さんが怖いんだ……」
小学6年生になった頃だ。母親の印象が変わり、柔らかい表情になった。俺と話す時間ができて嬉しかった。しかし、それは長くは続かなかった。また両親が喧嘩を始めたからだ。今なら理由が分かる。母が父以外の男との間に子供ができたからだ。父と別れ話をしていたのだろう。
「どういうことだ!」
「見ての通りよ」
「圭一は渡さないぞ」
「連れて行くわ」
「お前に何ができる?ロクに働いたことがないだろう」
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「あの男に何ができる?」
「調べたのね」
「当然だ。産むのか?」
「あたりまえでしょう」
「圭一が出来た時は、モデルを辞めたくなくて、産むのを迷っていたのにか?」
「……」
ショックだった。俺のことを連れて行くと言われたことが嬉しかったが、産むことを迷われた事実を知り、心が耐えられなかった。
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