恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖

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 胸がいっぱいになって黒崎のことを見つめていると、彼の左手の甲の血管の辺りに、よく見ないと分からない程度の白い跡を見つけた。点滴の跡じゃないかと思った。小さい頃に入院した時、俺の手の甲にしばらく跡が残っていたことがある。それを聞こうとした時、黒崎が俺の両肩に手を置いた。

「……こっちを向いてくれ」
「……うん」
「……今から誓いを立てる。中山夏樹をパートナーとし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓う」
「あの……、牧師さんが問いかけるんだよ?知っているよね?」
「知らなかった。興味もなかったからだ」
「俺だけってこと?」
「当たり前だ。何度も結婚式に呼ばれようが、覚える気すらなかった。指輪を選んで、こそこそサイズを測ることもだ。こんなに胸が痛くなる経験も初めてだ」

 言葉だけを聞くとぶっきらぼうに感じるのに、今の表情も声も優しくて、心に染み込んで来た。一方的な誓いを立てられたのに。じんわりと目頭が熱くなり、新しい涙が零れ落ちた。
  
「もちろん誓うよ!あんたを泣かさない。良いことでしか、涙を流させない。それも誓うよ」
「ありがとう。愛している」
「俺もだよ……っ。沙耶さんに、お礼を伝えないと。手を離してもいいかな?」
「いいぞ。戻って来るなら」
「信じろよ!ばかやろう……っ」

 俺達のそばで、沙耶さんが顔を真っ赤にさせて、涙を溢していた。すぐに駆け寄って抱きしめて、今までのことと、今日のことのお礼を伝えた。言葉だけでは足りないから、頬へキスをすることでも伝えた。すると、沙耶さんが微笑んだ。

「役得だわ。黒崎君から嫉妬されるそうよ」
「もっと抱きつくよ。こっちに座ってよ。疲れただろ?」
「いいから。あの子供を抱きしめてあげて」

 とん。沙耶さんから軽く背中を押された後、俺の方から黒崎に両手を差し伸べた。黒崎の左手の甲へキスをした時、あることに気づいた。彼の分の指輪がない。さっきのケースを見ると、もう一つ、指輪が入っていた。強引に黒崎の左手を取り、躊躇うことなく薬指に差し込んだ。そして、手の甲の傷跡のことに触れようと思った。

「手の甲にあるのは点滴の跡だよね?」
「そうだ。子供の頃に入院した時のものだ」
「小さな手が、痛いのを我慢していたんだね……。痛いのは同じでも、俺には話してね!少しはマシだよ。約束してよ。誓いじゃなくていい。たまに破ってもいいから……っ」
「なるべくそうする。キスをしても構わないか?沙耶の前だが」
「もちろん。今夜は新月だよ。後で屋上に行こうよ。星を眺めたいんだ」
「そうか、新月か。この間満月だと思っていた。日が経つのは早いな」
「またすぐに満月になるよ。月の満ち欠けって、メリーゴーランドみたいに回っていると思わない?永遠に続いているんだ」
「大歓迎だ。……いつまでも愛している」

 お互いに真剣な顔のままで見つめ合い、顔を近づけ合った。そして、お互いの唇を重ねた。新月の天使が結んだ約束の夜と共に。
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