恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖

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 23時30分。

 今夜は晴れているだから、星がよく観えるだろう。でも、もう遅い時間だから外は寒い。どうしても観たいからと黒崎に駄々をこねて、マンションの屋上へ連れて来てもらった。

 屋上では、同じの階に住んでいる一家が散歩をしていた。優しい雰囲気の人たちで、俺達と同じく星を観に来たと話を聞き、意気投合して盛り上がった。遅い時間なのに、お互いに珍しいねと話した。

「細川さんっていうんだね。明日、お菓子を持って来てくれるんだ」
「よかったな。……俺が近所付き合いをするのが意外なのか?」
「俺の方も意外だよ。自分でそう思う……」

 お互いに変わったことを実感した。沙耶さんをロビーまで見送った後、黒崎とは出来るだけ沢山の話をした。明日の朝になれば、忘れてしまうことがありそうなぐらいだ。まるで一ヶ月分ぐらい話した気分だ。

 すっきりしたせいか、湾沿いから吹いてきた水辺の匂いと、波の音を感じで気持ちいいと思った。黒崎にも聞こえるだろうか。

「黒崎さん。波の音が聞こえない?」
「ああ。聞こえる。体調がよくなったら、遊歩道を散歩して来い。アンを連れて」
「うん。これから黒崎さんは帰りが遅くなるだろーー。俺がアンを散歩に連れて行くよ。たまには夜も行こうね。でも、夜は寒くなるから、やめた方がいいかな?」
「そうか。なるべく昼間か夕方に行こう。帰ってくるようにする」

 黒崎との話し合いの結果、俺が一人で外出する場所が決まった。遊歩道とスーパー、敷地内の散歩だ。学校への送迎は続けてもらうことにした。黒崎が心配しながらもOKを出した。不思議なことに、それを求めたはずなのに、俺の方が寂しくなった。

「夏樹。さっきから落ち着かないが、何を隠しているんだ?」
「束縛してほしくなったんだ。あんたのことを思うと、それじゃいけないって分かっているよ。でも。放置されるみたいで嫌だよ。ここに住んでいる人と話すなって言っていたのに、少しは話してもいいぞって言い出すなんてさ……。驚いたよ。急に開放するなよー」
「ストレスをかけたくない。……体調が悪いことを聞かされていないと心配だ。自分の身体を大事にしろ」
「うん……」 

 ずばり指摘されて返す言葉がない。一人で出かけたいと以前は言っていたのに、今の自分は気持ちが変わった。一人で出かけたくない。やもやしていると、黒崎から頬を引っ張られた。

「いひゃっ。なひするんだひょっ。いひゃいっ」 
「いい子にしているから、最近はつねっていなかった。これもついでだ」 
「いたっ!なんでデコピンまで……」
「針を千本飲まされるよりも、マシだろうが」 
「ごめん……、いたっ。しつこいよーー」 
「俺は何もしていない」 
「また物忘れが酷くなったわけ?」 
「……好きなだけ言え」
「下唇を引っ張るなよ。ここまでされるのが納得いかないよ」
「反省しろ」 
「じゃあ、あんたも反省しろよ」
「何の反省だ?心臓のことで、俺は嘘をつかれた側だぞ」 
「ごめんなさい……」

 拗ねて謝るしか出来ない。抱きしめられても、背中に両腕を回して抱き返すだけで、何も言えなくなった。でも、黒崎が俺に言い過ぎたと言い、こめかみへのキスをしながら謝られて、完全に子ども扱いをされた。

「禁欲しろよ。勉強部屋で寝るからね。あんたは枕を抱いて寝ろよーー」 
「どうして禁欲する必要がある?」 
「意地悪の罰よ。分からないわけ?バーカ!」 
「何だと?」
「スケベじじい!」
「泣かされたいのか?」 
「ここまでおいで~」
「おい、走るな……」

  腕の中からすり抜けて早歩きをすると、あっけなく捕まってしまった。もう一度、腕の中に閉じこめられて、引きずるようにして座らされた。黒崎が俺の顔を覗き込んできた時、胸がチクッと痛くなった。また心配させたからだ。 

「心臓のことだけじゃない。もう隠すな……」 
「うん……」 
「砂浜で貰ったキーホルダーのことを話したい。サンタクロースからだと言っていたな?ああいう嘘なら、いくらでも付いて構わない。心配をかけるからという理由のものは、一切やめてくれ。どんな小さなことでも話してくれ」 
「結婚したもんね。さっそく聞きたいことがあるんだ……」

 二週間後、都内へ開かれる怜さんのパーティーへ一緒に出席することにした。ずっと悩んでいたから、黒崎からは実家で留守番をしてくれと言われたけれど、どうしても気になるから出たいと言った。

 大切なパーティーに決まっている。黒崎が何か引っかかることがあるのではないかと思った。何でも話す約束をしたから、教えてもらいたいと思った。すると、やっぱりその通りだった。黒崎のお父さんが頼んでおいた、彼のお見合いの相手も出席することになっているそうだ。

「やっぱり何かあったんだね。会うの?」
「いや。そうならない。会うつもりはない。向こうも俺と同じだ。大学時代の後輩の姫川さんという人だ。俺が会おうとしないから、父がパーティーに呼んだらしい。パーティーには父も出席する」 
「え……。お父さんも……」 

 心臓の鼓動が強く打った。俺がいることはお父さんは知っていると、黒崎から聞いている。それでも、見合いを勧めるのなら、俺のことを気に入っていないのだと思う。現実を突き付けられてしまった。しっかりしなければならないのに、鼓動が早く打ち始めた。
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