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ザーー。洗面所で手を洗った。とても広くて綺麗な場所だ。ゆっくり休めるような椅子まであり、ここで待ってもいいぐらいだと思った。袖口のレースには、烏龍茶の色が染みこんでしまっていた。 部屋に戻った後、ここのホテルにあるクリーニングに服を出すことになった。便利だと思った。
(黒崎さんにも家事をやってもらおうと……)
俺と一緒に暮らすようになるまでの間、黒崎は忙しい時は靴下もクリーニングに出していたそうだ。全く家事ができないわけではない。手伝うと言っていたから、来週からやってもらおうと思った。こういうことを考えていると緊張感が薄れていった。
「黒崎さん。あ、そうだ。友達のところに行ったんだった……」
洗面所から出た後、近くにあるソファーを目指して歩いて行った。そこに座って黒崎を待つ約束だ。歩いていると、招待客の一人から話しかけられた。黒崎よりも年上に見える。彼の知り合いだろうか。すると、遠くの方に立っている一人から心配そうな顔をされた。一体どうしたのだろう。黒崎から言われたとおりの受け答えをすることにした。
「……今、ひとりだよね?」
「家族を待っているところです」
「黒崎さんの同伴者だね?」
「はい」
「家族っていうことは、弟さん?」
「いいえ」
「……」
こういう時は優等生の笑顔を向けておけと黒崎から言われている。笑顔で答えると、それ以上の質問はされなかった。こういう時は立ち去るのが良いそうだ。一度、人の多いところに移動しようと思った。それからまたソファーのところに戻ってくれば良い。俺が立ち上がると、男性からは追いかけて来られなかった。その後でソファーまで行くと、黒崎の姿が見当たらなかった。まだ喧嘩の仲裁中なのだろう。
(黒崎さん。まだかな?)
ソファーに座った後、数分の間に、5人から声を掛けられた。耳にタコが出来るそうな程、同じ質問と答えを繰り返した。ついでに俺のことも聞かれた。綺麗だね。モデルさん?何かやっている?と聞かれた。その度に、黒崎から教えられたとおりの答えを返していった。
(お兄ちゃんなら声をかけられることが少ないんだよね。なんでだろう。図々しい人だって伝わるからかな)
ふと伊吹のことを思い出した。俺とそっくりな外見をしている。俺はしつこいナンパや痴漢のようなことがあるのに、伊吹はそういうことが少ない。俺が隙だらけということかもしれない。
(そうだ。お土産はどうしようかな?二葉ちゃんにラインしておこうっと)
スマホを取り出して、二葉へメッセージを送った。黒崎の性格を考えると、照れくさくて、お土産のことを聞いていないと思う。渡しに行く時、黒崎とお母さんがまた会うことができる。朝陽とも話ができるだろう。黒崎達には橋がかかった。これから大事な居場所になれば良い。すぐに完成しなくても構わない。何年か後には叶うと良い。そう願っている。
「こんばんはーー」
「あ……」
また声をかけられた。ぼんやり考え事をしていたのが失敗だった。気づいた時には、すぐ隣に知らない男性が座った。同じ答えを繰り返しても、一向に離れてもらえる気配がない。しかし、この場所から立ち去ることが出来ない。黒崎との約束もあるし、どこで居ても同じだからだ。
「飲み物を取って来てあげるよ」
「おかまいなく」
「黒崎さんのところへ連れて行ってあげるよ」
「いえ。ここで待ちますから」
本当に厄介だ。まだ10分も経っていないのに、ここまで人が集まっていた。黒崎が迎えに来るのは、もっと先だろう。もう一度洗面所へ行き、黒崎の携帯へ着信を残すことにした。ホテルスタッフへ助けを求めたくないし、相手に失礼になる。立ち上がると、また声をかけられた。
「急ぐので失礼します」
「ああ、それなら……」
「その子は、私の同伴者だ」
「え?」
振り向くと、知らない男性が立っていた。70代ぐらいに見える。背が高くて姿勢のいい人だ。紳士的は雰囲気をしているのに、なぜか怖く感じた。そばには40代ぐらいの男性が立っていて、しつこい男達に声をかけた。 俺のことを助けてくれたようだ。
「ご用件は?」
「し、失礼します……」
2人へ会釈した後、急いで立ち去った。周りに居た招待客が遠巻きにし始めて、俺たちの周りだけが浮き上がった状態だ。助けてくれたお礼を言おうとする前に、ソファーに座るように勧められた。全く知らない相手なのに、なぜか、躊躇せずに座ってしまった。
(黒崎さんにも家事をやってもらおうと……)
俺と一緒に暮らすようになるまでの間、黒崎は忙しい時は靴下もクリーニングに出していたそうだ。全く家事ができないわけではない。手伝うと言っていたから、来週からやってもらおうと思った。こういうことを考えていると緊張感が薄れていった。
「黒崎さん。あ、そうだ。友達のところに行ったんだった……」
洗面所から出た後、近くにあるソファーを目指して歩いて行った。そこに座って黒崎を待つ約束だ。歩いていると、招待客の一人から話しかけられた。黒崎よりも年上に見える。彼の知り合いだろうか。すると、遠くの方に立っている一人から心配そうな顔をされた。一体どうしたのだろう。黒崎から言われたとおりの受け答えをすることにした。
「……今、ひとりだよね?」
「家族を待っているところです」
「黒崎さんの同伴者だね?」
「はい」
「家族っていうことは、弟さん?」
「いいえ」
「……」
こういう時は優等生の笑顔を向けておけと黒崎から言われている。笑顔で答えると、それ以上の質問はされなかった。こういう時は立ち去るのが良いそうだ。一度、人の多いところに移動しようと思った。それからまたソファーのところに戻ってくれば良い。俺が立ち上がると、男性からは追いかけて来られなかった。その後でソファーまで行くと、黒崎の姿が見当たらなかった。まだ喧嘩の仲裁中なのだろう。
(黒崎さん。まだかな?)
ソファーに座った後、数分の間に、5人から声を掛けられた。耳にタコが出来るそうな程、同じ質問と答えを繰り返した。ついでに俺のことも聞かれた。綺麗だね。モデルさん?何かやっている?と聞かれた。その度に、黒崎から教えられたとおりの答えを返していった。
(お兄ちゃんなら声をかけられることが少ないんだよね。なんでだろう。図々しい人だって伝わるからかな)
ふと伊吹のことを思い出した。俺とそっくりな外見をしている。俺はしつこいナンパや痴漢のようなことがあるのに、伊吹はそういうことが少ない。俺が隙だらけということかもしれない。
(そうだ。お土産はどうしようかな?二葉ちゃんにラインしておこうっと)
スマホを取り出して、二葉へメッセージを送った。黒崎の性格を考えると、照れくさくて、お土産のことを聞いていないと思う。渡しに行く時、黒崎とお母さんがまた会うことができる。朝陽とも話ができるだろう。黒崎達には橋がかかった。これから大事な居場所になれば良い。すぐに完成しなくても構わない。何年か後には叶うと良い。そう願っている。
「こんばんはーー」
「あ……」
また声をかけられた。ぼんやり考え事をしていたのが失敗だった。気づいた時には、すぐ隣に知らない男性が座った。同じ答えを繰り返しても、一向に離れてもらえる気配がない。しかし、この場所から立ち去ることが出来ない。黒崎との約束もあるし、どこで居ても同じだからだ。
「飲み物を取って来てあげるよ」
「おかまいなく」
「黒崎さんのところへ連れて行ってあげるよ」
「いえ。ここで待ちますから」
本当に厄介だ。まだ10分も経っていないのに、ここまで人が集まっていた。黒崎が迎えに来るのは、もっと先だろう。もう一度洗面所へ行き、黒崎の携帯へ着信を残すことにした。ホテルスタッフへ助けを求めたくないし、相手に失礼になる。立ち上がると、また声をかけられた。
「急ぐので失礼します」
「ああ、それなら……」
「その子は、私の同伴者だ」
「え?」
振り向くと、知らない男性が立っていた。70代ぐらいに見える。背が高くて姿勢のいい人だ。紳士的は雰囲気をしているのに、なぜか怖く感じた。そばには40代ぐらいの男性が立っていて、しつこい男達に声をかけた。 俺のことを助けてくれたようだ。
「ご用件は?」
「し、失礼します……」
2人へ会釈した後、急いで立ち去った。周りに居た招待客が遠巻きにし始めて、俺たちの周りだけが浮き上がった状態だ。助けてくれたお礼を言おうとする前に、ソファーに座るように勧められた。全く知らない相手なのに、なぜか、躊躇せずに座ってしまった。
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