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冬のワードローブは、淡い色のニット類が多い。今日はクリーム色の、ふんわりした肌ざわりのニットを着ている。ニット帽とは、おそろいだ。かばんには、モコモコした物が付けられている。俺の趣味ではない。
「裕理さんが楽しそうにしてるからだよ」
「そっか……。この付け合わせのポテトが美味しいよ。食べてみろよ」
「おおー。美味いな、これ。単品はないのか?」
「メニューにあるよ。今度はみんなで分けようか?」
「こっちも美味そうだ」
「うんうん……」
「はあ……」
迎えに来てくれるのは嬉しいが、叱られそうだから気が重い。電話の声は怒っていた。考えすぎかもしれないが、危ないことになったから仕方がない。あれほど注意されていたのに。カフェの方ばかり見てたからだ。
どんよりした気分になっていると、夏樹から肩を叩かれた。すぐに外を見ると、早瀬が歩いて来るのが分かった。
「うーー、怖いよ」
「どうして?怒ってないみたいだよ?」
「そう?そんなに見えるだけじゃない?」
「見てみろよ。ホッとした顔をしているよ?」
「あ……」
夏樹の言った通りだ。しかし、店内に入って来た時は緊迫した空気があり、叱られるのを覚悟した。
「裕理さん。心配かけてごめんね!」
「よかったーー」
「へ?ん?あ……?」
早瀬から思い切り抱きしめられた。立ったままだ。腕の力に引き上げられるようにして、中腰の体制になった。太ももに力が入ったことで、打った場所に痛みが起きた。
「いてて……っ」
「どこが痛い!?」
「太もも後ろ。中腰だからさ……」
「ああ、ごめん」
すぐに椅子に座らせてもらえた。そのまま覆い被さるようにして抱きしめられたから、重みを支えるために、足に力を入れた。さらに、ズキッと痛みが起きた。
「はあーーっ、顔色が良くてよかった……」
「あああ……」
「ふーーっ」
「わわわっ、重いよ!」
本気でホッとしたのだろう。早瀬が身体の力を抜いたことで重みが支え切れず、ヨロけてしまった。テーブルの足に膝が当たってしまい、ズキッと痛みが走った。
「いてててっ」
「痛むのか。どこだ?」
「膝がテーブルの足に当たったんだ。それだけ」
「はあ……そうだったのか」
「普通に立つか、隣に座ってよ。重いから……」
やっと状況に気がついたようだ。我に返った様子で、起き上がった。そして、隣に腰かけた後、抱きしめてきた。周りの子からの視線が気になって仕方がない。小さな悲鳴まで聞こえている。
「裕理さん!もうっ。人が見てるからーっ」
「……心配させたお仕置きだ。もっと抱かせろ」
「もうっ。誤解されることを言うなよ」
「……よかった。モウモウ言っている」
「あ……」
早瀬の声が掠れていたから胸がチクッと痛くなった。見つめ合うと、心配そうな顔をしていた。叱られるなんて思ったのは失礼だった。
「ごめんねっ。怪我は2箇所だけ。保健室で手当てをしてもらったし、擦りむいたところは深くないってさ。このまま帰っても大丈夫だよ」
「……食べ終わったのか?」
「もう少しで終わるよ」
「はあ……。食べ終わるまで珈琲を飲んでいてもいい?」
「もちろんだよ~。ふふん、ウヘヘ」
夏樹と森本が首を縦に振った。なぜか、夏樹がウットリした目でをしている。どうしたのだろう?にっこりと笑っている。企んでいる時の笑顔だ。
「モカブレンドが美味しいよ。すみませーん。オーダーをお願いします」
「はーい」
「……モカブレンドを」
「かしこまりました」
店員さんも爽やかに笑う早瀬のことを見て、嬉しそうな顔をした。ここではめずらしいタイプの人だからだろう。ここに来る客と言えば、気難しそうで、モッサリした教授や講師陣が多いからだ。
「裕理さんが楽しそうにしてるからだよ」
「そっか……。この付け合わせのポテトが美味しいよ。食べてみろよ」
「おおー。美味いな、これ。単品はないのか?」
「メニューにあるよ。今度はみんなで分けようか?」
「こっちも美味そうだ」
「うんうん……」
「はあ……」
迎えに来てくれるのは嬉しいが、叱られそうだから気が重い。電話の声は怒っていた。考えすぎかもしれないが、危ないことになったから仕方がない。あれほど注意されていたのに。カフェの方ばかり見てたからだ。
どんよりした気分になっていると、夏樹から肩を叩かれた。すぐに外を見ると、早瀬が歩いて来るのが分かった。
「うーー、怖いよ」
「どうして?怒ってないみたいだよ?」
「そう?そんなに見えるだけじゃない?」
「見てみろよ。ホッとした顔をしているよ?」
「あ……」
夏樹の言った通りだ。しかし、店内に入って来た時は緊迫した空気があり、叱られるのを覚悟した。
「裕理さん。心配かけてごめんね!」
「よかったーー」
「へ?ん?あ……?」
早瀬から思い切り抱きしめられた。立ったままだ。腕の力に引き上げられるようにして、中腰の体制になった。太ももに力が入ったことで、打った場所に痛みが起きた。
「いてて……っ」
「どこが痛い!?」
「太もも後ろ。中腰だからさ……」
「ああ、ごめん」
すぐに椅子に座らせてもらえた。そのまま覆い被さるようにして抱きしめられたから、重みを支えるために、足に力を入れた。さらに、ズキッと痛みが起きた。
「はあーーっ、顔色が良くてよかった……」
「あああ……」
「ふーーっ」
「わわわっ、重いよ!」
本気でホッとしたのだろう。早瀬が身体の力を抜いたことで重みが支え切れず、ヨロけてしまった。テーブルの足に膝が当たってしまい、ズキッと痛みが走った。
「いてててっ」
「痛むのか。どこだ?」
「膝がテーブルの足に当たったんだ。それだけ」
「はあ……そうだったのか」
「普通に立つか、隣に座ってよ。重いから……」
やっと状況に気がついたようだ。我に返った様子で、起き上がった。そして、隣に腰かけた後、抱きしめてきた。周りの子からの視線が気になって仕方がない。小さな悲鳴まで聞こえている。
「裕理さん!もうっ。人が見てるからーっ」
「……心配させたお仕置きだ。もっと抱かせろ」
「もうっ。誤解されることを言うなよ」
「……よかった。モウモウ言っている」
「あ……」
早瀬の声が掠れていたから胸がチクッと痛くなった。見つめ合うと、心配そうな顔をしていた。叱られるなんて思ったのは失礼だった。
「ごめんねっ。怪我は2箇所だけ。保健室で手当てをしてもらったし、擦りむいたところは深くないってさ。このまま帰っても大丈夫だよ」
「……食べ終わったのか?」
「もう少しで終わるよ」
「はあ……。食べ終わるまで珈琲を飲んでいてもいい?」
「もちろんだよ~。ふふん、ウヘヘ」
夏樹と森本が首を縦に振った。なぜか、夏樹がウットリした目でをしている。どうしたのだろう?にっこりと笑っている。企んでいる時の笑顔だ。
「モカブレンドが美味しいよ。すみませーん。オーダーをお願いします」
「はーい」
「……モカブレンドを」
「かしこまりました」
店員さんも爽やかに笑う早瀬のことを見て、嬉しそうな顔をした。ここではめずらしいタイプの人だからだろう。ここに来る客と言えば、気難しそうで、モッサリした教授や講師陣が多いからだ。
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