海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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15-8(悠人視点)

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 12時半。

 大学内にあるカフェ『追憶との遭遇』にて、昼ご飯を食べている。今朝のアクシデントがあり、朝の時間帯では無く、ランチの時間帯にやって来た。運が良くて、本日限定のメニューが残っていた。

 夏樹はオムレツとパンを食べている。森本はカツカレーだ。小食の夏樹は全部を食べることが出来ないから、取り皿に分けた。それを森本が半分食べている。そして、山崎と真羽が本日のランチを食べている。野菜メインのおかずだ。

「……悠人、バーガーの味はどう?野菜が山盛りだけど」
「おいしいよー。何個でも入るよ」
「野菜嫌いを克服したよな。あんなに嫌がっていた、ニンジンとトマトだぞ?」
「あのね。通販でミキサーを買ったんだ。毎日、バナナと野菜でジュースを作っているから慣れたんだよ。裕理さんが作るものが、美味しいのもあるし……」
「ふふん~」
「うらやましい」
「あ……」

 どうしよう?のろけてしまった。こんなことは初めてだ。顔が熱くなり、グラスの水を飲んだ。それでも、夏樹たちがニヤニヤと笑っている。咳ばらいをして誤魔化しても無駄だった。

「今朝の怪我、軽く済んでよかったね。3段目からでも危ないんだよ」
「うん。手すりを持つようにするよ」
「珈琲を飲みたいなら、反対方向に店がある。けっこう美味くて人気があるぞ。最近出来た店だ。通路の水はけがいいから、雨でも滑らないだろう」
「そうなんだ?」
「……構内図を出してやる」

 森本がタブレット端末で構内図を出してくれた。これならすぐに行けるし、トイレもある場所だった。聞いてよかった。

「ありがとう。寄り道するなって言われているけど、たまには行きたいもん」
「そうだよ~。何かあった時に、休める店を知っていた方がいいよ。……悠人のスマホだね。鳴っているよ?」
「あ、裕理さんからだ。そろそろ昼休みの時間だから。……もしもし?」

 電話に出ると、早瀬の穏やかな声が聞こえてきて、ホッとした。

(……休暇が取れたから迎えに行く。その店で待て。30分ぐらいで着く)
「それは悪いよ……」
(休暇を取るように言われているし、仕事は片づけてきた。心配させてくれ」
「ありがとう……」
(俺が行くまで、店から出るな)
「はーい」

 ここは素直に返事をした。テーブルへスマホを置くと、みんなから笑われていた。微笑ましいと言っている。こっちは照れくさいのに。

「いててて」

 ズキッ。姿勢を変えた時に、右ひざがテーブルの足に当たってしまった。ズボンを履いていたから分からなかったが、わりと広めに擦りむいている。ズボンに穴が開いていたのに気づかないほど、慌てていたということだ。黒崎社長の車に乗せてもらった後、痛みが起きた。

「いてて……」
「打ったねえ。大丈夫?ん、また電話だよ?」
「あれ?何だろ……、あああ……」

 それはラインのメッセージだった。差出人は佐伯久弥だった。つまりは佐久弥のことだ。ロクな用事ではないだろうと思いつつ開いた。

「『佐伯久弥 12:25 おはよう。今日、ご飯を食べに行かないか?クラが出張中で寂しい。この間のお礼がしたい』」
「駅で転んで怪我をしたから、今度また」
「『佐伯久弥 12:26 大丈夫か?レコーディングが終わったから、迎えに行くぞ』」
「げえええっ。『裕理さんが来てくれるからいい。ありがとう』……送信」

 俺と佐久弥の友人関係が始まった。ケジメということで、佐久弥は早瀬には連絡をして来ない。早瀬の方も同じだ。だから、俺のところに来る。

「悠人、どうしたの?げえええって……」
「大したことはないよ。文字化けしていたんだ。すぐに治ったよ」
「そっか。ズボン、破れちゃったね」
「うん。これ、けっこう長く履いているからいいよ。裕理さんが買って来るから、クローゼットがいっぱいなんだ。どんどん使わないと勿体ない」
「うちの黒崎さんみたいだね。悠人がかわいい系になっているよ」
「う……」

 夏樹の言うとおりだ。バンドが忙しくなり、服装を気にしなくなった。早瀬が買って来るものを適当に着ている。可愛いやつだなと思いながらもだ。好みではないが、せっかくだから着ている。俺はかっこいい系の男になりたいのに。
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