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沢山の木々に囲まれた中に、教会が建っていた。その後ろには病院の本館や別館が建っているのに、ここは別世界だと思えた。前を歩いている人達は建物に入らずに、奥の方へ進んで行く。後ろから来た人は入って行った。
「入ろうか」
「うん。人が集まって来ているね。何かあるのかな?」
「テーブルと椅子が並んでいるよ。ここに来た人が話しているんだろう。演奏会まで時間があるからね」
俺たちは教会へ入ることにした。両扉が開放されており、教室の中へ入った瞬間、その広さと天井までの開放感に、ため息が出た。シンプルなのに、圧倒されたからだ。天井近くまであるステンドグラスからは、光が差し込んでいる。長い椅子が並んでいる中に、数人の後ろ姿があった。
「悠人君、大きなオルガンがあるよ」
「あれがそうなんだね。すごいなあ……。検索してみたんだよ」
この病院のホームページ調べると、この教会のことも紹介されていた。大きなオルガンは国内でも珍しいもので、国内外のオルガニストを招いた演奏会が、月一度のペースで開かれているそうだ。
真ん中あたりの列の椅子に座ると、青いステンドグラスからの光が差し込み、早瀬の顔を照らした。その横顔は静かな表情をしており、俺の方へと向き直った。
「悠人君、こっちを向いてくれ」
「うん……」
並んで座っているから上半身を向けると、頬に触れられた。まるで存在を確かめるかのように、頬や唇を辿っていった。お互いに無言のままで時間が過ぎていき、早瀬の唇が少しだけ開いた。それが分かるぐらいに見つめ合っていた。いつもなら照れくさいのに、今は不思議とそう感じない。
「中庭で誓いのキスをしたけど、大事なことを済ませていない。それが何か分かるか?」
「ううん。分からないよ」
「ここは教会だ。誓いを立てる場所でもある。神様からの計らいだよ」
「結婚式のやつ?病めるときもっていうやつ……」
「そうだよ。ちゃんと覚えて来た。……今から誓う」
「ちょっと待ってよ。心の準備が出来ていないよーー」
「ウジウジしているから奪う方が早い。お父さんに気持ちを伝えてくれた。あれには感動した。だったら俺も、男として情けなくないように、誓いを立てることにした」
「裕理さんのことが好きだからだよ!でも、それとこれとは話が別だよ」
「俺がそう決めた」
「もうーー」
腹が立つし泣きたい気分になった。どうしてこんなに強引な人を好きになったのだろうか。あの父という悪い魔法使いが、少しは良い事もやったようだ。この人との絆を結ぶことが出来たのだから。
何度目かのキスの後で、額同士を合わせた。早瀬が目を閉じたから、俺の方も閉じた。ステンドグラスからの光が差し込んでいるのが分かる。
「よく聞いておけよ」
「うん……」
「……久田悠人さん。あなたは早瀬裕理さんパートナーとし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「ええー?どうして牧師さんになっているんだよ?」
「こら、茶化すな。返事は『はい』だぞ」
「もう……、なんだよーー」
茶化してなんかいない。嬉しくて戸惑っているだけだ。両目から涙が溢れて来たから、絶え絶えの声で返事をした。
「君の分を代わりに言うよ。……早瀬裕理さん。あなたは久田悠人さんをパートナーとし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?……はい、誓います。……これで誓いを立てた。もう離れられない」
「どこまでも……、強引……っ」
「奪い取るからだ。今度の土曜日に指輪を選びに行こう」
「NO!」
「ゆうとくーん、指輪をつけると特典があるんだよ?」
「何の特典だよ……」
「月夜のレンジャーの、レッドとブルーに会えるよ」
「子ども扱いするなよーー」
「マジカル少女・ミカリンのショーにも連れて行ってあげるよ?プールにも行こう。遊園地のジェットコースターには乗れるだろう?お子様コースターは卒業したのか?」
「もうーー」
「そんなにモウモウ言うと、牛になるぞ?」
「俺はヤギミルクが好きなんだよ。ヤギになってやる!メエェー!」
「ばーーか」
「もうーーっ」
人目が気になりながらも、早瀬の足を踏んづけてやった。そうしている間にオルガン演奏が始まり、静かに耳を傾けた。寄り添いながら。
「入ろうか」
「うん。人が集まって来ているね。何かあるのかな?」
「テーブルと椅子が並んでいるよ。ここに来た人が話しているんだろう。演奏会まで時間があるからね」
俺たちは教会へ入ることにした。両扉が開放されており、教室の中へ入った瞬間、その広さと天井までの開放感に、ため息が出た。シンプルなのに、圧倒されたからだ。天井近くまであるステンドグラスからは、光が差し込んでいる。長い椅子が並んでいる中に、数人の後ろ姿があった。
「悠人君、大きなオルガンがあるよ」
「あれがそうなんだね。すごいなあ……。検索してみたんだよ」
この病院のホームページ調べると、この教会のことも紹介されていた。大きなオルガンは国内でも珍しいもので、国内外のオルガニストを招いた演奏会が、月一度のペースで開かれているそうだ。
真ん中あたりの列の椅子に座ると、青いステンドグラスからの光が差し込み、早瀬の顔を照らした。その横顔は静かな表情をしており、俺の方へと向き直った。
「悠人君、こっちを向いてくれ」
「うん……」
並んで座っているから上半身を向けると、頬に触れられた。まるで存在を確かめるかのように、頬や唇を辿っていった。お互いに無言のままで時間が過ぎていき、早瀬の唇が少しだけ開いた。それが分かるぐらいに見つめ合っていた。いつもなら照れくさいのに、今は不思議とそう感じない。
「中庭で誓いのキスをしたけど、大事なことを済ませていない。それが何か分かるか?」
「ううん。分からないよ」
「ここは教会だ。誓いを立てる場所でもある。神様からの計らいだよ」
「結婚式のやつ?病めるときもっていうやつ……」
「そうだよ。ちゃんと覚えて来た。……今から誓う」
「ちょっと待ってよ。心の準備が出来ていないよーー」
「ウジウジしているから奪う方が早い。お父さんに気持ちを伝えてくれた。あれには感動した。だったら俺も、男として情けなくないように、誓いを立てることにした」
「裕理さんのことが好きだからだよ!でも、それとこれとは話が別だよ」
「俺がそう決めた」
「もうーー」
腹が立つし泣きたい気分になった。どうしてこんなに強引な人を好きになったのだろうか。あの父という悪い魔法使いが、少しは良い事もやったようだ。この人との絆を結ぶことが出来たのだから。
何度目かのキスの後で、額同士を合わせた。早瀬が目を閉じたから、俺の方も閉じた。ステンドグラスからの光が差し込んでいるのが分かる。
「よく聞いておけよ」
「うん……」
「……久田悠人さん。あなたは早瀬裕理さんパートナーとし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「ええー?どうして牧師さんになっているんだよ?」
「こら、茶化すな。返事は『はい』だぞ」
「もう……、なんだよーー」
茶化してなんかいない。嬉しくて戸惑っているだけだ。両目から涙が溢れて来たから、絶え絶えの声で返事をした。
「君の分を代わりに言うよ。……早瀬裕理さん。あなたは久田悠人さんをパートナーとし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?……はい、誓います。……これで誓いを立てた。もう離れられない」
「どこまでも……、強引……っ」
「奪い取るからだ。今度の土曜日に指輪を選びに行こう」
「NO!」
「ゆうとくーん、指輪をつけると特典があるんだよ?」
「何の特典だよ……」
「月夜のレンジャーの、レッドとブルーに会えるよ」
「子ども扱いするなよーー」
「マジカル少女・ミカリンのショーにも連れて行ってあげるよ?プールにも行こう。遊園地のジェットコースターには乗れるだろう?お子様コースターは卒業したのか?」
「もうーー」
「そんなにモウモウ言うと、牛になるぞ?」
「俺はヤギミルクが好きなんだよ。ヤギになってやる!メエェー!」
「ばーーか」
「もうーーっ」
人目が気になりながらも、早瀬の足を踏んづけてやった。そうしている間にオルガン演奏が始まり、静かに耳を傾けた。寄り添いながら。
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