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17時。
これから夏樹の病室へ訪ねて行く。あれこれと見舞いを買い込んだ結果、大荷物になった。大きな紙袋を肩に掛けて持った。早瀬は一階のロビーで待つ。
「4階まで持って行こうか?」
「平気だよ。エレベーターですぐだし……」
「受付で名前を言って、そのカードを見せるんだよ?」
「うん。じゃあ、いってきまーす」
ザーー、ガーー。
エレベーターが4階へ到着した。受付で見舞客用のカードを見せた後、夏樹の病室へと向かった。全室に名前が書かれていない。このカードが無いと、扉すら開かない仕組みだ。亡くなった祖母の病院も同じシステムだったから慣れている。
荷物を肩にかけ直していると、子供連れの人が通り過ぎて行った。動物を見たと話しているから驚いた。
「さっき、ウシのお兄ちゃんがいたよ!」
「ウサギだろ?昨日は耳が付いていたもん。白の……」
「シマウマだよね?」
何かイベントでもあったのか?そう思いながら夏樹の病室前でカードをかざすと、室内から返事があった。そこには夏樹が立っており、ウシの白黒柄が全面プリントされた、パジャマ姿をしていた。子供達が見たのは彼だったのだろう。
「いらっしゃーい。ありがとう」
「どういたしまして。裕理さんは一階で待っているよ。仕事の電話があるから。元気になったら食事に行こうねー」
「うん。座ってよ~」
「君の方は寝ておきなさい」
夏樹の頭には包帯が巻かれていて、左手首には白いサポーターが付けられている。あまり顔色が良くないと思う。これでも元気になったのだろう。高い熱が出ていたというから、大して食べていないのかも知れない。
(口にしない方がいい。気分転換になればいいけど……)
短冊のことを口にしようとして止めた。こっそり願っている事かも知れないからだ。すると、夏樹がベッドの中から、ノートを差し出して来た。
「歌詞が出来上がったよ。午後から書いていたんだ」
「いいのに……、大変だったろ?」
「ううん。退屈しているんだよ……」
「夏樹、歌ってみてよー」
「うん、いいよ。るるる~。ああーー」
夏樹は歌が上手い。ただ上手なだけではなくて、引き寄せられるものがある。ピアノ伴奏で歌ってもらった時、溶け合うような感覚があった。彼が抑えめの声で歌い始めた。男の声だというのに、優しくて綺麗だ。それなのに、妙な歌詞で歌う時がある。俺も歌ってみた。
「るるる~、るるる~、お腹空いても~、おかゆ~、今日は洋食で~、キノコのポタージュー。夏樹……、これはダメだよーっ」
「いいじゃん~」
「だめだよ。この間はカッコ良かったのに」
遠慮なく駄目出しをした。すると、こういう歌詞を書いたのは、病院の食事量が少ないからだと言い訳をしてきた。黒崎さんに頼んでも、おやつを買って貰えないと嘆いている。それはそうだろう。夏樹は小食だ。スイーツを食べると、他のものが入らない。それに、空腹のふりをしているのだろう。こんな時でも気を遣っている。
それには気づかないふりをして、夏樹の歌にツッコミを入れ続けた。そしてその後、夏樹が笑いながら、別のノートを差し出して来た。
「冗談だよ。はい、これでーす」
「やったー。ふむふむ……、これを練習するよ」
期待していた通りの歌詞がもらえた。来月にはバンドのコンテストに出場することが決まっている。夏樹の回復次第ではある。いつでもチャンスはある。なるべく気にしないように言ってあるのに、やっぱり本人は気にしている。
「ごめんね。怪我をして……」
「気にするなよ。みんな、分かっているから。ここで無理するなよ……。念のため、辞退はしていないからね。あと一か月少しあるし。たくさんの大会があるんだよ?これだけじゃないからねー」
「ありがとう……」
ここで気分を変えさせよう。大きな紙袋から手ぬぐいを取り出して、ベッドの上に並べた。8枚の和柄だ。
「浅草で見つけた手拭いと、七夕飾りのセットだよ」
「わああー、いっぱいあるじゃん」
「いいってば。使ってよー」
夏樹が目を輝かせて、右手で手拭いを広げている。ベッドの上は品物だらけだ。唐草模様や、歌舞伎役者、力士のイラスト入りだ。海外旅行客が多いスポットだけある。
「好みだよ。ありがとう~」
「よかった。商売繁盛、め組。こっちは頼まれていた浴衣だよ。全部、お見舞いだからね」
「悪いよ。浴衣は頼んだやつだし……」
「いいってば」
「ダメだよ。いてて……」
夏樹が大きく首を振ったから、痛みが起きてしまった。眉をひそめて呻いたから心配になった。どうして元気なふりをするのか。俺の前では遠慮はいらないのに。
これから夏樹の病室へ訪ねて行く。あれこれと見舞いを買い込んだ結果、大荷物になった。大きな紙袋を肩に掛けて持った。早瀬は一階のロビーで待つ。
「4階まで持って行こうか?」
「平気だよ。エレベーターですぐだし……」
「受付で名前を言って、そのカードを見せるんだよ?」
「うん。じゃあ、いってきまーす」
ザーー、ガーー。
エレベーターが4階へ到着した。受付で見舞客用のカードを見せた後、夏樹の病室へと向かった。全室に名前が書かれていない。このカードが無いと、扉すら開かない仕組みだ。亡くなった祖母の病院も同じシステムだったから慣れている。
荷物を肩にかけ直していると、子供連れの人が通り過ぎて行った。動物を見たと話しているから驚いた。
「さっき、ウシのお兄ちゃんがいたよ!」
「ウサギだろ?昨日は耳が付いていたもん。白の……」
「シマウマだよね?」
何かイベントでもあったのか?そう思いながら夏樹の病室前でカードをかざすと、室内から返事があった。そこには夏樹が立っており、ウシの白黒柄が全面プリントされた、パジャマ姿をしていた。子供達が見たのは彼だったのだろう。
「いらっしゃーい。ありがとう」
「どういたしまして。裕理さんは一階で待っているよ。仕事の電話があるから。元気になったら食事に行こうねー」
「うん。座ってよ~」
「君の方は寝ておきなさい」
夏樹の頭には包帯が巻かれていて、左手首には白いサポーターが付けられている。あまり顔色が良くないと思う。これでも元気になったのだろう。高い熱が出ていたというから、大して食べていないのかも知れない。
(口にしない方がいい。気分転換になればいいけど……)
短冊のことを口にしようとして止めた。こっそり願っている事かも知れないからだ。すると、夏樹がベッドの中から、ノートを差し出して来た。
「歌詞が出来上がったよ。午後から書いていたんだ」
「いいのに……、大変だったろ?」
「ううん。退屈しているんだよ……」
「夏樹、歌ってみてよー」
「うん、いいよ。るるる~。ああーー」
夏樹は歌が上手い。ただ上手なだけではなくて、引き寄せられるものがある。ピアノ伴奏で歌ってもらった時、溶け合うような感覚があった。彼が抑えめの声で歌い始めた。男の声だというのに、優しくて綺麗だ。それなのに、妙な歌詞で歌う時がある。俺も歌ってみた。
「るるる~、るるる~、お腹空いても~、おかゆ~、今日は洋食で~、キノコのポタージュー。夏樹……、これはダメだよーっ」
「いいじゃん~」
「だめだよ。この間はカッコ良かったのに」
遠慮なく駄目出しをした。すると、こういう歌詞を書いたのは、病院の食事量が少ないからだと言い訳をしてきた。黒崎さんに頼んでも、おやつを買って貰えないと嘆いている。それはそうだろう。夏樹は小食だ。スイーツを食べると、他のものが入らない。それに、空腹のふりをしているのだろう。こんな時でも気を遣っている。
それには気づかないふりをして、夏樹の歌にツッコミを入れ続けた。そしてその後、夏樹が笑いながら、別のノートを差し出して来た。
「冗談だよ。はい、これでーす」
「やったー。ふむふむ……、これを練習するよ」
期待していた通りの歌詞がもらえた。来月にはバンドのコンテストに出場することが決まっている。夏樹の回復次第ではある。いつでもチャンスはある。なるべく気にしないように言ってあるのに、やっぱり本人は気にしている。
「ごめんね。怪我をして……」
「気にするなよ。みんな、分かっているから。ここで無理するなよ……。念のため、辞退はしていないからね。あと一か月少しあるし。たくさんの大会があるんだよ?これだけじゃないからねー」
「ありがとう……」
ここで気分を変えさせよう。大きな紙袋から手ぬぐいを取り出して、ベッドの上に並べた。8枚の和柄だ。
「浅草で見つけた手拭いと、七夕飾りのセットだよ」
「わああー、いっぱいあるじゃん」
「いいってば。使ってよー」
夏樹が目を輝かせて、右手で手拭いを広げている。ベッドの上は品物だらけだ。唐草模様や、歌舞伎役者、力士のイラスト入りだ。海外旅行客が多いスポットだけある。
「好みだよ。ありがとう~」
「よかった。商売繁盛、め組。こっちは頼まれていた浴衣だよ。全部、お見舞いだからね」
「悪いよ。浴衣は頼んだやつだし……」
「いいってば」
「ダメだよ。いてて……」
夏樹が大きく首を振ったから、痛みが起きてしまった。眉をひそめて呻いたから心配になった。どうして元気なふりをするのか。俺の前では遠慮はいらないのに。
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