海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

文字の大きさ
21 / 259

2-17

しおりを挟む
 必死に平気なふりをして笑顔を浮かべたから、胸が痛くなった。どうしてここまで気を遣うのだろう?夏樹は人前でゲップをするし、鼻だってかむ。大欠伸をしながらケツまで掻く時もあるのに、どうも体調が悪いことを隠したがる。
 
「全部、裕理さんからだよ。気にするなよ。稼いでいるから使わせてあげて。忙しくて使う暇がないからって、楽しんでいたもん」
「そっかー。……仲良くやってる?」
「う、うん!」

 ドキン。胸の鼓動が跳ね上がって、口から飛び出しそうだ。あの一連の流れを打ち明けるのは躊躇する。早瀬と出会う前、こう話していたからだ。まずは友達関係を続けて、お互いの気持ちを確認した後、恋人同士になるのだと。

(うちの親と似たようなルートだよ。どうしよう?みっともなくて言えない……)

 夏樹なら理解してくれるのに、勇気が出ない。顔が熱くて堪らない。何かありましたと伝えているのも同じだ。すると、夏樹の目が優しいものに変化した。何でも話していいよと言われているかのようだ。

「あ……、えーっと……」
「ゆうとー?」
「あああ……」

 パサ、バサバサバサ!持っていた紙袋を逆さまにして、入っていたものが床に落ちてしまった。ますます挙動不審だ。警察がいたら捕まってしまう。慌てて拾い上げようと体を屈めた。そして、くす玉を拾い上げて起き上がった瞬間、頭に衝撃が走った。

「ごん!いたたたーー」

 どうしよう?いかにも痛そうな音が響き渡り、サイドテーブルの角に頭をぶつけたことが判明した。

「うーーっ」
「大丈夫!?」
「ううん。痛いよーー」
「見てみるから立って」

 夏樹から促されて、ベッドの端に腰かけた。すると、額に夏樹の息が掛かり、彼がそっと覗き込んできた。夏樹の目が至近距離にあるから、思わず見惚れてしまった。

(綺麗な目だな。色気もあるし。本当にイケメンだなあ……。わわわ~、何を考えてるんだよ。裕理さんの毒牙のせいだーっ。女の子が好きだったのに……)

 どうしよう?これでは変質者だ。早瀬が居れば、背中に抱きついて顔を隠しているところだ。誰かにナンパをされていないといいのに。そんな流暢な事を考えていると、夏樹が呻いた。

「赤くなってるよ。看護師さんに来てもらうよ」
「いいよー。平気。みっともないし……」
「だめだよ。血が滲んでいるかも……」
「マジで!?」
「この辺りが……」
「ひいいいっ」

 そこは一番痛い場所だ。虫全般だけでなく、血も大の苦手だ。夏樹が背中を優しくさすってくれた。

「見てもらおうよ。何もなかったら安心だろー?」
「そうだけど……」
「大丈夫だよ。優しい人ばかりだからね」
「お願いしてみるよ。あ……」

 ドアが開いたから顔を上げると、看護師さんが立っていた。俺と夏樹のこと見て、妙に顔を赤くしている。どうも誤解をされたらしい。

「これは違います!夏樹とは友達ですから!決まった人がいるんで!」
「そうです~、悠人とは友達で……」

 全力で誤解だと言い合っていると、黒崎さんが入って来た。頭をぶつけて涙目になっている俺と、下着を追いかけて怪我をした夏樹のことを、いいコンビだと言い、微笑んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖
BL
「恋人はメリーゴーランド少年だった」続編です。溺愛ドS社長×高校生。恋人同士になった二人の同棲物語。束縛と独占欲。。夏樹と黒崎は恋人同士。夏樹は友人からストーカー行為を受け、車へ押し込まれようとした際に怪我を負った。夏樹のことを守れずに悔やんだ黒崎は、二度と傷つけさせないと決心し、夏樹と同棲を始める。その結果、束縛と独占欲を向けるようになった。黒崎家という古い体質の家に生まれ、愛情を感じずに育った黒崎。結びつきの強い家庭環境で育った夏樹。お互いの価値観のすれ違いを経験し、お互いのトラウマを解消するストーリー。

今日は少し、遠回りして帰ろう【完】

新羽梅衣
BL
「どうしようもない」 そんな言葉がお似合いの、この感情。 捨ててしまいたいと何度も思って、 結局それができずに、 大事にだいじにしまいこんでいる。 だからどうかせめて、バレないで。 君さえも、気づかないでいてほしい。 ・ ・ 真面目で先生からも頼りにされている枢木一織は、学校一の問題児・三枝頼と同じクラスになる。正反対すぎて関わることなんてないと思っていた一織だったが、何かにつけて頼は一織のことを構ってきて……。 愛が重たい美形×少しひねくれ者のクラス委員長、青春ラブストーリー。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

新緑の少年

東城
BL
大雨の中、車で帰宅中の主人公は道に倒れている少年を発見する。 家に連れて帰り事情を聞くと、少年は母親を刺したと言う。 警察に連絡し同伴で県警に行くが、少年の身の上話に同情し主人公は少年を一時的に引き取ることに。 悪い子ではなく複雑な家庭環境で追い詰められての犯行だった。 日々の生活の中で交流を深める二人だが、ちょっとしたトラブルに見舞われてしまう。 少年と関わるうちに恋心のような慈愛のような不思議な感情に戸惑う主人公。 少年は主人公に対して、保護者のような気持ちを抱いていた。 ハッピーエンドの物語。

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

処理中です...