海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 本番までは数時間ある。大きな音でなければ、練習してもいいことになっている。さっそく始めることにした。桜木さんと向かい合って、ベースとギターを弾いた。並川さんがリズムを刻んでくれている。そして、早瀬が藤沢のギターフレーズの練習をみている。

「16分音符のフレーズだよ」
「こっちですね……」
「リズムが……、タラタタラタタラ……3つ刻み、最後は2つ刻み、いくよ……」
「タラタタラタタラ……」
「これをもっと速く弾く。こうなる……」
「わあーー、手が……」
「大丈夫だよ」
「タラタタラタタラ……」
「ほお……」

 各控え室の扉は全開にされている。俺達の部屋の前を通り過ぎていくバンドマンから、早瀬を見て驚いている人がいた。スゲーと言っている人もいた。俺は誇らしく思った。

 俺も練習に参加したくて、ギターで乱入した。それを見て、メンバーが大笑いをした。しかし、早瀬は真剣なままで笑っていない。冷静にフレーズ弾き、藤沢に合図を出している。それに合わせて弾いているうちに真面目な空気に変わった。いい意味での緊張感が出てきた。

 夏樹には喉を休めてもらっている。この暑さの中、マスクをしている。ボーカルレッスンの講師から習ったことだという。真剣な空気が伝わってきて、負けらないと思った。お互いにヤル気だ。

 バンドで歌うには、ベースとの絡みが大事だ。足元でリズムを取りながら弾いた。ステージでは下を向くことができない。夏樹と対策を考えて練習を重ねてきた。

「夏樹!ベースとリズムを合わせよう!」
「うん!」
「さあ、いつもの……」
「りょーかい!」

 タタラララ……タタタ……。

 サビの苦手な部分でリズムを取るために、向かい合わせになった。ステージパフォーマンスだと思われるように、この部分ではお互いに向かい合うことにした。すぐにギターソロに入るから、ヴォーカルは入らない。ここで調整する。

「ゆうとー、俺も頑張るよ!」
「なつきー、そんなに固くならないでいいから。楽しもうよ」
「ありがとうー」

 夏樹が履いているデニムのウエストには、愛情うちわが差し込まれている。お守りアイテムであり、一緒にステージに立っている気持ちになれるそうだ。こうして緊張しながらも、楽しい練習時間が過ぎていった。
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