海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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8-14(早瀬視点)

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 17時。

 マンションへ帰宅後、やっとくつろげている。そばには悠人がいて、俺は安心できた。心配かけているだろうと気になっていた。大学へ迎えに行った時、泣いている姿を見て、心が痛んだ。

 俺が怪我をしたのは、20階フロアでの事だった。オフィスのカフェスペースで休憩しながら悠人へラインを送っていたところだた。大学到着後に送れと言っておいたのに、忘れているようで心配していた。

「『舐めるよ』……送信」

 さあ、どんな返信があるだろう?楽しみに待っていると、社員3人が大きな脚立を持って出て行くのが見えた。資料室へ行くのだろうと思った。男性が一人しかいなくて、どうも気になってその部屋へ向かった。

 高さのある脚立に上がっているのが、女性社員の武市だった。男性社員の白澤は下で待機していた。

「大丈夫か?」
「早瀬室長。大丈夫です」
「僕が上がるよ」
「いえ、もうすぐ取れるので。高いところが平気なんですよ……あっ」

 すると、武市の手が何かに当たった。さらにファイルが落ちて来たことで、彼女の視界が遮られた。その反動で姿勢を崩し、彼女が倒れ込むようになった。

「あぶない!」
「キャーーッ」
「室長!大丈夫ですか!?」
「すぐに……」
「いや、大丈夫だ……」

 俺は彼女を受け止められた。しかし、倒れた勢いで頭を打ち、軽い脳しんとうを起こしたようだ。気がつくと、俺達の周りに人が集まって来ていた。病院に連れて行かれる前に、黒崎に悠人への伝言を頼んだ。

 その後、聖加世病院で手当てを受けた。手首は軽い捻挫、指は打撲ということだった。痛みが強く動かせるのか不安があったものの、骨折ではなかったから安心した。

 悠人には、大学から動かずにいろと黒崎から伝えてもらった。帰ってから怪我をしたと言おうかと思いながらも、黙っていたことにショックを受ける可能性があった。検査と処置を終えた後、黒崎と今回の件で話し合った。

(資料室の高い場所の活用は仕方ないとして。いくつもファイルが落ちたのが問題だよ)
(俺の責任だ。すまない)
(圭一さんが謝ることじゃないよ。俺だって管理職だ。あの場所を整理する必要がある。脚立を使うなら……)
(社内で話し合う。明日から休暇を取れ。医師から言われただろう。すまないが、至急の用件はメールで問い合わせるようにするが)
(もちろんだよ。俺はいい。武市さんは平気かな?)
(怪我はなかった。お前に申し訳ないと謝っていた。気にするなとは言っておいた)
(俺の方から連絡しておくよ)

 武市へ連絡を済ませ、黒崎と一緒に大学へ向かった。その後、別の心配事を目の当たりにした。悠人が男子学生から『可愛い』と言われていたからだ。通り過ぎて行ったグループまで言っていた。

(ゆうり……さんっ)
(悠人……)

 あの泣き顔を見て可愛いと思ってしまった。いい機会だと思い、キスをしてやった。これで虫よけに成功した。その後で叱られたが、怪我人相手だからと、大目に見てもらえた。
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