海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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8-15(悠人視点)

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 17時。

 早瀬から怪我をした時の状況を教えてもらったところだ。何も隠さないと言った通り、全部聞かせてくれた。大学に迎えに来てくれた時、男どもから騒がれていてイラついたことも教えてくれた。それについては恥ずかしい。

「こういう訳だ。他に聞きたいことは?」
「ううん、ないよ。落ちてきた人、怪我がなくて良かったね。高さがあるなら、頭を打っていたかも知れないだろ?」
「骨折をしていたかもしれない。そばに机もあった」
「そっか。明後日まで会社を休むんだよね?俺も大学を休んで看病するよ」

 この話を聞いた時に決めていたことだ。試験前でもないし、課題も出されていない。けっこう暇な時期だから良かった。

「いいのか?」
「いいんだよ。たまにはいいじゃん。忙しくて家に居なかったし。けっこう寂し……」
「へえ?寂しがってくれていたのかー?」
「そんなことはないよ!」
「悠人、嬉しいよ」
「あ……」
「またキスしてもいいか?」
「うん……」
「今日は大人しいね」
「看病するからだよ。もっとスイートポテトを食べる?まだ5個あるよ」
「あとひとつ食べさせてくれ」
「うん」

 個装を開封して半分に割った。それを早瀬の口の中へ入れた。こんなことをしているから、いつもより距離が近い気がしている。ベッドでは密着していても、こういう普段の時は恥ずかしい。早瀬が口を向けてきたから放り込んだ。

「アーーン」
「アーーン」

 復唱しているのが照れくさく思えてきた。早瀬のことを観察した。マグカップを持っている手は大きくて、指がスラッとしている。爽やかで優しい雰囲気だから分からなかったけれど、目元がキリッとしていて鋭さもある。叱かる時はマジで怖くて、今は甘くて優しい。見た目では分からないものの、体は筋肉質だ。脚立から落ちてきた人はラッキーだった気がする。俺なら受け止め損ねていただろう。それに、早瀬は合気道をやっているから、受け身が取れたのかもしれない。

「ふう。熱くなってきた」
「珈琲を飲んだからだね」

 早瀬が近くに置いてあった雑誌でパタパタと扇ぎ始めた。帰ってすぐにスーツからTシャツに着替えたから、襟元が楽になっただろう。もちろん着替えを手伝った。今も何か手伝えないだろうか。

「手伝えることはない?冷たい水を持って来ようか?」
「かまわない。ここに居てほしい」
「う、うん……」 

 早瀬の距離が近すぎるからドキドキしている。ベッドでは裸になっているというのに、ちっとも慣れない。このままだと間が持たないからテレビをつけた。ニュースでも見ようとすると、コマーシャルに移ってしまった。

「ゆうとくーん?どうして黙っているんだ?」
「痛む時は大人しくしてほしいだろ?ベットで横になった方がよくない?」
「シャワーを浴びてからにする。晩ご飯はテイクアウトにしよう。朝食の分も買ってこよう」
「何か作りたいけど……」
「明日にしよう。さあ、出かける支度をしようか」
「着替えるよね?手伝うよ!」
「ありがとう。帰ってきてから、風呂も手伝ってくれる?」
「もちろんだよ。夏樹から教えてもらったから上手くできると思う」
「そうか。たまには怪我をするのもいい」
「しないでよ……」
「はいはい。泣くな」
「……」

 早瀬の体にすがりつくように抱きついた。どっちが怪我人なのか分からない。俺はしっかり看病しようと張り切った。
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