海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 風呂から出た後、すぐに寝室に入った。エロいことをされる前に、サッサと着替えさせた。今は早瀬の左手に包帯を巻いているところだ。けっこう苦戦している。

「うーん、こうかな……」
「きれいに出来たね」
「うん。よかった」

 なんとか形になったようだ。他に出来ることはないだろうか?ベッドに腰かけている早瀬のことを眺めた。着替え完了、髪の毛も乾かした。喉が渇いているだろうと気がつき、立ち上がった。

「喉が渇いているよね?お水とお茶、どっちがいい?」
「水がいい。そこのテーブルに置いてほしい」
「ポットとグラスに入れて来るよ」

 ガラガラ……。

 キッチンへ行った。冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、ガラスポットに氷を入れた。これは750ml容量の物で、紅茶専門店で買った物だ。使い勝手がいいからアイスティー作り以外でも使っている。冷たいから水滴が垂れて来るだろう。タオルも持って行った。

「ゆうりさーーん。おまたせ」
「はーい」

 いつもと逆のパターンだ。冷たい飲み物を用意して、寝室へ持ってきてくれているからだ。その理由を思い出して、恥ずかしさから顔が熱くなった。

(わあああっ。抱かれて暑くなるから喉が渇くんだった。どうしよう?期待しているって思われるかな?)

 これについてはスルーしてもらいたいと願いつつ、早瀬に水の入ったグラスを差し出した。すると、特に何も言われなくてホッとした。早瀬が飲んでいるところを眺めた。

「はい。飲み終わったね」
「悠人君、こんな気持ちだったのか」
「なんのことだよ?」
「終わった後、俺が飲み物を持って来ているだろう?飲んだものを差し出してきて、ふうううーって、寝転がっている。気持ちよかったーって」
「なななんだよ!?」

 そんなことは言っていないはずだ。あの時は別の自分のようになっていても、あからさますぎる。さらに早瀬が笑いながら近づいて来て、耳元へ息を吹きかけられた。

「ふーーっ」
「ひいいいいっ」
「もう寝よう」
「うん、そうしようね」

 寝転がったからホッとした。モゾモゾと隣に入り、タオルケットを掛けた。その間も肩を揺らして笑い続けている。

「ずっと笑っているよね?俺が世話するのは、変なのー?」
「嬉しいからだよ。おいで」

 ぐいっと右手で抱き寄せられた。いつものように寝ると、左手に負担がかかるだろう。今夜は離れた方がいい。

「痛いだろ?離れて寝ても平気だよ」
「暗闇が怖いだろう?」
「そばにいるから大丈夫だよ」

 寝るまでベッドサイドの灯りをつけてもらっている。後で早瀬が消してくれている。夜中に目が覚めた時には、抱き寄せてもらっている。今日は事情が違う。仰向きに体勢を変えさせて、タオルケットを肩まで掛けた。そのうえで、しっかりと見つめて言った。

「ここで手を出して来たら『禁欲命令』を出すからね。つまりは抱かれないということだよ」
「へえ?」

 早瀬が吹き出して、こっちを見た。スッと細められた目元からは色気が漂っている。やっぱり今の目的の流れはエロいことなのか。懲りない人だと思った。
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