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カタ……、カチカチ。
午後の割り当て作業分は終わっているから、今は早瀬から回ってきた仕事をやっているところだ。データー整理後のグラフ作りだ。見やすいレイアウトにするように指示があり、工夫しているところだ。出来上がったところで、早瀬に見てもらった。
「これでいいかな?」
「ああ、上手くできたね。これは才能だな」
「へへへ……」
褒められたことが嬉しい。俺にはお世辞を言わないことを知っているから、素直に受け止められる。そのかわり、ダメなところもはっきりと言われる。
「ここ間違えているよ」
「どこ?」
「ここ。列を間違えただけだ。こうしておけばいい。カチカチ」
「カチカチ……、あ……」
つい、いつも癖で復唱してしまった。家の中にいるようになった。恥ずかしい。しかし、キョロキョロと周囲をうかがっても、誰も見ていなかった。
「悠人君、人の目を気にしすぎだ。実際に見られていても、取って食われやしない。堂々としていろ」
「はい」
「こうやってフォトフレームを置いて眺めるぐらいの、図々しさを身に着けよう」
「え?」
「持ってきたんだよ。どのアルバムにしようかな」
「わわわっ」
早瀬がデジタルフォトフレームを取り出していた。家の中でしか使わないと思っていたのに。目をパチクリさせていると、彼がそれを起動させていた。変態写真集を披露されるぐらいなら、身を挺して阻止しよう。慌てて追いすがって取り上げていると、周りからドッと笑い声が起きた。気がつくと、マーケティング推進室の人たちがこっちを見て笑っていた。
その中の一人が平田さんだ。去年入社した人で、24歳だと言っていた。大きな声でハキハキ物を言う人で、さっぱりしている。先輩の枝川さんと一緒に、今回の作業チームの担当になっている。数回しか話していなくても、枝川さん同じく人懐っこいタイプで、俺達と早くから打ち解けていた。お昼ご飯も一緒に食べてくれたから、フォローしてくれたのだと分かる。その平田さんが、俺たちの方へやって来た。
「作業チームの歓迎会の話をしていました。秘書室の山下さんの歓迎会と、合同でやろうと計画しています」
「さっき案内メールを見たよ。悠人君、これだよ」
早瀬がパソコンの画面を指したから見ると、明日の18時半から歓迎会を行うという内容の文面があった。作業チームの歓迎会なら、俺も出席するべきだ。
「裕理さんも出るんだよね?」
「ああ、出るよ。悠人君も出る?」
「もちろんだよ」
「そうか。じゃあ、出席と……」
「はい、ありがとうございます。如月くーん、田辺君!こっちに来てー」
「はい!」
平田さんが同じチームのメンバーに歓迎のことを話し始めた。マーケティング推進室のメンバーだけも数十人いるから、大人数の歓迎会になりそうだ。
そこで、大学の寮の歓迎会のことを思い出した。その時も大人数だった。その後はバンドメンバーとしか集まっていないから、少人数での集まりしか経験していない。大人数は久しぶりだ。ましてや仕事の繋がりは初めての経験だ。楽器店はアットホームな空気だから、こことは違う雰囲気だろう。
「桜木君も出席できるといいですね」
「明日、出勤だ。押しまくってやる」
「カレシさんが迎えに来ますよ?」
「負けないぞ」
平田さんが桜木さんの名前を出した。枝川さんとも仲が良いそうだ。桜木さんはインターンシップ生として、週3回、ここで勤務している。明日と明後日は一緒に仕事が出来るから、楽しみにしている。すると、早瀬から声をかけられた。
「悠人君、もう終わったぞ」
「あ、そうだったんだ」
仕事中の空気とは違う意味でオフィス内が活気づいている。駅で見かける会社員の人と、少しばかりイメージが違うと感じた。元気だと思えた。フレンドリーな人が多い部署だとは聞いている。
ガタガタ……、カサ。
向かいの如月も帰り支度をしていた。これから用があると言うので、短いやり取りの後、オフィスを出ていた。ちゃんとみんなに挨拶をしながら、颯爽と出口へ行っている。黒崎さんから声を掛けられて、嬉しそうにしていた。
俺たちも帰り支度を始めた。今日はこれから遠藤さんの家へ寄る。早瀬が奥の更衣室から紙袋を持ってきた。遠藤さんに渡す、お返しが入っている。
「忘れ物はないか?」
「うん、ないよ」
「お疲れ様」
「おつかれさまでーす」
「お疲れ様です」
挨拶をかわしながら、オフィスを出た。ここでも上司と部下の関係だ。少し距離を取るようにして歩いた。
午後の割り当て作業分は終わっているから、今は早瀬から回ってきた仕事をやっているところだ。データー整理後のグラフ作りだ。見やすいレイアウトにするように指示があり、工夫しているところだ。出来上がったところで、早瀬に見てもらった。
「これでいいかな?」
「ああ、上手くできたね。これは才能だな」
「へへへ……」
褒められたことが嬉しい。俺にはお世辞を言わないことを知っているから、素直に受け止められる。そのかわり、ダメなところもはっきりと言われる。
「ここ間違えているよ」
「どこ?」
「ここ。列を間違えただけだ。こうしておけばいい。カチカチ」
「カチカチ……、あ……」
つい、いつも癖で復唱してしまった。家の中にいるようになった。恥ずかしい。しかし、キョロキョロと周囲をうかがっても、誰も見ていなかった。
「悠人君、人の目を気にしすぎだ。実際に見られていても、取って食われやしない。堂々としていろ」
「はい」
「こうやってフォトフレームを置いて眺めるぐらいの、図々しさを身に着けよう」
「え?」
「持ってきたんだよ。どのアルバムにしようかな」
「わわわっ」
早瀬がデジタルフォトフレームを取り出していた。家の中でしか使わないと思っていたのに。目をパチクリさせていると、彼がそれを起動させていた。変態写真集を披露されるぐらいなら、身を挺して阻止しよう。慌てて追いすがって取り上げていると、周りからドッと笑い声が起きた。気がつくと、マーケティング推進室の人たちがこっちを見て笑っていた。
その中の一人が平田さんだ。去年入社した人で、24歳だと言っていた。大きな声でハキハキ物を言う人で、さっぱりしている。先輩の枝川さんと一緒に、今回の作業チームの担当になっている。数回しか話していなくても、枝川さん同じく人懐っこいタイプで、俺達と早くから打ち解けていた。お昼ご飯も一緒に食べてくれたから、フォローしてくれたのだと分かる。その平田さんが、俺たちの方へやって来た。
「作業チームの歓迎会の話をしていました。秘書室の山下さんの歓迎会と、合同でやろうと計画しています」
「さっき案内メールを見たよ。悠人君、これだよ」
早瀬がパソコンの画面を指したから見ると、明日の18時半から歓迎会を行うという内容の文面があった。作業チームの歓迎会なら、俺も出席するべきだ。
「裕理さんも出るんだよね?」
「ああ、出るよ。悠人君も出る?」
「もちろんだよ」
「そうか。じゃあ、出席と……」
「はい、ありがとうございます。如月くーん、田辺君!こっちに来てー」
「はい!」
平田さんが同じチームのメンバーに歓迎のことを話し始めた。マーケティング推進室のメンバーだけも数十人いるから、大人数の歓迎会になりそうだ。
そこで、大学の寮の歓迎会のことを思い出した。その時も大人数だった。その後はバンドメンバーとしか集まっていないから、少人数での集まりしか経験していない。大人数は久しぶりだ。ましてや仕事の繋がりは初めての経験だ。楽器店はアットホームな空気だから、こことは違う雰囲気だろう。
「桜木君も出席できるといいですね」
「明日、出勤だ。押しまくってやる」
「カレシさんが迎えに来ますよ?」
「負けないぞ」
平田さんが桜木さんの名前を出した。枝川さんとも仲が良いそうだ。桜木さんはインターンシップ生として、週3回、ここで勤務している。明日と明後日は一緒に仕事が出来るから、楽しみにしている。すると、早瀬から声をかけられた。
「悠人君、もう終わったぞ」
「あ、そうだったんだ」
仕事中の空気とは違う意味でオフィス内が活気づいている。駅で見かける会社員の人と、少しばかりイメージが違うと感じた。元気だと思えた。フレンドリーな人が多い部署だとは聞いている。
ガタガタ……、カサ。
向かいの如月も帰り支度をしていた。これから用があると言うので、短いやり取りの後、オフィスを出ていた。ちゃんとみんなに挨拶をしながら、颯爽と出口へ行っている。黒崎さんから声を掛けられて、嬉しそうにしていた。
俺たちも帰り支度を始めた。今日はこれから遠藤さんの家へ寄る。早瀬が奥の更衣室から紙袋を持ってきた。遠藤さんに渡す、お返しが入っている。
「忘れ物はないか?」
「うん、ないよ」
「お疲れ様」
「おつかれさまでーす」
「お疲れ様です」
挨拶をかわしながら、オフィスを出た。ここでも上司と部下の関係だ。少し距離を取るようにして歩いた。
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