海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 18時。

 本社ビルを出ると、外は薄暗くなっていた。10月の半ばになり、この時間は気温が下がっているし風も冷たい。オフィスの中が温かかったから、ジャケットを脱いだままでいた。早瀬に荷物を持ってもらい、すぐにジャケットを着た。その間、眺められていたから、妙に照れくさくなった。

「どうしたんだよ?」
「イメージが変わるからだ。いつもラフな格好でいるから」
「そうだね。Tシャツぐらいしか着ないもんね。裕理さんもギャップがあるよ。ダラっとはしてないけど、休みの日はラフだし。今はいかにも、エリートイケメン会社員だよ」
「全員にあだ名をつけているのか?」
「あ……」

 ここで詰められると、マズイことを口走りそうだ。早瀬と食事に行くようになる前、店で出会った後、いつの間にか彼のことを目で追っていたことは覚えている。そして、あだ名をつけていた。桜木さんのことを苛めているところを見てからは悪い印象に変わったが、その前は、良さそうな人だと思っていた。恋愛感情だったかも知れない。それを思い出して恥ずかしくなった。俺はそれを誤魔化したくて、さっさと早足で歩き出した。

「早く車に行こうよ。寒いから」
「先に行くな。迷子になるぞ」
「だったら追いつけよ」

 早瀬のことをおいて、さっさと歩いて行った。駐車場はこの先を真っ直ぐ進んだところにある。ここから見えているから迷子にならない。すると、早瀬から呼び止められた。

「ゆうとくーん、こっちだ」
「え?」

 また方向音痴が発動したのか。みっともなくて恥ずかしい。無言のままで早瀬の元へ戻ると、強引に手を繋がれた。

「さあ、行こう」
「そっちじゃないんだよね?」
「いや?」
「違うんだよね?呼び戻したじゃん?」
「……こっちだと言っただけだ。間違えているとは言っていない」
「何だよそれ?屁理屈男」
「捕獲するためだ。俺から離れるな」

 急に真面目な顔になって言われた。不覚にも、胸がキュンとした。俺はますます照れくさい思いをしながら、駐車場へと向かった。
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