ハーンのミサイル

有嶺哲史

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第二章  諸国のうごめき

ミサイル防衛構想

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 三人だけの会議の冒頭堯助は、今回集まったのは嘘みたいな本当の話、秘密の国防システムを構築する計画の最後の一環だと言った。

「我が国の防衛計画は宇宙がガランドウだ。そこを我々が埋めるのだ」

「宇宙はおれたち三人の体で埋まるのか?」

おれのトボケは空振りした。
にこりともしない二人は真面目だった。
舜助が言った。

「政治的議論を飛ばしてこんな話をまじめに考えられるのはおれたちのような田舎者のSF好きしかいない」

そうか。
おれたちは昔馬鹿げたことをまじめに考えていたのか。
堯助は続けた。

「世間一般に知られている我が国のミサイル迎撃システムは、軍艦や地上設備から撃って敵の弾道ミサイルを打ち落とすことになっている。その弾一発が何億円、ときに何十億円。百発撃てば何千億円。敵がミサイルを一発づつ撃つならいいが大抵同時多量に撃ってくるだろう。迎撃ミサイルは数も足りない。発射したその後は無防備だ。飽和攻撃を受けると確実に破られる。撃ち漏らした物がメガトン級核弾頭だったら一発でも国家の滅亡だ。何千億円かけてもこれだ。だから答えを持っていないのに世間は気にしていないように見える。社会全体、まさか攻撃されることは無いと思っているのだろう」

「そうだ。攻撃される理由がない」

「こちらに理由が無くても攻撃してくる相手にはある。ところが我が国は憲法からして有事を考えていない。有事にどうするか考えている人は多くない」

「地震だってそうだが、それが?」

「安心しているうちにとうとう危険な方向に進みはじめたのだ。あの国が、かつては別の大陸にある遠国や陸続きの近国を攻撃するための遠距離用、近距離用の陸軍ばかり持っていた。陸続きの隣国の脅威が無くなってきたころ海に目を向け始めた。やがて空と宇宙と海上に兵力を揃え、ついに使用を決断しそうだ。彼らが静かに準備していることは我々にも判っていた。なぜ彼らは我が国を攻撃するのか? 百年単位で政策を考えると言われる彼らの動機は直近の外交関係を調べても本当の理由はわからない。ところがごくわずかな人には解った。以前から我が政府のどこかで極秘の対抗策が検討され続けていた。A国と同盟しているのに自分で守るべきなのか? A国が我が国よりC国を経済的理由から二倍も重要だと見ているからだ」

しかし政府からそんなことを聞いたことが無い。
このあと堯助は秘密の対応策というものを説明した。

「宇宙発電所に偽装した防衛システムを造るのだ。すなわち我が国上空の準静止軌道に太陽光発電衛星を多数打ち上げる。数個ではない、百個近くだ。準静止軌道とは静止軌道に似て、見かけ上特定地域の上空見える範囲にずっと留まる軌道の一種だ。我が国上空とオーストラリア上空を8の字形で往復する。静止軌道に匹敵する高度であり、しょく(地球の影)になりにくいので夜間でも発電できる。高軌道にいる衛星を地上や戦闘機からミサイルで狙うことは困難だ。表向きは平和な宇宙発電所だ。発生した電力はマイクロ波で地上に送る。本当の目的は有事の際に敵国の弾道ミサイルを無力化することだ。宇宙を飛翔中にレーザー照射する。少しでも損傷した弾頭は再突入の衝撃で完全に破壊され、飛跡が消える。核爆弾は少しでも部品が損傷すると起爆しなくなることは過去の事故例で示されている。大事なことは、我が国では憲法の事情からこれが武力であることさえ隠さなければならない」

「聞いちゃった。すぐ言っちゃいそう」

「だめだよ。我慢してくれ」

おれは今までレーザー兵器の実用化は難しいと思っていたので聞いてみた。

「確かにレーザー兵器なら只みたいなコストで連射もできる。多数のミサイルによる同時攻撃を防ぐことができるだろう。しかし問題が有る。ミサイルを狙ってレーザー光線を地上から発射すれば自身が作り出す大気の温度むらによる光の屈折で狙いが外れてゆく。敵に空気の加熱跡を調べられたら発射地点がバレてしまう。空気にエネルギーを吸い取られ意外に射程が短い。大気中を高速で不規則に飛ぶ相手には照準が難しい。山陰や水平線の下から敵の巡航ミサイルが飛び出てきた時は迎撃が間に合わない。高さを無視すれば見通せる範囲は二十キロくらいしかない。瞬間的に巨大電力を必要とするので使えば街が停電する。大出力に伴い冷却が間に合わなくて連射間隔があいてしまう、などの問題だ。しかもミサイル側には弾頭を回転させるなど遥かに簡単で安い対抗策があるという説もある。世界的にもレーザー兵器の取り組みは多いが、いつも〝あと五年〟と言われるばかりでなかなか実戦配備にならない」

堯助に驚きの表情が走った。

「なんでそんなに知っているんだ?」

「おれはSF作家だ。普段からいろんなことを調べている。計算はダメだが」

「だが地上ではなく宇宙にレーザー照射源を置くことが要点なのだ。それで君の言った弱点はあらかた解決する。最近ノイズ処理の技術が進んだ。迎撃が難しいといわれる極超音速巡航ミサイルだろうが飛翔制御弾道ミサイルだろうが或る区間は燃費のために大気の上を飛ばざるを得ない。しかも宇宙空間を飛んでいる間は弾道飛行するからコースが変化しない。だからこのシステムのターゲットになり得る」

「いままで聞いた話すべてはプログラム制御だろう? プログラムにはバグがつきものだ。A国で昔コンマ一個抜けただけで医療用放射線装置が患者を焼き殺し、金星探査機が途中で爆発した。大規模なプログラムはどんなにテストしても必ずバグが残ると聞くが、どうやったのだ?」

「以前はプログラムを一文字ずつ人が書いていた。その時代には君の指摘通りだった。今はAIが作る。プログラム生成機械と別の検証機械を対立させ、繰り返しやり取りして最終的に正しいものが得られるようになった。この方法が適用できる場合は正確なプログラムが出来る」

そこまでいっているとは知らなかった。
それはともかく堯助は

「ところでレーザーの原理を説明しよう」

「いや、それはいい。反転分布とかなんとかだろう?」

「またまた文系のくせによく知っているな」

「再び言うが、おれは、一応はSF作家なんだぞ。有名作品は何もないけど」

「ただしこれは普通のレーザーではない。自由電子レーザーというものなのだ」

「シンクロトロン放射光をうまく纏めてレーザーにするやつだな」

「なんだとっ! なんでそんなことまで知っているんだ。あきれた文系だな」

「あれは巨大な施設だったぞ。長さ一キロメートル近くあったかな。出力は五百テラワットと聞いた」

「見学していたのか。我々の物はそんなに巨大でもそんなにすごい出力でもない。しかし衛星に搭載できるほど小型化した」

「その方がすごい。他国もすぐには真似できまい。ところで敵ミサイルの探索だが、三万キロ以上先の二千キロ四方の領域内を時速八千キロで水平移動するカバンくらいの物体を見つけ、照射破壊なんて本当に出来るのか?」

「一つ。フェーズドアレイレーダーだ。それは機械的な可動部分なしで任意の方向に鋭い波動ビームを発射できる。二つ。宇宙空間では減衰がないテラヘルツ帯の電波を使って解像度を上げることが出来る」

「フェーズドアレイとはホイヘンス=フレネルの原理を使ったものだな?」

「……」

おれに似合わぬ理系の知識量に堯助はカウンターパンチをくらったようだ。

「さっきも言ったがとてつもない精度が必要だろう。ひょっとして極秘に量子レーダーを実用化してしまったのか? ステルス兵器でも丸見えにしてしまうと言われる」

「それはまだだ。それから、我々の発射する電磁ビームは主にX線だから間違って目標を逸れても大気圏の上層で大気分子と衝突して光に変わるので地上に被害は及ばない。プログラムにバグがあったとしても大気のお陰で安全なのだ」

「核保有国は移動式発射台やら隠しサイロなど、自慢げに持っているが」

「弾頭が飛んでいる所を見つけて撃ち落とすからそんなもの無用の長物だ」

「なるほど」

「残るのは、接近してきて近海の海中から大気圏内を飛ぶ巡航ミサイルを撃たれることだが、おれ達の守備範囲ではない。もっとも、短距離ミサイルをSLBMにするなんてのは大体遅れたやつらだ」

「へえ、そう。遅れたやつらか」



 さらに堯助は衛星について話した。

「普通の宇宙太陽光発電で原発並みの百万キロワットの出力を得るためには数キロメートル四方もの巨大な発電パネルが必要だ」

「しかしその超巨大パネルに石が当たったらどうするのだ」

「うん、そのたび修理工を乗せた有人ロケットを打ち上げるのだろう。しかも高軌道だから最低一回当たり六十億円かけて打ち上げて。高軌道での船外作業専用の宇宙服も同じくらい高価になるだろう」

そんなに大変なら補修ができない。
巨大な団扇のような太陽電池は絶え間なく破壊されて短期間でボロボロになってしまうだろう。
採算取れないような気がする。
ところがそういう思い込みの裏に隠れて政府は秘密裏に今聞かされている我々の宇宙迎撃技術の開発をやってきた。堯助は言った。

「このシステムは一枚だけの巨大パネルは使わない。非常に多数の小型衛星を使う。二百個あればいいのだが、予算を削られた」

舜助が割り込んだ。

「財政の数字合わせで七十個に決まった。それでも一千億円を超える」

ついでにおれも割り込んだ。

「ふーむ。こういうケチり方は神社でお守りの代金を値切るようなもので、思っている以上に良くない事だ。例えば田舎の神社で、参拝者が伊勢の御神札である神宮大麻じんぐうだいまを受けようとする時に値切るとしよう。値切る人は値切った分だけご利益が減るくらい、いいと思うだろうが、大麻の代理授与は田舎神社には利がなくて値切られたら田舎神社が赤字をかぶる。神主に自腹を切らせる。これは良くないことだからご利益は何にも残らない。ところでこんな国の政府でよく開発の決断ができたな。でもそれで守れるのか」

「その例えは誰にも分らない。直接の経費は装備満載のイージス駆逐艦一隻の購入費くらいと言えば驚くほどでもないが政府も腹をくくったのだ」

確かに宇宙なら色々利点がある。
真空の宇宙を飛行中の弾頭を狙うなら大気の影響で減衰することもなく屈折することもない。
しかし気になるのは発射炎も見えない小さな弾頭の位置を誤差なく把握できるのか。
すると堯助が

「さっきの続きで三つ目、精度を上げる計算方法だ。同じ対象を位置的に離れた複数で撮り、それらを合わせて計算によって精度を上げることが出来る。航空写真ならバンドル調整法といい、その数式だが……あ」

数式と聞いておれの顔に集中力が消えたのを見て堯助は説明を止めた。
数字だけをまとめると以下のようになるだろう。
一部不確かな数値も含む。



▽ ▽ ▽

 同時に百発程度のミサイルを撃墜したい、として考えよう。
レーザー砲一門の一回の攻撃は余裕をもって三百キロワット、照射時間は五秒とする。
このエネルギー総量は戦車主砲の実体弾の運動エネルギーに匹敵する。
装置の冷却時間を十秒とすれば一分間に四回照射できる。
真空中の液滴ラジエータの冷媒百三十五キログラムで冷却可能だろう。
レーザー砲を積んでいる衛星をメインガン(主砲)衛星ということにする。

 ミサイルが日本海上の宇宙空間を飛んでいる時間は数分から十分だ。
十門の砲があれば三分間に百二十発を打ち落とすことができる。
発電衛星一個の発電能力は四十八キロワットだから各主砲に供給する発電衛星は七基。
電力はマイクロ波送電する。
全体で発電衛星は七十機必要。
発電衛星は(六 × 十九)メートルの発電パネルを二枚持つ。

 我が国最大のロケットならば遷移軌道に六トン半を打ち上げられる。
発電衛星の重量は一トンで、その中の薄膜太陽光発電器は三百二十キログラム。
残り六百八十キログラムに衛星の他の機能が納められる。

 発電衛星の打ち上げ回数は全体で十二回。
メインガン衛星一個を三トンとすると全体で五回の打ち上げ。
司令部となる有人の〝マスターガン〟衛星は本体三十トンだが六トンのモジュールを六回打ち上げて宇宙で合体する。
うち一回分は有人往還船だ。
宇宙に人を運んだらそのまま衛星の横にいる。

 打ち上げ費用は一回六十億円とする。
総合計二十三回。打ち上げだけの総費用は千四百億円。
打ち上げ場所が三か所あれば約七か月で打ち上げはすべて終わる、と堯助は言った。
しかし打ち上げ費用以外に、三種類の衛星開発費、間接経費や別のプロジェクトから設備や技術を受け継いだのもあるので全体はイージス艦一隻分どころかその十倍、一兆円に達するはずだとおれは思った。

△ △ △



 堯助による説明を自分なりに纏めると以上だ。
数字が出てくると理解に時間が掛かるおれは言われる通りそのままノートに書いた。

「おれはいつか読み直して理解しようと思う」

と言うと二人は口をそろえて言った。

「君は数字を理解しなくても任務は十分できる」

おれが忘れてくれる方がいいのかもしれなかった。

 同盟国であるA国にも秘密だ。
A国は複雑な思惑を持つので言えば開発に反対することも有り得る。

堯助は

「すべて未発表だ。関係者以外にバラすのは、君が初めてだ」

「おれにはさっぱり解らないから秘密は漏れない。昔、軍人自身が芸者と床屋に巧みに聞き出されて計画中の大作戦を漏らしたことがあったが、おれは近寄ってくる愛想のいい知らないおじさんと美女には気をつけよう」

「ブ男にはブスのスパイを当ててくる。ブスの語る不幸な身の上話に気を付けろ」

「大丈夫。ブス女の本命は実はハンサム男だということをブ男達は経験している」

「それでも詐欺や奇術のトリックを使われたら誰でもやられる」

高精度の探索と照射を自動制御するソフトウェアは堯助が作った。
聞いてもわからないと思ったので聞かなかった。

 弾道ミサイル攻撃はそれで防衛できたとして、長距離爆撃機、ミサイル巡洋艦、原潜、本土からの巡航ミサイルなど、他にも秘密兵器などがあったらどうするのだろう。

「地上と海上には味方の軍がいる。地上軍からは見えないが、水平線の下から敵が発射した海面すれすれを飛ぶ亜音速ミサイルがやってくる。それを宇宙から発見・追尾しながらそのデータを地上軍と共有し、地上軍が敵味方を判別して迎撃ミサイルを撃つ。海面ノイズや虚像は高性能化した複数のレーダーを組み合わせて除去できる」

「いつこのシステムができるの?」

「既に出来ている。テストも終えた」

「でもさっき七十個と言ったろう? 人工衛星は超高品質が求められる。間に合わないだろう?」

「その手品のタネはあえて言うほどでもないが大量生産できるようになったのだ」

「ところで、我々に思いつくなら他の国でも密かに開発しているんじゃないか?」

「思いつくことはできても実際に作れるかとなれば話は別だ。驚異的高純度の素材技術、熟練工の精密加工技術が必要だ。我が国では長期にわたる高度成長の中でそれらが育まれた。機械に代替できない技術も今ならまだ熟練工の手に残っている。紙に書かれる技術は盗まれるが熟練技能はそうでもない」



 次に舜助が有人衛星であることについて話し始めた。

「実はその宇宙衛星の一つに人が乗らなくてはならないのだ」

おれを見ている二人の眼が光った。
そういう眼をおれは嫌いではない。
おれが呼ばれた理由はこれだろうと思った。

「だろうな。こんな所に呼んでうまいもの食わせてホラ話を聞かせるだけのはずがない」

「我が国政府が致死性自律兵器、あるいは自律型致死兵器(LAWS)の禁止に賛同しているためだ」

「相手がそれを守る気が無い場合でも?」

「よく知らないが既に決定したのだから議論は無用なのだ」

我々のこの宇宙発電システムは平和な時なら無人で運用できる。
しかし戦闘用の機能となるとだめだというのだ。
他にも、もし完全無人衛星だったらシステムが狂ったとき止められないかもしれない。
またプログラムの作成時に想定したこと以外は臨機応変の対応ができない。
深宇宙からの超高エネルギー宇宙線による予期せぬ回路の誤作動、偽信号混入も有り得るという。

「少し疑問があるがおれはLAWSの正確な定義を知らないから何とも言いにくい。それにしても有人宇宙船にするだけで大変なコストがかかる。無人の場合の十倍だ。開発期間もおそらく五年はかかる。そんなものをなぜ?」

「実は今回のために有人衛星システムを開発したのではない。秘密でもないのに全く知られていない計画があった。宇宙居住地の実験設備を月地球間のラグランジュ点に作る、我が国独自の計画だった。まずプロトタイプとなる狭い宇宙船を打ち上げた。構造および内部は人間が生存できるためのあらゆる設備が揃っていた。最初に人間の代わりに一体のアンドロイドを乗せて実際に宇宙に打ち上げた。そのアンドロイドは人間のパイロットの代わりになるよう高性能な人工知能を持ち、問題解決能力が極めて高かった。ところが時間が経つとアンドロイドは指示に無い勝手な振る舞いをし始めた。予想外のことで原因ははっきりしなかった。宇宙線によって頻繁にAIに損傷が起る。すると高度な人工知能は損傷部分を自己修復しようとする。その過程で偶然悪魔的なものが芽生えたのだ、などといろいろ言われたが原因は解明できなかった。そのうち計画は中止になった。有人宇宙船の技術はほぼ完成していたのに全て廃棄すると聞いた。そこで我々の計画が全部もらうことにした」

「ミサイル迎撃システムのように、人間は地上に居て、無線で衛星に命令すればいいのじゃないか?」

「十分間に百発のミサイルが飛来する攻撃を想定すると、地上の人間が個別のターゲットを判断・確認しながら宇宙の兵器に命令を出すことになり、復唱も入れると全部で一時間以上掛かるので全然間に合わない。衛星に人間がいて自律機能を管理できるなら攻撃命令は最初の一回だけでよいらしい。自律機能は宇宙に行ってから人間がそこにいないと勝手に進化を始めてしまう恐れがある」

「そうなのか。おれみたいな劣等人間が乗っているだけでいいのか?」

すると二人は言った。

「君が劣った人間だとは誰も思っていない。部分的にロボットに人間が敵わなくても全く問題ない」

「人間が一人でもいたら責任は取れる。ロボットは責任というものを取ることができない。ロボットを社長や首相にはしたくないだろう?」

「確かに。いつの間にかロボットの飼育動物になっているというSFもわんさかある」

一般人を殺傷対象にしなければLAWSといわないような気もするが、いろいろ説明されたのに腑に落ちることも無く結局何かよく解らないまま二人の俊秀が言うからそうなんだと思い、話を合わせていた。
舜助がロボットのすることに制限を設ける話をしているとき、昔中学生のころ誰かの話に出たロボット三原則を思い出した。
あのとき堯助の妹の美詩亜が口を挟んだ。
その原則、守らないヤツいたらどうするの、とか言っていた。
天才的に思考が飛躍しがちな二人よりも、解りやすい話をするおれの話を聞きたがった彼女におれも親しみを感じていた。
想い出して懐かしかった。
いまごろ知らない男と結婚して幸せになっているのだろう。
堯助に訊いた。

「おれでもロボットに命令できるのか。そういえば、美詩亜ちゃん今どうしている?」

「美詩亜は遠い所にいった」

「えっ!?」

「いや死んだのじゃあない。地方の幼稚園の先生になっている。幼い頃の夢が叶ってなあ」

あの頃女子中学生だった美詩亜を想い出すとむやみに懐かしく、昼寝していた彼女の清楚な姿が目に浮かんだ。
気が散ったが大事な話はまだ続いていた。

「で、話を戻すがその人間の代表がおれだって? 普通は物凄く優秀な人間が」

再び舜助が言った。

「時間が無くてやむを得ない状況にあるだけではない。詳しくは言えないが君しかいない」

「頭が悪くてもいいのか? ということは、おれは重要な役ではないな?」

「勉強はいらない。任務は簡単だ。あ、いや……おれたちは君を英雄にしたいのだよ」

戦闘に参加するのはごく短い時間で、大部分は待機しているだけだろう。
舜助は、情勢が改善すれば地上にもどれる、そうでなくても宇宙線被曝量の関係で一定期間経てば必ず交代要員が来るから心配するな、といった。
あれ? おれの代わりがいるのか? さっき〝君しかいない〟と言ったのに。
だがおれは気付いていないふりをした。
最後に彼らは言った。

「実は最初から君を乗せることを想定して開発していたのだ」

「やっぱり。二人で勝手におれの人生を決めやがって」

おれは数秒間眼を瞑った。
心の中は大きく揺れた。
その間不機嫌に見えたのは予想外だったらしくドキッとした二人はおれが本心で怒っていないか心配そうな表情だった。
堯助はたった一人の跡取り息子、舜助は母の老後が心配だ。
それに引き換えおれは四人兄弟の一番下。
だが本当はもっと簡単なことだ。
二人はスタートレックの耳のとがった副船長みたいな感じの論理的な人間なのだ。
結論を出すまでは人の感情など全くお呼びでない。
そして結論を言ってしまった途端相手の気持ちを想うことが出来るのだ。
少しして心の中である結論が出た時は自分でも不思議なくらい落ち着いていた。
やがて心は静かなままワクワクしてきた。
ずっと面白くもない仕事をしている人生よりよほど面白いだろう。
観光旅行に出る前のような気分になった。

「わかった。行こう」

ところが二人の表情は変わらない。
気分をほぐそうと思ったおれは言った。

「アンドロイドの代わりに鯛子を宇宙に連れてゆこうか」

二人はもっとドキッとして顔を見合わせた。
振り返るとおれの背後に大柄な鯛子が腕組みをして力士のように見降ろしていた。
一瞬おれをひねりつぶそうと思ったのだろう。
鯛子は

「そろそろ気分を変えましょうよ。スポーツチャンバラをやらない? 私の旦那様も加わってよ」

何が旦那様だ。
鯛子は男達を全員思いっきり叩きのめしてすっきりしていた。
高校ではおれより遥かに優秀だったのに彼女はこの仕事に加わらないと言った。
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