ハーンのミサイル

有嶺哲史

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第三章  戦争への動き

初めての宇宙

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 高靂三年三月、梅の花が終わり桜はまだ咲いていないころ宇宙に行くことになった。
身辺整理も途中であきてしまって止めた。
昔、出征する若者は神社などで集まった近所の人々によって壮行会をしてもらえた。
自分の名が書かれた幟旗のぼりばたと国旗に囲まれ皆の前で頬を紅潮させ晴れがましい挨拶をして土地の有力者と共に白黒写真に納まった。
その若者の気持ちは今のおれにもよく解る、などと思っていたらいよいよロケットに乗り込む段になって見物人どころか見送り人が全然いないことに気づいた。
世間は何も真相に気づいていない。
完全非公開の基地から打ち上げられる。
秘密任務らしくはあるが人間はおれ一人。
これはひょっとして死刑台に上がっているんじゃあないだろうか。
高い所にある搭乗橋に来たとき遠方に寒々と雪山の連山が見えた。
そんなものまでおれを見限ったように知らんぷりしていた。
何でこんなに淋しいの? 自問するうち大型ロケットエンジンの轟音と振動と共におれとミヤコが往還機に乗って打ち上げられた。
宇宙飛行士と地上スタッフが厳しく緊張した声でかっこよくやり取りするような作業は一切なかった。
振動も少なくて寝ている間にいつのまにか宇宙に上がっていた。
往還機から乗り移った。
有人宇宙船のモニターに映る外は真っ暗で、これでは宇宙に来た実感がわかなかった。
小さな出窓から地球を見てみた。
地球はちょうど三日月状態で、中途半端に大きくて歌舞伎の舞台の書割かきわりの月のように見えた。
これでも宇宙にきたことを実感しようと思えばできそうだった。
実際の宇宙船の操縦その他はおれがミヤコに普通の言葉で簡単に指示すればミヤコが実行するのでおれはマニュアルも何も憶える必要はない。
もしおれが恐ろしく無口な人間だったり、希代のひねくれ屋だったらこのシステムはうまく運用できないだろう。
おれが素直な人間だったのは幸運だった。

 予定の軌道に乗ってから地上からの指示通り簡単な機器のチェックを行った。
普通の宇宙ステーションの内側はボタンやレバーで埋め尽くされ逆ハリネズミ状態だろうが、おれの乗った何号だか名前も付けられていない宇宙船には言葉が判り通信機能を内蔵するミヤコがいるのでおれは触る必要が無い。
だから船内はボタンもレバーも無くてSF映画の宇宙船のように恐ろしくすっきりしている。
モニターは沢山あった。
中央に巨大なものが五枚、周りには各ステゴちゃんの様子が見える小型のものが十枚あった。
その他にもメーター表示用もあった。
ミヤコが壊れた場合の対応方法を誰からも聞いていなかったことに今頃気づいたが遅い。
ミヤコはじっとしているままで、無線で衛星の機能をチェックする彼女の凛として澄んだ高い声が空間に響いていた。

 普通なら地上基地がやるようなこともミヤコが行ったのであまり地上との交信はない。
衛星の中はほぼ密室だった。
ミヤコはおれの健康管理までやった。
定期的に骨密度低下予防薬などの薬を出すことは勿論のこと、手術もするという。
人間ではないので薬剤師、医師の資格は要らないというが、いいんだろうか。

 ミヤコは時々充電するが、そのときは自分で充電箇所にいってしばらくじっと動かない。
ある種の掃除機と同じだ。
充電中の表情が、驚いたようなめちゃくちゃ面白いものだった。
おれは最初のころ、充電中で動けないうちは失神していると思って、興味があったミヤコの体を触りまくった。
充電が終わってミヤコに無表情で言われた。

「旦那様、私の体をお探りになりましたね」

「わかっていたか、ごめん」

おれは若い女中に夜這いしようとしてバレた禿げ旦那のようで恥ずかしかった。

「旦那様、どうぞ、どこでも」

「いや、もういいんだ」

ミヤコの無駄口は殆どなかった。
充電中の表情は舜助のイタズラだった。
ミヤコがあまりに従順なので、急に驚かすとか怒鳴るとか、尻に触るとか、むくむく起こるイタズラ心を押さえるのに苦労した。
ミヤコは冗談が判らないのでそういう行為は舜助に厳しく禁止されている。

 おれの寝る時間が来た。
ミヤコに寝るよ、と声をかけたらミヤコが母親の様におれの傍に添い寝した。
おれを寝かしつけている。
舜助の母瑤子の感じがする。
ミヤコの女性的部分は手近な瑤子を学習に使ったのだろう。
そう思って瑤子の豊満な裸体を見た中学生の頃を思い出しながら寝た。
ミヤコの夢を見た。
瑤子の裸体でおれを抱こうとする。
力が強すぎる。
いつの間にか鯛子に替わっていた。
恐怖に駆られて目が覚めた。

 目が覚めるとミヤコには悪いが以後の添い寝は断った。
ミヤコは時々固まる。
動かなくなり何の反応も無くなるのだ。
いかにも機械だという感じがする。
舜助に聞くと初期化ボタンを押せばいい、ボタンはミヤコの股間にあるという。
そこが不用意に物にぶつかる可能性が最も低いからだと言った。
股間といってもドラム缶だ。
押せばミヤコは再び動きだした。
ミヤコが固まる頻度は学習効果のように日が経つにつれ減少していった。
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