ハーンのミサイル

有嶺哲史

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第六章  第二次戦役

陸の攻防

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 地上と近海の水上の敵との戦いは我が国の海軍、陸軍が前面に出て総力をあげて戦っていた。
地上の情勢は宇宙にいる我々には概略だけ伝えられた。
宇宙から見える軍の敵味方識別の手段がなくておれが直接手を下すことは躊躇ちゅうちょされた。
このころには朧気おぼろげながら一般人にもC国の戦争目的が判ってきた。
それは略奪だった。
都市間を分断して兵糧攻めで降伏を待っているかに見せて包囲を狭め、一気に無警告で爆撃して住民全員を無力化し、それから迅速に略奪を終えてさっさと帰るのだろう。
先の大戦後のような大変革を伴うねちっこい占領はしない。
空母部隊による航空優勢の中で上陸を始めたC国陸軍は大都市を包囲したが市内には入ってこず自ら停滞していた。
軍を運んだ海上艦艇群は沖に退いてそのあたりに漂泊していた。
都市のインフラは攻撃されなかった。
住民の活動は大幅に縮小したが続いていた。
都市の包囲はわが陸軍の攻撃によりしばしば破られたがすぐ復活された。
この綱引きはしばらく繰り返された。
長距離の物流は止まったままだった。
ジパングは封鎖状態だった。
先の大戦の戦時下と違って言論の自由もあり生活はひどくなかったが、それも長く続くはずがないと思われた。
大陸から直接飛来する爆撃機は少なかった。
A国の戦闘機や対空ミサイル網で防がれていた。
だがハーンは地上をさておいて今、ある宇宙の敵を狙っていた。
C国軍の動きが一時止まった。



 鮃子が姉の鯛子に言った。

「上陸しないC国の海上軍は攻撃もせずただ見ているだけみたい。何を考えているのかわかんないよ」

「都市を包囲したC国軍は動かず、C国海軍も沖合に浮かんでいるまま。まるで弘安の役の元の船みたいに台風にやられたいのかな」

ハーンは大出力の核爆弾で都市全体を一気に消してしまうつもりではなかった。
少し意図が違っていた。

「姉ちゃん、沖綱でクーデターが発生したよ。琉珠共和国政府が現れて独立宣言し、C国と同盟すると発表したよ」

もともとそういう主張を持っていた勢力がいたので彼らがC国に使われたのだろう。
琉珠共和国なるものを承認する小さな国々があっという間に南半球を中心に次々出現したが、間もなく消えると思われたジパング政府の撤回要請に説得力はなかった。

「沖綱の独立が認められたら休戦後でも我が軍がその方面に展開できないわね。平和になってもエネルギー海上輸送ルートを扼されたままになって、常に恐喝され窮することになるかもしれないわよ」

「そんなことより姉ちゃん、北海道ではもっと不気味なことが起こっているらしいわよ」

このころ北海道にC国の大軍が忽然と出現した。
強力な武器を備えた立派な軍団で、大部隊が渡海してきた形跡は無かった。
実は長い休戦中に気付かれずじわじわ入り込んでいた。
彼等は北海道南部を一気に突っ切り青函トンネルを通過して東北地方に南下してきた。
鯛子は言った。

「平時の入国管理が緩すぎたのよ。私ならぎゅっと締めて入れないようにしてやるわッ」

「私なら、楽に奥まで入らせて、そこで突然ぎゅっと締めあげて驚かしてやるわッ」

「そんなことできるの?」

鯛子の話は戦争前にC国で秘密に検討されていた、社会侵略戦略と偶然符合していた。
最初に出た案はジパングの美女を拉致してC国の独身男に与える策だ。
ジパングの男は落胆するだろう、という目論見は効果不明だと却下された。
次にC国の貧乏で病弱な老人たちを大量にジパングに送り込み世話を押し付ける案がでた。
親C国的な政府のときにいつの間にか作られたおそろしく緩い外国人制度に付け込むのだ。
甘いジパングの審査基準に付け込み社会保障制度に負担をかけジパングの経済社会を弱らせる作戦だった。
しかし長い時間が掛かり、ジパング政府は気が付いて早々と入り口を締めてしまう。
すると上記の北海道作戦に支障が出るとハーンは考えて却下した。



 ココジン姫が心を寄せた護衛兵の青年は出征し、所属部隊はジパングの北半分にいた。
彼は仲間が略奪暴行をしている時もそれに加わらず暇さえあれば高山に入り花を探していた。
あるときとうとう群落を見つけた。
清々すがすがしい高山の空気に冷えた岩場の片隅で、数百株が天に向かって茎を伸ばしてそよいでいた。
先端に咲いた紫の花は揃って可憐にうな垂れていた。
真ん中にひときわ大きく気品に満ちたピンクの花が青年を待っていたように微笑んでいた。
青年は転落の危険を冒して写真を撮り〝こんな花の咲くジパングは不思議な地に思えます〟と書き添え、花の標本と生きた根を姫に送った。
根は検疫を通過できたが手紙は検閲されるので個人的情念は書かれていなかった。姫は繰り返し読んだ。
天にも昇る心地で感謝の手紙を青年に送ったが本人の返信の代わりに戦死が報告された。
かつて青年を従え馬で駆けたとき、青年は皇女に遠慮して決して横に並ばなかったことを想い出した。
傷心の姫は大草原を夢中になって馬を駆った。
落ちてゆく太陽を追い続け、赤い剣のような雪峰に夕陽が沈んだ時、姫は下馬し泣き崩れた。
その後姫は画家に、青年と二人並んで楽しそうに大草原を疾駆する想像図を描かせた。
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