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ベガ侯爵夫人
しおりを挟む夫が遺した書斎は、今や私にとって憩いの場だ。
ここには信頼できる人間しか呼ばず、本心からの言葉を吐ける。
「婦人会から婦人がいなくなったわね」
こんな事だって言える。
騒ぐだけなら犬だって出来るものね。
「まるで動物園。いいえ。野良犬の巣よ。議論だって出来はしないわ」
婦人議会の代表がこんな事を言うなんてしれたら即追放されるでしょうね。
でもここには私の信頼する家令しか立ち入ることを許していない。
議会の質が此処まで落ちたのは、コロンバイン夫人が入ってからだ。
次期公子妃の母親という身分を得、発言権を手にした彼女はそのバイタリティーを持って議会で注目を浴びていた。
現在、通常議会の下位互換とされてしまっている婦人議会に男性のそれを同じ権威を得るために様々な努力をしている。
その点は褒めよう。
しかし、品性が足りないのだ。
大声を出すだけで内容が伴っていない。
感情論ばかりで根拠や本質がない。
否定をすれば私を「夫を戦争で亡くしたから名誉男性の身分を得たのか」と罵ってくる始末だ。
言葉が通じるのに会話が出来ない日々に疲れてしまった。
しかし声の大きい人間を、それだけで魅入られる人間もいる。
そんなコロンバイン夫人の信奉者が議会に増えだして、私は更に頭を痛めた。
サーペン伯爵から手紙が届いたのは、そんな時だ。
前半の鳥肌が立つような寒い詩は無視して、後半の文を見る。
コロンバイン夫人の信奉者となった彼の妻が、あちこちで資金を集めているというのだ。
――何を考えているのかしら。まさか、私に対抗するために自分の信者をさらに増やそうだなんて……いいえ。やりそうね。
わかることは一つ、あの女はなにかとんでもない事をしでかそうとしているということ。
計画性があることとは思えないが、これ以上獣が増えるのも面倒だ。
そこでピンと頭にひらめいた。
コロンバイン夫人がすぐにでも飛びついてきそうなものを、私は知っていた。
「獣には、檻が必要ね」
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