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フリーゲ男爵夫人
しおりを挟むテーブルを勢いよく叩いて、私は夫に抗議する。
「どういうことなの!? メイベルを王国に嫁がせるなんて!」
「これ以上ない結婚だ。お前が王国を嫌う理由もわかるが、メイベルの事を考えてくれ」
「あなたよりよっぽど考えているわよ!」
母親である私の許可なく、夫は勝手に一人娘メイベルを王国の男爵に嫁がせた。
なんでも学生時代から懇意にしていた男の息子らしいわ。
なんていうこと!?
あの子はこの国の文官にして、私と共に婦人議会で活躍させるはずだったのに!
そうか。やっぱりこの男も世間に蔓延る害悪共と一緒だわ。
邪悪なホモソーシャルで女を食い物にしているのよ。
物理学者として男爵の座を得たからって何をしても許されると思って……こんな男だとは思わなかったわ。
メイベルもメイベルよ!
どうして母親である私に一言も言わずに王国に行ってしまうの!?
男共の横暴をやすやすと許すだなんて! 恥ずかしい子!
議論をする価値もないと男のいる部屋を出ていく。
いっそ喪服を着てあの子の結婚式に出ていってやろうかしら。
やっぱり王国のせいだわ。
我々公国を冷遇し、隷属化させる王国。そのせいでいつまで経ってもこの国は恵まれないのよ。
あの正妃に成り代わった寝取り女も、いけ好かない公爵令嬢も、王国の人間は皆性根が腐っている。
王国からの侵略を許すわけには行かないわ。
そんな時、コロンバイン様から手紙が届いた。
その手紙には新たな企画について記載されていた。
「ウィメンズランド……」
それはかつてあのいけ好かないベガ侯爵夫人が頓挫したとされている、女だけのコミュニティのことである。
邪悪なる家父長制や性暴力に悩むことなく自立した女性を育む場所を、コロンバイン様が新たに着手して建設しようとしているのだった。
負け犬であるベガ夫人は己の非力を認めたようで、コロンバイン様にウィメンズランド計画を委ねた。その証拠に支援金とウィメンズランドの建築場所となる土地を提供してくれるようだ。
あの下半身が緩いことで有名なサーペン伯爵もだ。
「やっぱりみんなコロンバイン様が正しいってわかってくれたのね!」
私たちを身分が卑しいというだけで蔑んだ連中が指示してるベガ夫人がこうして態度を改めて施してくれたんだ。
これならば公国、いいや王国にも私たちの正しさを示すことが出来るはず。
そうすればメイベルも帰ってくるはずだわ。
いいえ、それだけじゃない。
あのブリジットのように正妃、いいえ、忌まわしいローズマリーもヴィクヘルム様から遠ざけられるはずよ!
そうと決まれば、こんな家から出てコロンバイン様に協力しなくては!
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