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マルス神父
しおりを挟む真夏でもないのに脂汗が止まらない。
教皇様からのお手紙越しに叱責を受け、手が震える。
私はブリジット公爵令嬢との婚約破棄を認め、ギルバート公子とチェルシー嬢との結婚を認めた。
それが公国の総意だと思ったからだ。
現に大公様に頭を下げられたのだ。受け入れるしかなかろう。
こんな結果になると知っていたら、私だって安請け合いなどしなかった。
まさか大公様が不貞行為をするとは。しかも未婚女性ならいざ知らず、名のある学者である男爵の妻というではないか!
机に突っ伏し、何度目か分からない溜め息を吐く。
公国の立場は更に危うくなっている。
宗主国である王国の血を継ぐジブリール公爵令嬢を蔑ろしただけでなく、正妃までも手酷い扱いをして王国へ帰したのだ。
我が国の外交は悲惨そのもので、ほとんどの港が封鎖状態である。
――だからって、私一人に責任があるわけではないだろう。そもそも、肉の業に翻弄された当人のせいでは?
そう自分に言い聞かせ、ハンカチで自分の手汗を拭く。
私は政治家ではない。あとこの事はもう、成り行きに任せるしかないだろう。
結論を出したところで、修道士が慌てた様子でやって来た。
「どうしたのだ」
「申し上げます、ウィメンズランドについて、ご報告が」
ウィメンズランド。
確か次期公子妃のお母上が計画している、女性だけの共同体であったか。
「ウィメンズランドにて、殺人事件が起きました」
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