結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた

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「送り間違えたらしい」

 子どものことに気をとられている間に、クリフが言っていた。

「なんですって?」

 聞き間違えたかと思った。

「兄の言ったことをそのまま伝えると、『送り先を間違えたんだ。その更新書は、いわゆる真に愛する人に送るつもりだった。実家に送るはずだったのは、金を送れというメモだ』、だそうだ」
「……」

 ほんのひととき、言葉がでなかった。というか、クリフの言ったことを整理するのにほんのわずか時間が必要だった。

「そう」

 まずは、それしか答えようがなかった。

 大広場の向こう側では、大道芸人たちがパフォーマンスをして聴衆をわかしている。

「送り間違えた、ね。だけど、それはそれで問題じゃないかしらね?」
「きみの言う通りさ」

 クリフもまた、向こう側を見つめたまま言った。

「それで、すべて調べておいた。それから、いろいろ手配をしたよ。事後報告になって悪いけれどね。もちろん、きみの実家にも使いをやった」
「なんですって? どうしましょう。両親はともかく、兄は怒り狂うわ」

 口ではそう言ったけれど、言葉ほど「どうしましょう」とは思ってはいない。

「それでだ、レミ。収穫祭が終わったら、いっしょに王都に来てくれないか? 忙しいことはわかっているけれど、いろいろけじめをつけたい。そして、決着をつけなきゃ、だから」

 クリフがこちらを見つめているので、わたしも彼の目を見た。

 見惚れるほどのルビー色の瞳は、なんともいえない光を帯びている。

「そうね。こうなった以上、ちゃんとしなきゃね。わたしが悪かったのかしらね?」

 溜息しかでない。

「いや。きみのせいじゃない。兄は、いや、あのろくでなしは、きみを利用するだけ利用しているだけだ。契約結婚の相手とは、きみと結婚する前からの付き合いだ。きみには、最初から領地経営と両親の面倒をみさせるつもりだったんだろう。そして、自分は王都で贅沢三昧の勝手のし放題。しかも、不貞を働きまくっているわけだ」
「とはいえ、まったくわたしに非がないわけではないわね。というか、いまのいままで気がつかなかったわたしが間抜けだった、ということよ」

 厳密には、夫は浮気をしているだろうと思っていた。とはいえ、それをどうこうしようとまでは思わなかった。火遊び程度だと思っていたし、わたし自身彼に愛情どころかいっさいの思い入れがなかったからだ。

 それがこれほど重大かつ最悪な結果を招くことになるとは、さすがのわたしも思いもよらなかった。

「ちょうどいい機会だから、きみには話しておくよ」

 すこしだけ落ち込んでいるわたしに、クリフは彼自身の秘密を話してくれた。
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